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無給電ワイヤレス、アンビエント・バックスキャター

2013.08.30

Updated by Kenji Nobukuni on August 30, 2013, 17:00 pm JST

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現代社会で暮らす我々は、目に見えない電波に常にさらされている。ラジオ放送、テレビ放送などの放送波、携帯電話や無線LANなどだが、テレビ塔などから四方八方に電波を発しても、そのすべての電磁波がテレビの受信機で受け取られるわけではなく、反射したり、干渉したりしながら長い距離を飛んで減衰していく。

放送波や携帯電話の電波を利用して、放送や通話の内容とは無関係のワイヤレス通信を実現する研究をワシントン大学(米国ワシントン州シアトル)のエンジニアたちが行っている。

彼らはその技術を「アンビエント・バックスキャター(ambient backscatter)」と呼んでいる。あえて訳すと物理用語で「環境後方散乱」や「周囲にある背景の散乱」などといった固い言葉になるが、ポイントは、電池が不要であること。すでに別の用途のために存在する無線信号を電力源として、さらには通信の媒体として再利用して、低速ながらも電源不要の通信を実現しようというものだ。

プロトタイプでは、大きめのアンテナで電磁波のエネルギーを取り出し、クレジットカード大のデバイスで送信する情報をモールス信号的なコードにして、同じ電波に重ねて送り出し、同じ形状のデバイスに受信させている。屋内では約46センチ、屋外では76センチの距離で、1kbpsの伝送速度を実現しているという。低速だが、環境センサーの計測値やテキストメッセージを送ることは十分に可能。センサーをさまざまな場所に置いて環境計測を行う場合などに、バッテリー交換の心配なく使い続けることができる(実際には、遠距離の伝送ができないので、いくつかのセンサーを束ねる中継装置が必要で、その装置にはしっかりした電源が必要となるはずだが)。

実験ではスーパーマーケットの中で、商品のタグにこの技術を埋め込んで、商品が所定の位置からどれだけ離れているかを計測し、在庫管理や陳列場所の管理を行うという用途が試されているほか、災害で停電した場合に使えるセンサーなど、幅広い使い方ができると研究者たちは期待しているようだ。

電磁波のほかにも、橋が振動するとか、自動車が熱を発するとか、室内を照明器具で照らすとか、人が熱を発するとか、身の回りにはさまざまなエネルギー源があり、それを取り出す技術をエネルギー・ハーベスティング(energy harvesting)と言って、ここ数年、注目を集めている。「アンビエント・バックスキャター」は、エネルギー源とするだけでなく通信を媒介するためにも放送や携帯の電磁波を使っているそうだ。

【参照情報】
Wireless devices go battery-free with new communication technique(ワシントン大学のニュースリリース)
Battery-free wireless brings Internet-of-things closer
Researchers develop battery-free wireless communication system

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信國 謙司(のぶくに・けんじ)

NTT、東京めたりっく通信、チャットボイス、NECビッグローブなどでインターネット関連の事業開発に当たり、現在はモバイルヘルスケア関連サービスの事業化を準備中。 訳書:「Asterisk:テレフォニーの未来