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通信事業者には複数の技術やサービスで「1つのネットワーク」を構成するビジョンが不可欠──エリクソンの担当者に聞く

2013.03.15

Updated by Naohisa Iwamoto on March 15, 2013, 16:00 pm JST

Mobile World Congress 2013(MWC 2013)でネットワークのインフラからアプリケーションまでさまざまなソリューションを展示していたエリクソン。その会場で、無線アクセスの専門家であり、エリクソンで無線アクセス戦略およびビジネス開発の責任者を務めるセバスチャン・トルストイ氏にインタビューを行った。LTE時代から先に通信事業者が見通すべき投資のビジョンとはどのようなものか、エリクソンの専門家が語る。

▼セバスチャン・トルストイ氏 Sebastian Tolstoy, head of radio strategy and business development at Ericsson
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──LTEサービスが世界中の多くの通信事業者で始まりました。それではLTEサービスを立ち上げた通信事業者は、これから先はどのような点に注目して投資をしていなかければならないと考えますか。

トルストイ氏:スマートフォンが急速に普及してきたことから、データ通信のトラフィックは今後5年間で14倍にも上るという試算があります。LTEサービスを立ち上げた通信事業者は、継続的にトラフィックの増加に対応する投資をして行かなければなりません。エリクソンでは、トラフィック増加に対して、3つのアプローチがあると考えています。

──そのアプローチを具体的に教えて下さい。

トルストイ氏:1つ目は、マクロネットワークのレイヤでの施策です。マクロネットワークのレイヤでたくさんの周波数帯を利用できれば、キャパシティの増加が見込めます。複数の周波数帯を束ねて使うキャリアアグリゲーション(参考情報)は、周波数帯を広げるための有効な技術です。また、3Gの場合は例えば1.5GHz帯をダウンリンクに補助的に使うといった方法もあるでしょう。マクロネットワークのレイヤでの改良は、コスト効率を求めるものから、ネットワークのキャパシティを改善するための投資にシフトしていくでしょう。

2つ目は、基地局の高密度化を進めることです。1つの基地局のキャパシティを高めることで、トラフィックを吸収するのです。このアプローチに対して、エリクソンは「Antenna Integrated Radio」(AIR)を提案しています。AIRは、無線機一体型のアンテナで、4×4 MIMO(参考情報)に対応します。4×4 MIMOで無線通信容量を増やすだけでなく、無線機を一体化したことでRF信号の減衰を防ぐ効果も高くなります。AIRを使うことで基地局のキャパシティを約70%増加させられるという数値を得ました。

3つ目は、スモールセル(参考情報)のソリューションです。そこで重要なのは各種のスモールセルを協調制御するアプローチだと考えています。Wi-FiホットスポットやLTEフェムトセルを、マクロネットワークから隔離してしまうのはリスキーです。エリクソンでは「One Network」と呼ぶコンセプトで、スモールネットワークもマクロネットワークも統合して協調制御するネットワーク構成を提案しています。その1つのソリューションが、Wi-Fiをマクロネットワークとインテグレーションする手法です。そうすることで、Wi-Fiが追加の周波数帯として使えるようになり、補完的なアクセス手段の役割を果たします。

──マクロセルとスモールセル、3G/LTEとWi-Fiなど異なる種類の通信技術を組み合わせるときに、注意すべき点は?

トルストイ氏:異なる方式による通信や、マクロセルとスモールセルを組み合わせてサービスを提供するときに重要になるのは、モビリティの確保です。

エリクソンはMWC 2013の会場で、Wi-Fiとモバイルネットワークの間のモビリティを負荷ベースで実現するデモを展示しました。Wi-Fiの負荷とモバイルネットワークの負荷から期待されるネットワークのスループットを予測して、条件の良いネットワークに切り替えるものです。端末は変わる必要はありません。このデモを見たいくつかの通信事業者の来場者は、「こんなことができるならフェムトセルを導入しなかったのに」とコメントしていました。それほど、現実に求められているソリューションだと思います。

また、サービスベースのモビリティも考える必要があるでしょう。例えば、データ量がさほど多くないWebブラウジングは3Gで、高トラフィックが予想されるYouTubeはLTEで――といったモビリティです。これは通信の種類を検出するDPI(Deep Packet Inspection)の技術を応用して、無線ネットワークを制御する技術です。エリクソンはこの技術を2013年にリリースする予定です。

トラフィックは爆発的に増えるので、それぞれの要素技術の進化も必要です。MWC 2013のエリクソンブースでは、LTEで1Gbpsの高速通信を実現するデモを行っています。これは8×8 MIMOとキャリアアグリゲーションを適用したもので、エリクソンの技術がリーダーシップを持っていることを理解してもらえると思っています。

──通信事業者が他社との差異化を図るためには、どのような点を見極める必要がありますか。

トルストイ氏:新しいサービスがどんどん固定網から移動体へ流れてきています。例えば放送事業者が、AndroidやiOSのアプリでライブ放送を見ることができるようなサービスを提供するようになっています。そういう時代には、ネットワークパフォーマンスの必要性がこれまで以上に高まります。

アップルやグーグルのようなサービスだけを提供するOTTプレーヤーは、どんどんサービスの内容を進化させています。それと連動するように、ネットワークに多くのキャパシティを要求するようになっているのも事実です。

通信事業者が他社との差異化を図るためには、最高のパフォーマンスを達成し、OTT(参考情報)プレーヤーや最終的にサービスを利用するユーザーにとってよりよいサービスを提供することが重要になるわけです。
エンドユーザーが通信事業者を乗り換えるときの理由のトップ5のうち、3つが「カバレッジ」「キャパシティ」「体感速度」だといいます。たとえば米ベライゾン・ワイヤレスや豪テルストラは、ネットワークへの投資を集中してユーザーの体感を向上させ、顧客満足度のアップさせることに成功しました。これは財務的な状況の改善にも直接つながります。

──ネットワークのパフォーマンスを向上させるための最善の手段はあるか。

トルストイ氏:何か1つの手を打てば解決できるといった、魔法の箱はないと思います。国によっても通信事業者によっても対応はことなるはずです。

例えば、割り当てられた周波数が相対的に少ない事業者ならば、効率の高い進んだテクノロジーを導入することでパフォーマンスを改善させることができるでしょう。一方で、周波数が潤沢にある事業者ならば、最新の技術を使わなくても高いキャパシティのネットワークサービスを提供できます。一概には言えないのです。

冒頭に挙げた3つのアプローチは、複数の異なる方式を組み合わせてネットワークを構築するHetNet(参考情報)の考え方に対応するものです。

このアプローチは、どの通信事業者に対しても対策として考えられます。そして、2Gから3G、LTEのすべてに適用できるのです。各種のアクセス技術を統合していく「One Network」につながります。エリアのカバレッジは2G、安価な端末も増えて広まる3G、そしてこれから急増していく4G。これらをすべてHetNetのコンセプトに当てはめて、考えて次のネットワーク作りを考えていくといいのではないでしょうか。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。