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前回(1)では、法改正の議論に先んじてインターネット広告業界のガイドラインのなかで定義された「インフォマティブデータ」を中心に伺った。引続き、ターゲティング広告に対するユーザの啓発と、収集されるユーザの閲覧履歴データの透明性を確保することを目的として昨年設立された業界団体Data Driven Advertising Initiative(以下DDAI)の中心メンバーであり、一般社団法人 インターネット広告推進協議会(以下JIAA)のユーザー情報取り扱いガイドラインワーキンググループの推進メンバーでもある、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社プロダクト開発本部 フェローの遠矢行史氏と、同社プロダクト開発本部 広告技術研究室 主任研究員の原田俊氏の両氏に業界主導で行われている取り組みと、その問題意識を伺う。

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──同意取得のあり方についてはどのようなお考えをお持ちですか?

遠矢:同意取得は消費者への透明性の確保、利用者関与の機会のためにも重要なポイントですね。英国では法律の改正に伴い、クッキーなどの技術を用いてデータ収集を行う場合、媒体社によるオプトイン(事前の同意取得)が必要になっています。米国や日本においてはオプトアウト(離脱)手段の提供が一般的です。

──個人情報の保護のために、変更について一つ一つ同意を取ることが重要という声もありますが、情報セキュリティの観点からは、同意を取りすぎると同意のクリックが「意味なく押すハンコ」のように実効性を失ってしまい、重篤な変更を見逃してしまうという問題があります。

分かりやすいマークをつくって、利便性とリスクについて松竹梅を選べるようにするなど、検討が進められていますが、広告業界での取り組みはどのようなものがありますか。

インフォメーションアイコンによる広告情報の動線設計

遠矢:広告の世界は、1)広告主、広告会社、2)我々のような広告配信事業者、3)広告を掲載する媒体社、4)消費者と、大きく分けても4つのステイクホルダーが存在します。消費者にはアウトプットの広告だけが向き合うかたちになるので、配信事業者に直接アクセスすることは容易ではありません。

そこで、広告クリエイティブ上に「インフォメーションアイコン」というマークを表示させることを広告配信事業者は行っております。マークをクリックするとターゲティング広告に関する情報が表示され、行動ターゲティング広告の配信、情報収集を避けたい消費者は、そこから容易に停止(オプトアウト)の設定ができる動線になっています。当社を含め幾つかの事業者では既にインフォメーションアイコンを導入済みです。さらに、業界団体であるJIAAではその標準化を推進しています。

▼JIAAインフォメーションアイコンプログラム(仮称)の概要(JIAAサイトより)
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──なるほど。このマークは海外を参考に作られたものですか。

遠矢:そうですね。米国のDAA(Digital Advertising Alliance)の議論を参考にしています。彼らは共同規制的なアプローチ、業界による自主規制に立法がお墨付きを与えるという手法ですが、JIAAの場合は業界による自主規制になります。

──今後日本における第三者機関の機関設計についての議論がされると思いますが、いわゆるプライバシーコミッショナー制度のように、第三者機関が一定の執行力をもって統制していくのと、現在行われているような業界による自主規制というアプローチで進むのとでは、どちらがいいのでしょうか。

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技術やトレンド変化のスピードと法整備のスピード感を揃えることは困難

遠矢:率直に言うと、業界による自主規制で進めることのやりやすさはあります。特にこの業界についていえば、技術やトレンドの変化のスピードが非常に早いために、法律や政府機関の規制が確立されるまでに生じるタイムラグとの折り合いをつけることが大きなネックになるのではないかと思います。

──しかし同時に、業界だけで進めてしまうと事業機会の公平性についてどうかという議論(業界内の有力プレイヤーの方針によって決定が左右されてしまう問題性など)もあると思います。

原田:現行の個人情報保護法は主務大臣制で運用されており、対象となる産業分野には行政が定めたガイドラインが存在します。しかし、広告業界に特化したガイドラインはありませんでした。ですからこれまではJIAAが牽引するかたちで、海外の法制度や事例を参考に、業界で自主的にガイドラインを作ってきたという経緯があります。

正直に言うと、法制度が変わるたびに、各社がそれをキャッチアップして、自らのルールと擦り合わせを行うということはかなり体力のいる話だとも感じています。大小様々なプレイヤーが、消費者のプライバシーを守っていく上で、業界団体が果たす役割は大きいのではないでしょうか。

