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ソフトバンクによるスプリント買収までの経緯まとめ

2013.06.26

Updated by Asako Itagaki on June 26, 2013, 08:31 am JST

▼スプリント・ネクステルの報道発表資料
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ソフトバンクは、同社によるスプリント・ネクステル(以下スプリント)の買収について、6月25日(米国時間)行われたスプリントの臨時株主総会において株主の承認が得られたことを発表した(関連記事)。WirelessWire Newsでは2012年10月に両社の交渉が明らかになった時から状況を報じてきたが、あらためて経緯をまとめておく。(なお、本記事は6月25日に配信したメールマガジンを元に再構成しているため、一部の読者の皆様には再掲となることをお許し願いたい)。

ソフトバンクによるスプリント買収までの経緯

2012年10月11日に日経新聞その他で「ソフトバンクが米国第3位の通信事業者買収にむけ交渉」という報道。スプリントは最初から認めたがソフトバンクはひとまず「確定した事実はない」としたものの、10月15日、孫社長とダン・ヘッセCEOが記者会見を行い。正式に買収が発表された。

スプリント、ソフトバンクとの「交渉の事実」認める(2012/10/12)
ソフトバンク、米スプリントの買収を正式発表 世界3位の移動体通信事業者へ(2012/10/15)
 
米司法省からは安全保障等についての問題についてのレビューが必要ということでFCCに対して保留が要請される。懸念の要は「中国製の通信機器が米国の通信網に入ってくることをどうやって阻止するか」という点である。当然その点は両社とも意識しており、合併発表直後に「スプリントでファーウェイの通信機器は使わない」と表明していた。

「スプリントではファーウェイの通信機器は使わない」:孫社長、ヘッセCEOが会見で(2012/10/22)
ソフトバンクのスプリント買収計画、米司法省がFCCに判断保留を要請(2013/1/30)
 
米国議会の本音は「導入を禁止」したかったのだが、明確にそのように規定するのは貿易協定違反になるので監視体制を確立するという方向へと向かう。ソフトバンクとスプリントは議会に対して、導入しないことを確約していたことが判明している。

ソフトバンクとスプリントに圧力 - 中国製通信機器の導入阻止に動く米政府(2013/3/29)
ソフトバンクとスプリント、「中国製通信機器は利用せず」- 米政府・議会関係者に確約(2013/4/1)

ところが4月になって、後述するクリアワイヤ買収でスプリントのライバルになっていたディッシュから、スプリントに対して買収提案が行われた。これに対しソフトバンクは強気の姿勢でコメントする。

米ディッシュ、スプリントに255億ドルの買収提案 - 混迷深まる米携帯通信市場 (2013/4/16)
ソフトバンク、スプリント買収は「7月1日に完了する見込み」とコメント(2013/4/16)
 
ディッシュの攻めどころはやはり「安全保障上の問題」つまりソフトバンクと中国ベンダーの関係である、これに対してソフトバンクは新生スプリントの取締役任命権を米政府に与えたこと、またクリアワイヤからも中国製通信機器を排除することを確約することで対抗したと報じられる。

ソフトバンクとディッシュとの「水面下の攻防」激化 - スプリント買収をめぐって(2013/5/24)
 
ちなみにクリアワイヤはTD-LTEネットワーク構築にあたり、、ファーウェイからの調達を行う方針を明らかにしていた。

クリアワイヤ、ファーウェイ製品採用へ - LTEネットワーク構築で(2012/10/29)
 
結果、5月末から6月にかけ、対米外国投資委員会と米司法局が「安全保障上の問題はない」としてソフトバンクによるスプリント買収を承認。

ソフトバンクの米スプリント買収について、対米外国投資委員会が承認(2013/5/29)
ソフトバンクのスプリント買収計画、米司法省が承認 - T-モバイル買収の「代替案」も明るみに(2013/6/10)

とはいえ、株主には買い取り価格に関する不満がまだくすぶっており、ソフトバンクはスプリントの買収価格を引き上げた。

ソフトバンク、スプリントの買収価格を引き上げ -216億ドルを新たに提示- (2013/6/11)
 
これを受けて、ディッシュはスプリントの買収断念を表明した。

ディッシュ、スプリントの買収を事実上断念 - 今後はクリアワイヤ獲得に重点 -(2013/6/19)

