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クラウドファンディングに対する日米の態度

2013.05.06

Updated by Mayumi Tanimoto on May 6, 2013, 08:12 am JST

ネットで不特定多数の人が力を合わせる動きがボストン爆破事件の犯人探しで注目を集めましたが、クラウドファンディングも大きな注目を集めています。被害にあわれた方へのお見舞金が、凄まじいスピードで集まっているのです。4月下旬の時点で、約2億4千万円ほどの寄付が集まりました。

例えば、爆破事件で大怪我を負ったCeleste さんとSydneyさんむけのお見舞いファンドである Celeste & Sydney Recovery Fundは、立ち上げ初日に20万ドル(約2千万円)を集め、4月29日の時点で約67万ドル(約6700万円)が集まりました。びっくりするのは、お見舞金集めにあたって、二人の犠牲者の方の回復する様子が事細かくサイトで公開されていることです。また寄付者の多くも実名でコメントを寄せています。

様々な新聞で報道され、事件の象徴的な被害者となったJeffrey Baumanさんのお友達は、BUCKS FOR BAUMAN!を立ち上げます。4月29日現在で、約72万ドル(7200万円)が集まっています。こちらも、Celeste さんとSydneyさんと同じく、家族や友達が実名でコメントや写真を掲載し、多くの人が実名で寄付をしています。

どちらのケースも、驚かされるのが、犠牲者の方自身や、家族や周囲の人には悲壮感がなく、前向きなことです。足を切断するという大怪我を追ったにも関わらず、手術してすぐに芸能人やお見舞いの方と病室で話したり、患者の心を和らげるために動物セラピーセンターからやってきたセラピー犬と交流する姿なども公開されています。

私は家族が交通事故で死にかける寸前、という状況になったことがあるので、この大怪我なのにも関わらず、家族も周囲の人も前向きに回復に取り組む様子に大きな衝撃を受けました。私の家族だったら、あまりのショックで、喋ることさえ無理でしょう。この様に前向きになれるのは、家族や友達だけではなく、不特定多数の人の励ましや支えがあってのことでしょう。

さらに、驚かされるのが、家族や友達が実名で様々な書き込みをしている上、寄付用の銀行口座や手紙の送付先を公開していることです。寄付する人も実名です。実名が当たり前なのです。なぜ実名で平気なのか。それは、嫌がらせやイジメなどの危険性がないからでしょう。アメリカのネットユーザーには、最低限のモラルがあるのかもしれません。

我が母国日本で似た様なことをやったらどうなるでしょうか。「寄付を募るなどけしからん!」と、大量のネットイナゴが湧いて、サイトにありとあらゆる罵詈雑言を書き込む様な気がします。そして、家族は、事故のことで大変なのにも関わらず、ネットイナゴの対処で大変な心労を追うことでしょう。

日本にも助けが必要な人は大勢いるはずです。しかし、クラウドファンディングなどで寄付を募る人は多くはありません。震災の被害者に関しては殆ど見たことがありません。寄付をする文化というのがないからかもしれませんが、はやり怖くてできない、という理由もあるのではないでしょうか?

そもそも日本では実名でネットをやると、匿名の人からありとあらゆる嫌がらせや、犯罪スレスレの被害に遭うのです。それは、実名で執筆活動をしていたり、顔を公開している有名人や著述家の人であれば、多かれ少なかれ経験があることです。お金が絡んだら、そういう嫌がらせがエスカレートすることが目に見えています。

ネットで有名人や、名もない一般人のことをネチネチと虐めることに人生を使うのは、誠に悲しいことです。アメリカのクラウドファンディングの様に、ネットをもっと前向きなことに活用することが増えることを期待しています。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。