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KDDIと海上保安庁、外洋における船上基地局実証実験の説明会を開催

2014.05.26

Updated by Asako Itagaki on May 26, 2014, 08:00 am UTC

5月23日、KDDIと海上保安庁は、「携帯電話基地局の船上開設に向けた実証実験」について説明会を行った。実験では、高さ約100mの高台上から沖合3kmを移動中の船舶上に設置した2GHz帯用基地局(cdma2000 1x)に接続し、良好な音声通話ができることを確認した。

▼海上保安庁巡視船「さつま」
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5月22日に行われた実証実験は海上保安庁の巡視船「さつま」の船上に携帯電話基地局を設置し、海上から電波を発射してのエリア復旧が可能であることを確認するもの。震災や津波等で沿岸部で陸路からのアプローチが困難な場合の対策として想定する。KDDIと海上保安庁は2012年11月に広島県呉市で、海上保安庁巡視船「くろせ」に基地局を搭載した実証実験を実施しており、今回の実証実験は2回目となる。

前回の実験では、瀬戸内海で800MHz帯の指向性アンテナを用いた沿岸部のサービスエリア復旧を行い、良好な結果が得られた。今回の実験は前回の実験後の課題となった「異なる周波数帯・アンテナ指向性での効果比較」と共に、「波の荒い外洋での安定稼働」および「高台での避難場所に対する実用性の確認」を確認するものとなる。

船上基地局の概要

基地局装置およびアンテナは「さつま」のアッパーブリッヂに設置。バックホールとなる衛星回線は静止衛星(EUtelstar172A)を経由してKDDI山口衛星通信センターに接続する。基地局は2GHz帯用で、アンテナは無指向性のオムニアンテナを使用する。電源供給には「さつま」の発電機を使用する。衛星アンテナのコントローラーおよび衛星ルーターは屋外仕様に対応していなかったため、船内に設置した。地上に配置する移動基地局と異なる点は、船は「揺れる」ということ。衛星アンテナには、ジャイロに連動してアンテナの向きを保持する機構が組み込まれている。

▼基地局装置と衛星アンテナ。衛星アンテナは海水や潮風の影響を避けるため「レドーム」と呼ばれるカバーがかけられている。基地局装置はゴムマットの上に置かれ、船が揺れても動かないよう固定されている。
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▼2GHzオムニアンテナ(左)と、衛星追尾用のジャイロセンサー(右)
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測定の概要

5月22日の電波発射実験は、大隅半島の東南側、稲尾岳から早崎にかけての海岸沿いを移動しながら行われた。地上側の測定ポイントは、震災時の避難所を想定し、南大隅町の高台(高さ約100m)程度に設定された。現地は800MHz帯のみのカバーエリアとなっており、平常時は2GHz帯の圏外となる。なお、試験時に発射される電波は、試験用端末でのみ受信可能なように設定されていた。船の移動は沖合3kmを陸に沿って往復するパターンと、観測地点の沖合1kmから3km地点を適宜移動するパターンで行った。

測定は船上基地局の電波の受信レベルと音声品質について行った。音声品質の測定は送話側の端末を船上基地局に接続し、録音音声を送出。既存の地上局(800MHz帯)に接続した受話側端末の音声波形を比較する形で行われた。また、専用測定器で、音声品質指標(PESQ値)を測定している。

▼実験の概要。なお、今回の実証実験はCDMA 2000 1x音声のみであり、データ通信についての試験は行っていない。
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測定の結果、いずれのパターンでも受信レベル・音声品質とも良好であるという結果を得た。また、およそ10km程度まで離れても良好な音声で通話が可能であった。船上基地局が移動中の通話についても音声品質は良好であり、オムニアンテナの特性が生かされた形となった。なお、今回の実験では旋回時に通信衛星との接続が途切れることがあったが、船上の構造物(艦橋など)の影に衛星が隠れる影響によるものであり、「くろせ」実験時のように船首付近など影響を受けない場所に衛星アンテナを設置することで回避できると考えているとのことだ。

今後の課題は、機材の小型化とLTE等データ通信への対応がある。機材を小型化することで、搬入に大型クレーンなどの設備が不要になり、設置時間も短縮できるメリットがある。

▼KDDIの災害対策について説明するKDDI運用品質管理部長 高井 久徳氏(左)と、実験結果について説明する同社特別通信対策室長 木佐貫 啓氏
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▼説明会の会場では現在開発中の小型衛星アンテナ(60cm)とLTE対応の小型可搬型基地局も展示されていた。
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海上保安庁も期待を寄せる

説明会で巡視船「さつま」の佐藤 至船長は、「本船が近づくことでアンテナが立ち、電話がつながらない状態が少しでも解消するのであれば有意義だと思っている。実用化されれば海保、警察、消防などにとって有意義だろう」と感想を述べた。

▼巡視船「さつま」佐藤 至船長
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船上基地局は陸地側のエリア化だけでなく、海の緊急通報番号である118番での利用にも期待しているとのことだ。東日本大震災時には海上保安庁からも多くの艦船が被災者の救助・支援活動にあたっており、「さつま」も4回にわたって現地に派遣され、潜水士による行方不明者の捜索活動などに従事している。

今回の実証実験の詳細な結果については、KDDIで今後解析を進める。

▼佐藤船長、高井氏、木佐貫氏らの記念撮影。
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【報道発表資料】
携帯電話基地局の船上開設に向けた実証試験について

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。