遠矢:一方で、政府に期待している点として、今回の政府の検討会は各省庁での議論ではなく、内閣官房で取りまとめることで議論が一本化されていることが挙げられます。主務大臣制によって明確に監督官庁が定められている業界ならさておき、我々のような広告業界は、常に問題ごとに異なる監督官庁に相談するということを行ってきましたので、窓口の一本化が図られるとしたら、これは大変有難いです。

まとめて〈オプトアウト〉できるDDAIサイト

──オプトアウトしやすい環境づくりへの取り組みも進められていますね。

遠矢:消費者の理解と安心をどうしたら得られるかは常に考えています。そのためにインフォメーションアイコンの取り組みの他に、行動ターゲティング広告の配信、情報収集を消費者の意思で容易に停止(オプトアウト)できるようにするため、DDAIという配信事業者の業界団体をcci(サイバー・コミュニケーションズ)さんと一緒に立ち上げ、一括でオプトアウトできるサイトを提供しています。

こちらはサイトオープンから1年が経過したところで、オプトアウト/オプトインの周辺の整理はかなり進んだと考えています。もちろんまだまだ説明出来ることはあると考えていますので、コンテンツを増やしていく予定です。

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──DDAIのオプトアウトは実際に使われていますか?

拒否出来る「安心」を提供することの価値

遠矢:それなりに使用されています。しかし、利用者の多寡よりも分かりやすくオプトアウトできる仕組みを用意していること自体を価値と考えています。機能そのものより、拒否できるという安心を提供していると言えるのではないでしょうか。

原田:DDAIは配信事業者が中心となってやっていますが、これだと消費者には直接見えない企業で運営している状態なので分かりづらいという問題もあり、消費者への周知や、広告主への啓発などは今後の課題です。

──確かに、誰がやるかが難しい問題ですね。国際間のデータ越境の問題は、既に海外の事業者や業界団体と検討されているのでしょうか。

データ越境は国別の事情に対応する大きな課題

遠矢:まだ交渉までは進めていませんが、各国法でデータの国外移転がどのように規制されているかは調べています。当社としても今後東南アジアや中国での広告の扱いは増えると考えていますので、事業者単体でも調べています。
しかし、調べてみると例えば東南アジアといっても、どこの国の影響を受けているか、ということが国毎に違うので、個別の対応が必要であるという印象を受けます。

──大きな課題ですね。やはりプライバシーの問題はずっとやり続けないとならないのでしょうね。国の制度を待たずに独自に対応を進めなければならない上に、国の制度が変われば対応をする、またそれとは別に世論への対応というのもあるような気がします。

遠矢:地道に修正していく他ありません。

──最後に、ネット広告業界が通信産業に期待されていることがあればお教え下さい。

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通信キャリアが提供するトラストフレームワークの可能性

原田:昨今では、スマートデバイスの出現や、ブラウザの仕様変更により、クッキーというwebでのユーザ識別に使用されてきた技術が、有効でなくなりつつあります。そうしたユーザを識別する技術を代替しうる手法として、どのようなものがありえるか、その可能性も含めてぜひ通信業界にご検討いただきたいです。通信事業者の社会的信頼性によって、出来ることがあるのではと感じています。アメリカでは、通信事業者自身がIDを発行するモデルがあり、通信キャリアがトラストフレームワークを提供している例があると聞いています。

遠矢:東南アジアのような、携帯電話のほとんどがプリペイドでかつSIMフリーの国ではキャリアがユーザ情報を持っておらず、アプリケーションやサービスを提供するOTT事業者が発行するIDが維持されればいい、という事業環境です。一方日本では、契約の継続性と消費者の安心感や運用の信頼性の観点から、通信事業者によるトラストフレームワークのモデルには可能性が感じられますね。

原田:通信事業者が持っているトラストフレームワークをどう活用するかという話は今年のモバイルワールドコングレスあたりでも出ていたように思います。すでに検討を進めているとは思いますが、我々もそうした動きとうまく歩調を合わせていきたいですね。

【参照情報】
パーソナルデータに関する検討会
「プライバシーポリシー作成のためのガイドライン」と「行動ターゲティング広告ガイドライン」を改定(JIAA)
DDAI(Data Driven Advertising Initiative)
DAC翻訳:IAB「ポストクッキー時代のプライバシーとトラッキング」

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