アフリカ編2013(3)中古端末からグローバルメーカーまで揃うアフリカの端末
2013.09.26
Updated by Hitoshi Sato on September 26, 2013, 22:00 pm JST
2013.09.26
Updated by Hitoshi Sato on September 26, 2013, 22:00 pm JST
アフリカにおける携帯電話市場の特徴を携帯電話端末の観点から見ていくと、以下の3つの特徴が挙げられる。
(1)中古端末が多い。
(2)中華系メーカーが多く参入してきている。
(3)アフリカにおいて地場メーカーが登場してきている。
もちろん、サムスンやアップルといったグローバルメーカーの端末も中古、新品を含めて多く見かけるが、本稿では上記にあげた3つの観点からそれぞれの特徴を見ていきたい。
アフリカ大陸では中古の携帯電話端末が市場で大量に流通している。アフリカでは日本のようにSIMカード(回線契約)と携帯電話をセットに販売していることは非常に少ない(そのような販売をしているのはポストペイド方式が多い)。そのため、上述のようにSIMカードはプリペイドで購入し、そのSIMカードを端末に挿入して利用するという使い方である。端末も日本のように通信事業者の専用のSIMカードを挿入しないと利用できないものではなく、いわゆるSIMフリーな端末である。中古端末はアフリカで現地の人が利用していた端末が中古として出回ることもあるが、欧州や中近東からも大量に流入してくることが多い。いまだに電話(音声通話)とSMS(ショートメッセージ)のみが利用可能な携帯電話端末も中古端末市場では大量に出回っている。
欧州では2000年代初期から第3世代(3G)携帯電話が登場し、普及していった。当時欧州で第2世代(2G)の携帯電話から3Gに乗り換えて、2Gの端末がアフリカに中古端末として多く流出したと思われる。アフリカでの携帯電話加入者が1億を超えた2005年頃には欧州から大量の中古となった携帯電話が流入し、そのような中古端末がアフリカでの携帯電話加入者数の増加を後押ししたのだろう。アフリカでは日本のように携帯電話(端末)とSIMカード(回線)がセットでないため、中古端末を家族や友人から貰ったり、プリペイドのSIMカードを購入して携帯電話を使い始めるという人は多い。特に若い人は親から携帯電話を貰うことが多い。2007年から2008年頃に出荷されたiPhoneやAndroidの初期のスマートフォンも中古品として大量にアフリカで流通している。
(図1)アフリカ携帯電話加入者数の推移と普及率(※画像をクリックして拡大)
(Avitanetworks(2011)を元に筆者作成)
アフリカ市場では中国のメーカーの活躍が著しい。そこにはHuawei(華為技術)やZTEといったグローバルメーカーがネットワーク基地局から端末、コンテンツまで提供していることもある。HuaweiやZTEの端末はアフリカでもハイエンドの端末である。例えば、Huaweiのスマートフォン「IDEOS」がケニアで2011年に80ドルで販売されており、1日 2ドル未満で生活する人が人口の40%以上を占めるケニアにおいて既に 35万台以上も売れていると報じられた *1。 2011年Q1には、10万台販売され、ケニアのスマートフォンシェアの45%に達したとのこと。ケニアでは、80ドルの「IDEOS」は相当ハイエンドな端末といえるだろう。
*1 Singularity Hub(2011) Aug 16,2013 "$80 Android Phone Sells Like Hotcakes in Kenya, the World Next?"(最終確認日2013年8月15日)
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一方でアフリカ市場向けに特化して進出している中華系メーカーも多い。グローバルな知名度は低くとも、アフリカ市場においては広告活動を行っておりブランドを確立されつつある。エチオピアは人口約8,300万で携帯電話加入者数は約1,980万(普及率約23%)であることから、これからも成長の余地が高い。そのエチオピア市場に目をつけて積極的に進出しているのが中華系メーカーである。彼らはエチオピアでの携帯電話の製造を開始している。市場に近いところで製造しているため、すぐにマーケットに流通させることができる。更にエチオピアでの雇用創出にもつながっている。その代表的な中華系メーカーが以下の2社である。
(1)香港「Tecno」
香港の携帯電話メーカー「Tecno」は2006年7月に香港で設立された携帯電話メーカーで2008年からアフリカをメインターゲットとしており、エチオピア以外でもナイジェリア、ケニア、ガーナなどで事業展開しており、アフリカ市場において、ローエンドからハイエンドまでの端末を供給しており、アフリカではよく見かけるブランドになっている。同社は、2012年夏にエチオピアで携帯電話の現地での生産を開始した。今後、同社では約400ドルのAndroid OS搭載のスマートフォン「Tecno T3」というハイエンド端末をエチオピアで製造し市場へ投入する予定である。平均月収が約23ドルで、国民の大半が1日1ドル以下で生活をしているエチオピアでは相当に高い端末である。2012年6月には南アフリカに本拠地を置きアフリカの多くの国で事業展開を行っている通信事業者MTNと提携してナイジェリアで端末販売のキャンペーンを実施した*2。
(2)中国「SMADL」
2007年5月に中国の深センで設立された携帯電話メーカー「SMADL」もエチオピアで携帯電話製造を行っている。同社も2008年からアフリカ市場に注力しており、ケニア、モロッコに支店を持っている。同社は2012年に8機種リリースしている。
(図2)SMADL社製造の「M1000」(左)と「S1」(右)
(出典:SMALD)
*2 Tecno Telecom(2012)Jun 13,2012, "TECNO & MTN Cooperation starts in Nigeria"(最終確認日2013年8月15日)
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日本ではアフリカの地場メーカーは馴染みがなく、ほとんど知らない人の方が多いだろう。しかし携帯電話はもはやコモディティ化してきておりアフリカのメーカーが登場し、現地で販売されている。以下にアフリカを代表するメーカーを記す。
(1)急成長するMi-Fone
