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オープンデータシンポジウムに見る国内外のオープンデータの現状(下)イギリスの事例と二次利用フリーの経済効果

2013.12.17

Updated by Yuko Nonoshita on December 17, 2013, 10:22 am UTC

基調講演では、イギリスでのオープンデータ利用事例が紹介された。また、「作品の二次利用フリー」の試みで話題になった佐藤秀峰氏が登壇し、著作権自由化後のコンテンツ利用の実態が紹介された。(「(上) 2015年度末に向けた取り組みと進捗」はこちら

先端を行くイギリスでは政府は専門の研究所を設立

基調講演では、世界で最先端の取り組みを行っているイギリスの事例が、ODI(The Open Data Institute)のメンバーシップ・プログラム・マネジャーのリチャード・ストリング(Richard Stirling)氏より紹介された。ODIは2011年11月にイギリス政府により設立され、WWWの父ことティム・バーナーズ・リーが代表を務めている。英国政府のデータポータルサイト「data.gov.uk」の立ち上げや、 OpenCorporates というサイトでは地図上へのデータマッピングやAPIを使った手法を公開し、ビッグデータを使えるようにデータ・クレンジングする作業やツール開発、さらにインフォグラフィックスの事例などを多数紹介している。さらに、Data as cultureというアートや芸術活動での活用についても支援を行っており、幅広い活用を進めている。

現在は、ビッグ・オープン・パーソナルという3つが注目されているが、ヘルスケア市場での活用が進んでおり、事例も増えているという。イギリスの医薬機関が持つ処方せんデータを誰でも使える形式で公開した例では、最初は全く使われなかったもの、医療関連の調査を行う会社が活用し、同じ効果を持つブランド薬とジェネリック薬の処方される比率が10対1であることを調べた、2億ポンドの医療費削減ができる可能性があるという発表をして注目を集めたという。

後半の座談会にも登壇し、イギリスはどうしてオープンデータが進んでいるかという質問に対し、イギリスはトレードオフの精神があり、既存の産業構造や商習慣を破壊するかもしれないといったイノベーションのジレンマはあるものの、政府はあまり口出しはしないところがあるという。むしろ、税金で制作されたデータを活用できないほうが不利益であり、世界の流れからしても、公開を前提に考えていくことがいいのではないかとコメントしている。

▼イギリス政府が設立した専門の研究機関では、行政データを幅広くアートや芸術のジャンルでも応用させようとしている
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二次利用フリーが7000万円の経済効果をもたらす

もう一つ、「二次利用フリーによる経済効果」と題された、漫画家の佐藤秀峰氏の基調講演では、作品「ブラックジャックによろしく」の著作権自由化によってコンテンツがどのように利用されたのかが報告された。同作品は、第6回文化庁メディア芸術祭のマンガ部門で優秀賞を受賞し、累計発行部数は1千万部を超えるヒット作。2012年9月15日にTwitter上で単行本全13巻のデータをすべてフリーにすると宣言してから1年間の二次利用の合計数は712件で、最も多いのはウェブ媒体で553件(77%)、次に紙媒体で132件(19%)、映像媒体は7件(1%)で、その他が20件(3%)であった。

さらに詳細を見ると、携帯電話とスマホ向けの電子書籍配信サイトでの利用が223件と最も多く、PC向けの電子書籍サイトも含めてほぼ全てのサービスで無料配信されているという。いわば青空文庫のマンガ版的存在であり、電子書籍ビュアーの表示比較にもよく利用されているようだ。また、アマゾンの出品サービスで無料販売するケースが100件近くあったため販売が規制され、同社のみが販売することになったことから、Kindleストアで常にランキング1位という状況になっている。

企業のウェブサイトでは「○○によろしく」というキャッチコピーを使ったマッシュアップが複数登場し、議員の個人サイトや参議院選挙のキャンペーンなど、医療マンガである作品とは全く関係ない分野でも幅広く活用されている。結局、トラブルになったのは詐欺サイトに使われた1件だけで、これも規約を変えるだけで対応できたという。

▼「ブラックジャックによろしく」の二次利用例。「○○によろしく」というフレーズやマンガの吹き出しを変える例が多かったが、マスクを作るといったユニークな利用例もあった
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いずれにしても、二次利用で本作をはじめて読んだという人が増え、他の作品を知るきっかけにもつながった。無料で作品を配信しているサイトの多くが、他の有料作品も販売していることもあり、有料コンテンツのダウンロードは160万にのぼり、年間売上げが約1億5千万円、収益が7000万円という驚くべき経済効果につながった。

▼佐藤秀峰氏の作品は38の電子書籍サイトで発売されるようになり、有料作品のロイヤリティが1年で約7000万円にのぼる経済効果をもたらした
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何か楽しいことがおきるかもと始めたことが、思わぬ経済効果につながったのは佐藤氏にとっても期待以上の結果だったようだ。全てのコンテンツが同様の結果をもたらすとはいいきれないが、オープンデータの推進において、かなり貴重な事例になったことはまちがいないといえそうだ。

【関連情報】
Open Data Institute
Open Data Institute:イギリスのオープンデータ事情3/3 (Open Knowledge Foundation Japan)-ODIの設立経緯と目的について日本語で解説されている。
「ブラックジャックによろしく」利用規約改定版 2013(佐藤秀峰 | 漫画 on Web)-佐藤秀峰氏による、著作物二次利用フリーの利用規約。
(2014/1/9 追記)「ブラックジャックによろしく」二次利用フリー化1年後報告(佐藤秀峰 | 漫画 on Web)-佐藤秀峰氏による、著作物二次利用化1年後の状況まとめ(作例多数あり)

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野々下 裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。