Wireless Japan 2013の基調講演レポートの後編では、ノキア シーメンス ネットワークスとZTEのモバイルネットワークへの取り組みを紹介する。エリクソンとファーウェイについては前編を参照されたい。
ノキア シーメンス ネットワークスCEOのユハ・ペッカ・タカラ氏は、ひとり1日あたりのモバイルデータ通信量が1GBを超える時代に向け、「ノキア シーメンス ネットワークスはモバイルブロードバンドのスペシャリストになる」という宣言と、そのための3つの柱「フォーカス」「イノベーション」「品質」について紹介した。
▼1GB/Dayの時代は日本では2017年、全世界では2020年に来ると予測。
まず、フォーカスするマーケットとしては、イノベーションの先端を走る米国・日本・韓国の3カ国を挙げた。全世界のLTE加入者1億人のうちこの3カ国で8割を占める。これらの国の動向を追うことで製品やサービスへのニーズを把握し、他の市場をサポートする。
イノベーションとしては、「1GB/dayでも利益を出せるネットワークを実現する技術」として、Liquid Netを紹介した。マイクロサイトとスモールサイトで周波数に関係なくキャパシティを配分するベースバンドプーリング技術や、コア装置の統合により、タイムリーに必要な場所にフレキシブルにキャパシティを配分する。
▼時間によって変動するトラフィック分布に柔軟に対応する。
また、別のイノベーションの例としては、基地局にコンテンツを配置するLiquid アプリケーションを紹介した。ネットワークの末端にある基地局に情報を蓄積することで、ネットワーク利用の効率化やよりパーソナライズされたサービスの提供が可能になる。
▼基地局にデータを蓄積することで、位置情報と連動したサービスなどが柔軟に展開可能。
3つめの柱となる「品質」については、日本市場で学んだ品質の重要性を強調。社のDNAとして品質の重要性を根付かせるための取り組みとして、2015年までにソフトウェアリリースから不具合をゼロにする「バーチャル・ゼロ」への取り組みを紹介した。
最後に、日本市場へのコミットメントとして、いつでもどこでも携帯電話がつながるように取り組むとした。また、その例として、基地局用のメタノール水素燃料電池を紹介。災害時のもっとも通信が必要な時に48時間の基地局運用が可能になる。
ZTE Corporation CTOのデビット・アン氏は、10年で1000倍になると予測されるトラフィックの増大に伴い、ビジネスモデルが端末中心からクラウド中心に変わりつつあることを指摘。アップルストアやGoogle Playによるサービス、TwitterやFacebook、QQなどのOTT(参考情報)が通信事業者のネットワークに「ただのり」して通信事業者から利益を奪っているとした。
通信事業者はスマートパイプの実現やノンコアビジネスへの進出で利益を補おうとしているが、それでも1000倍のトラフィックに対して1000倍の収益を上げることはできず、大きな問題である。
1000倍のトラフィックに対応するためには、周波数を増やすか周波数の利用効率を上げるしかない。周波数はせいぜい2倍程度にしか増やせないので、利用効率を上げるためにLTEの導入と小セル化が必要となる。
スモールセル(参考情報)は密に周波数を使うことができるのでキャパシティをあげることができる。また、使用する周波数が現在の1.8GHz~2.5GHzよりも高い、3GHz~4GHz帯を使用するようになると、さらに小セル化が進む。
小セル化により発生するのはセル間の干渉の問題である。GSMでは周波数を変えることで、CDMAでは識別符号を変えることで干渉の問題に対応してきたが、LTEでは干渉を制御するアルゴリズムはあるもののあまり効率がよくない。
このことはセルエッジのユーザーに大きく影響する。音声通話はSMSではそれほど問題にならなかったが、動画ストリーミングのようなコンテンツの場合問題となる。
ZTEのクラウドラジオでは、1ミリ秒の間隔でリソースのスケジューリングを行う。ローカルなスケジューラーがセルレベルでリソースブロック、使用時間、電力などのスケジューリングを行っており、同時に全体のコントロールも行う。
▼クラウドラジオの概要。
従来型のセル間協調では、ノード同士が対話するが、クラウドラジオでは1か所からコントロールを行う。高速なスケジューリングにはダークファイバーの利用が適している(必須ではない)。
クラウドラジオによって、境界のないネットワークが実現できる。ユーザーエクスペリエンスの改善効果は、基地局の近くよりもエッジの近くの方が大きい。
▼基地局に近いユーザーのスループットは13.1%向上したのに対し、セルエッジ近くのユーザーのスループットは182.4%向上している。
また、ZTEのクラウドラジオは、前もって設定された固定的なクラスタではなく、ユーザーの周辺にあるセルが協調する「クラウドコーディネーション」で動作する。ソフトウェアハンドオーバーと同様の効果が期待できる。
▼中国でチャイナ・ユニコムと共同で行った実証実験では、静止している端末で126.89%、移動している端末で82.04%、スループットの向上が見られたことを紹介。
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登録はこちらWirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。