Mi-Fone(マイフォン)はアフリカのウガンダ出身でインド系のAlpesh Patel氏が2008年4月に設立した新しい会社である。彼は自らのことを"Indian Blood...African Heart"(インド人の血が流れているが、心はアフリカ)と称している。
2008年の設立以降、現在までにアフリカ12カ国(アンゴラ、コートジボワール、コンゴ、ガンビア、ケニア、モーリシャス、ナイジェリア、ルワンダ、セネガル、南アフリカ、タンザニア)にストアがあり端末販売をしている。とはいえ、携帯電話はもはやコモディティであり、アフリカをはじめとする新興国では中古品市場が盛況なため、これら12カ国以外でもMi-Foneの端末は見かけるようになった。インドやフィリピンでも多く出回るようになった。
そして設立から3年目の2011年までには100万台の携帯電話を出荷している。Mi-Foneは2017年までに5億台の携帯電話出荷をミッションとして掲げている。Mi-Foneは既に14機種の端末をリリースしている。アフリカの市場特性に合わせて2Gのみに対応した端末もある。ローエンド端末はMediaTekのチップをベースに開発している。約20〜50ドルの価格レンジである。Android OS搭載のスマートフォンも2機種リリースしており、それらが約80ドルである。
Mi-Foneの主要市場はアフリカである。アフリカではまだ高くて高機能な端末は高嶺の花である。彼らはそのようなアフリカ市場でも受け入れられるような価格設定を行い、かつデザインや仕様でも見劣りしないような製品開発を行っている。アフリカ市場の特性を活かした端末開発を行っているMi-Foneが開発した端末として、バッテリー持続が60日間という「Mi-3000」がある。アフリカでは携帯電話が急速に普及している。しかし都市部を離れると電気さえ満足に通っていない地域がまだ多数ある。そのような地域でもの多く人が携帯電話を保有している。彼らは充電するために、乾電池の充電機をよく利用している。乾電池の充電機で充電したまま電話をしたり、SMSを送受信している人もよく見かける。Mi-3000ではフル充電すれば60日間はバッテリーが持つのである。電気がほとんど通っていないルーラル地域の人々にとっては非常に有益な端末であろう。
さらに、Mi-3000ではOpera Miniブラウザを搭載しているため、インターネットへのアクセスも可能である。アフリカのルーラル地域で電気も不足している人々の生活を大きく変えようとしている。
Mi-Foneでは、"Mi-Fone...The FIRST African Mobile Devices Brand." という標語を掲げて、アフリカでのブランド浸透に取り組んでいる。さらにはアフリカの歌手や俳優を起用して宣伝活動を行っている。テレビ広告の中では、"In Africa we have more fun than in Finland"というメッセージもあり、フィンランドのメーカー(Nokia)への対抗を表している。
(図3)Mi-Foneの「Mi-3000」(左)とAndroid OSスマートフォン「Mi-A200」(右)
(出典:Mi-Fone)
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(2)アフリカ初のタブレット端末:コンゴ共和国VMK
2012年1月30日、コンゴ共和国のベンチャー企業VMKからAndroid OS搭載のタブレット「Way-C」が発売された。コンゴ共和国のVMKは、コンゴ共和国の首都ブラザヴィルにあるスタートアップのメーカーである。
「Way-C」はコンゴ共和国で設計され、組み立ては中国のメーカーが行った。コンゴ共和国には組み立て工場がまだないからだ。3G/WiFi対応、4GBのメモリー、 1,2GHzのプロセッサー、512MBのRAMで300ドル。1人あたりのGNIが約2,000ドルのコンゴ共和国ではスーパー・ハイエンド端末である。組み立て、製造が中国であるが「アフリカ初のタブレット」と呼ばれている。
「Way-C」の開発は2006年から着手され、VMK社が8,000万CFAフラン(約122,000ユーロ/約1,220万円)投資してきた。発売当初は、コンゴ共和国通信事業者Airtel Congoのストアでのみ購入が可能だった。2012年2月15日以降、コンゴ共和国以外に、ケニア、ガボン、カメルーン、セネガル、コンゴ民主共和国、コートジボワールなど西アフリカの10か国やベルギー、フランス、インドでも発売。コンゴ共和国の人口は約370万人で、市場規模は決して大きくないから海外への展開は必至である。VMKの創始者Verone Mankou氏は、「市場に出回っているタブレットと比較しても技術的には遜色のない出来である」と自信を見せている。当初は2011年中に市場に流通させたかったが、ロジスティックの問題があり2012年1月末にようやく発売開始となった。
スマートフォンやタブレットの製造、販売においては蓄積してきた技術力やブランド力などを除いてでは後発で登場してきたメーカーの方が優位であることが多い。初期から開発、製造を行っていた先発のメーカーは在庫や開発資産などを抱えており、それらが負担になることもある。さらに高性能な部材の価格も時間とともに下がってくる。これからもアフリカに多くの地場メーカーが登場することが期待される。
(図4)VMK社の「Way-C」
(出典:VMK)
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(3)チュニジアEvertek
2008年にチュニジアで設立されたEvertekは2010年までにチュニジア市場で10%のシェアを獲得しており、チュニジア以外にもモロッコなど北アフリカやフランスで販売されている。アフリカのような新興国では「1人で複数枚のSIMカードを所有する」という市場の特徴から、1つの端末に2枚(または3枚)のSIMカードを挿入できる携帯電話を多数販売している。地場メーカーだからこそ市場の特徴にあった端末を製造、販売できるのだ。最近では「EVERPAD」というタブレットも販売している。
(図5)Evertekの「EVERPAD」とデュアルSIM対応端末「FD700」
(出典:Evertek)
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登録はこちら2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。