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宇宙は情報でできている

2014.04.19

Updated by Ryo Shimizu on April 19, 2014, 07:17 am UTC

水素とヘリウムの違いを知っているだろうか。

水素は可燃性だが、ヘリウムは難燃性だから爆発しない。
ともに常温では空気よりも軽い気体であり、難燃性のヘリウムはよく風船などに使われる。

しかし決定的な違いは、原子番号だ。水素は1で、ヘリウムは2である。

水素とヘリウムは、なんとなく似ていると思うかもしれない。
では鉄はどうか。性質はなにもかも違う。しかし決定的な違いは、鉄の原子番号は26だということだ。
では金は?原子番号は79。プラチナこと白金は78、水銀は80である。

この原子番号の違いとは何か。
それは原子核を構成する陽子の数と、その周囲を取り囲む電子の数を意味する。電荷をもたない通常の原子の場合、陽子の数と電子の数は一致している。

逆に言えば、その違いしかない。

金の陽子が一つ多ければ水銀となり、一つ少なければプラチナとなる。
もっと少なければ、それは鉄や水素やヘリウムや、アルミニウムになるかもしれない。

つまり、物質の根幹を決定しているのは、「陽子の数」という「情報」なのだ。


 ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリック、そしてモーリス・ウィルキンスらのチームが生命の設計図を発見したのは、1950年代のことで、この功績によってノーベル賞を受賞した。

200px-AGCT_DNA_mini.png

 彼らが発見したのは、生物の根幹を成す設計図、デオキシリボ核酸だった。
 今日、われわれはそれを単に「DNA」と呼んでいる。

 アデニン(A)とグアニン(G)、シトシン(C)とチミン(T)、四つの塩基によって表現された二重螺旋構造のそれは、生物がどのような形態をとるべきか決定する重要な役割を持つ。

 全ての動物は、この四つの塩基の並び方によって形態が決定される。
 これがワトソンら研究チームの発見だった。

 DNAが転写され、mRNAとして翻訳され、タンパク質が生成される。
 生成されるタンパク質の性質を決定しているのはDNAだ。

 この一連の流れを「セントラルドグマ」という。分子生物学の中心概念だ。
 これは細菌からヒトまで、同じ仕組みを持っている。

 DNAの発見が真に重要だったのは、「生物の形態を決定しているのは情報であった」という事実である。

 そのDNAを構成する分子もまた、原子の結合状態という情報であらわされ、原子自身もまた陽子の数という情報によって性質が決定される。

 すなわち、宇宙の全てのものは情報でできている、ということができるわけだ。

 生物も分子も、その本質は情報なのだ。

 もともと情報学が扱おうとしていたのは、情報という、もやもやした概念だった。
 確実に言えるのは、最初に情報学がうまれたとき、そこで扱うべき全ての「情報」は人間が創りだしたものを意味した。つまり、文章だ。

 情報学(information science)の源流は図書館情報学(library and information science)にある。

 紀元前7世紀のアッシリア(現在のイラク)にあったアッシュールバニパルの図書館には多くの粘土板が収蔵され、知識を蓄えると同時に、目的とする知識にたどりつくための分類法や検索に関する方法などが整備された。

 
 図書館は長い間、貴族や学者以外の利用が許されず、有料で利用する場所でもあった。それは、本そのものの価値が高く、本一冊が家一軒に相当するような高価格で取引されていたからだ。

 グーテンベルグが活版印刷を発明し、誰でも本が手に入るようになって初めて、民間人の立入りを許可した図書館が生まれた。

 図書館情報学の役割は、専ら本を分類し、検索するためのものだったが、ここから派生して情報学がうまれた。

 現在、コンピュータを扱う学科、つまり情報工学、計算機科学、情報科学、システム工学といった分野はすべて情報学の一形態であると言える。

 ところが面白いのは、生物、そして宇宙までもが情報によってできているという単純な原理である。
 これに伴って、情報学の扱う分野が広がってきた。

 いまや写真も文芸も心理学も物理学も医学もコンピュータ、すなわち高度情報処理機械の支援なしには成立しないどころか、もはやその支援を受けていることさえしばしば忘れられることがある。

 いまどき文芸学科の学生が、「おれはコンピュータに弱い」と言っても、キーボードすら打てない、などということはあり得ない。最低限のコンピュータ・リテラシーは身に付いているはずだ。

 むかしは「コンピュータに弱い」とは、キーボードが打てないことを意味した。そういうひとは、本当にまったく、使えなかったのだ。
 「キーボードアレルギー」なんて言葉もあった。

 いま、そんな人はいない。コンビ二の店員だって、POSレジを使いこなしている。

 会社における人事や会計も、やはり情報学の一分野と言える。
 いまや情報学と切り離せる分野のほうが少ない。 

 いま、PCを使えない経営者などいない。
 経営には表計算が必須だ。

 これはPCが発明される以前は、手で計算していたのだ。
 信じられないことだ。

 情報は整理され、最適化され、整形されると、驚くようなスピードで流通を始める。
 この流れには決して抗う事が出来ない。

 来週、ニコニコ超会議というイベントで、enchantMOONの展示販売をすることになった。
 しかし、5万円という高額商品だ。現金で買う人がどれだけいるだろうか。

 クレジットカード決済をできるようにするべきだけど、これまでは方法がなかった。
 しかし「そうだ、Squareがあるじゃないか」と思い直した。

スクリーンショット 2014-04-20 7.33.09.png

 申し込みから二週間程で、こんな小さいデバイスが届いた。
 これをiPhoneのイヤホン端子に挿すと、クレジットカード決済ができるようになる。

 ほんの少し前まで、店でクレジットカード決済を導入するのは本当に大変だった。
 まず審査が降りないと言われていたし、機械も高価で制約が多かった。

 ところが今は既成のスマートフォンにこんな簡単な機械をポンと付けるだけでいい。
 読み取られた情報は暗号化され、即座に通信され、承認され、課金される。

 これを扱うのに、コンピュータに特段詳しい必要はない。誰でもできる。

 たかがイベントで、その場でクレジットカード課金するためだけに、こんなものがすぐに手に入る時代なのだ。

 昨夜、ゴールデン街の馴染みの店に久しぶりに行った。
 すると、会計のとき、禿げた親父がSquareを出した。

 「なんだ、Squareか」

 「いいじゃない。便利なんだもの」

 こういうことは少しずつ起きていて、この流れはもっと加速して行くだろう。
 そしていずれもっと違ったことがおきるはずだ。

 それが何なのかはまだわからないけれども。

 

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。