このたび、スプリントの株主総会でソフトバンクによる買収が承認されたことで、あとはFCCによる最終承認を残すのみとなった。

スプリントが目指すクリアワイヤ買収

関連する話題として、スプリントによるクリアワイヤ買収についてもこれまでの経緯をまとめておこう。スプリントはクリアワイヤの大株主であり、かつクリアワイヤはWiMAXからTD-LTEに移行することを表明していた。TD-LTE陣営のソフトバンクがスプリントを買うといえば、当然クリアワイヤを傘下に収めることも視野に入れているだろうという見方は当初からあった。

ソフトバンク、米携帯通信業界再編の引き金となるか - 第一の焦点はクリアワイヤ -(2012/10/12)
 
スプリントは、いったん買収を否定したものの、実際は過半数取得に向け株を買い増ししていたことが報じられる。

スプリント関係者、クリアワイヤ買収の可能性をひとまず否定(2012/10/17)
スプリント、クリアワイヤ株式の過半数を確保 - ソフトバンクとの統合に向け懸念払拭へ - (2012/10/18)
 
12月には完全買収を視野に入れていることが判明。この時点で、ソフトバンクは最大一株2.97ドルを提示していた。

スプリント、クリアワイヤの完全買収を視野に - 大口株主各社と活発な交渉 -(2012/12/12)
スプリントのクリアワイヤ買収提案、ソフトバンクが株式買取上限価格を指示 -(2012/12/17)
 
そして12月18日にはスプリントとクリアワイヤが合意と報じられ、完全に話は決着したかと思われた。

スプリントの買収提案にクリアワイヤが合意 - 買取金額は約22億ドルに -(2012/12/18)

ところが年明けに、ディッシュがクリアワイヤにスプリントを上回る1株あたり3.3ドルで買収提案を行ったことが判明。

スプリントのクリアワイヤ買収に横槍 - ディッシュがクリアワイアへ買収提案 -(2013/1/9)

ちなみにディッシュは、テレビ放送用の電波を大量に所有しており、この電波を転用して携帯電話通信事業に参入をもくろんでいた。そのために通信事業者などと提携を模索しており、一時はスプリントとも提携に向け交渉中とも言われていた。

米ディッシュ、新たな携帯通信網展開でグーグルなどに打診 - スプリントとの摩擦も(WSJ報道)(2012/11/16)
スプリント、ディッシュに接近 - 提携に向けた交渉が進行中(Bloomberg報道)(2012/12/10)
 
ディッシュの提案を受けて、当然、株主からは「もっと高く売れ」と圧力がかかる。クリアワイヤの取締役会は、いったんはスプリント支持を表明したが、株主からの買い取り価格に対する不満には配慮せざるをえず、スプリントは一株あたりの買い取り価格を3.4ドルに引き上げた。

スプリントにクリアワイヤ株主から圧力 - 株式買収価格引き上げの可能性(Bloomberg)(2013/1/29)
 ・クリアワイヤ取締役会、スプリントによる買収提案支持を株主に要請(2013/5/7)
スプリント、クリアワイヤの株式買取価格を引き上げ - 1株3ドル40セントに (2013/5/22)
 
一方のディッシュはさらに株式買い取り価格をさらに引き上げて対抗。そしてこの提案を受けクリアワイヤの取締役会がディッシュの買収提案を支持する方針を示したことで事態はさらに泥沼へ。6月13日に予定されていた株主投票は延期された。

ディッシュ、クリアワイヤの株式買取価格をさらに引き上げ- 1株4ドル40セントに(2013/5/31)
クリアワイヤ取締役会、ディッシュの買収提案を支持へ - 株主投票は延期に - (2013/6/13)

スプリントは、既にスプリントが保有している株数を考慮すると、クリアワイヤによる買収提案は実現不可能であるにもかかわらず提案されている点などを問題視して、ディッシュを提訴。またさらに、クリアワイヤ株の買い取り価格を5ドルに引き上げた。この提案をクリアワイヤの取締役会は支持。また、大株主も多くが賛同を示しており、ディッシュはかなり厳しい立場に追い込まれたとされている。

スプリント、ディッシュを提訴 - クリアワイヤの買収阻止へ(2013/6/18)
スプリント、クリアワイヤ買収で「王手」 - 買取条件を1株5ドルに引き上げ -(2013/6/21)

ここまでの経緯は以上である。6月21日に開催されたソフトバンクの株主総会で孫社長は「大きな進展」と評価している。この後、クリアワイヤが7月8日に予定する臨時株主総会で、株主投票が行われる予定だ。

【報道発表資料】
スプリント買収に関する同社株主の承認取得に関するお知らせ(ソフトバンク)
Sprint Shareholders Overwhelmingly Approve Merger Agreement with SoftBank(スプリント)

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。