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慶應義塾大学でenchantMOONハッカソンをやってみた

2014.10.02

Updated by Ryo Shimizu on October 2, 2014, 08:17 am UTC

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 慶応義塾大学のドクター稲見こと稲見昌彦教授とは思えば長い付き合いになります。

 もともと私が受講していた東京大学大学院情報学環の舘先生のお弟子さんとして活躍しておられる頃からなんとなく知っていて、なにかのきっかけで知り合い、それ以来、親しくさせていただいています。

 あるとき、稲見先生が、当社の研究機関であるUEIリサーチのSIGGRAPHにおける研究発表をご覧になって、大変感銘を受けられたとのことでFacebookメッセージのやりとりをしていたとき、ふとこんな話になりました。

 「僕はシンギュラリティはプログラミング革命が伴わないと起きないんじゃないかと思うんです」

 私自身もこんなことを言ったことに驚きましたが、我ながら腑に落ちる話でした。
 我々の世界でシンギュラリティと言った場合、これは技術的特異点を意味します。

 未来学者のレイ・カーツワイルが予言した世界で、人類は癌を克服し、事実上の不老不死を得て、人間よりも賢いコンピュータが産まれた世界です。

 そして、たとえコンピュータが人間と同等以上に発達したとしても、機械と人間は身体性の問題から、決して同じように思考することはできないはずです。

 自分以外の知的存在と論理的なコミュニケーションを取ったり、そうした存在に対して適切な指示を与えたりするには、プログラミングするしかありません。もちろんそれは、現在のショートメッセージやビデオの録画予約程度には簡単になっていないといけません。

 逆に言えば、それが実現しない限り、シンギュラリティは意味をなさないかもしれないのです。

 今、どんな中小企業でも、簡単な試算にExcelなどの表計算ソフトを使っていると思います。しかしこうした表計算ソフトが一般に使われるようになったのは、日本ではほんの30年前からです。アメリカでも40年前からです。

 それ以前の世界は、手で計算表を書き、手で計算をしていました。

 当然、間違うこともあるので何度も手で検算します。
 膨大な手間がかけられていたわけです。

 数字をひとついじると大変なことになります。
 全ての計算をやり直す必要があるからです。

 しかし現在、表計算ソフトの力を借りれば、いとも簡単に再計算ができます。
 優秀な人たちが何日も徹夜でやらなければならなかったことを、学生のパソコン上で夕飯の支度の合間にできてしまいます。

 昔、主婦は家計簿を紙につけていました。
 こんなつまらないことだって大量の計算が必要でした。

 それがコンピュータが発明され、誰の家にも置かれるようになった結果、家計簿を手で計算する人はいなくなりました。そうして空いた時間を趣味や他のことに使えるようになったわけです。

 ちなみに表計算ソフトが発明される以前は、それぞれのユーザが自分の目的のために家計簿ソフトのようなプログラムを書いていました。

 うちの父親は工場で働くエンジニアだったので、ボイラーの熱収支を計算したり、発電量を計算してグラフ化して表示するプログラムを書いたりしていました。当時はそれが当たり前で、故にコンピュータは専門家にしか扱えなかったのです。

 表計算ソフトは当初「簡易プログラミングソフト」とも呼ばれていました。
 表にどんな数値を入れるか、どんな項目とするかで様々な集計が簡単になることから、「プログラミングがいらない」と言われたのです。

 プログラミングが簡単になる過程のひとつが表計算ソフトだとしたら、その先にあるのはもっと簡単なものであるはずです。

 そして、そういうものがもっと簡単に扱えるようになれば、シンギュラリティで人間並の思考能力を持ったコンピュータが出現しても、人類は正しくそれを利用することができるはずです。

 私たちが開発したenchantMOONは表計算ソフトとは目的が異なりますが、人間の創造性を発揮しやすくしてコンピュータを使った表現をもっと簡単に速くできるようにします、そのために最近enchantMOONによるハッカソンをやっているんですよ、これがなかなか面白い結果になって・・・

 というお話をしているうちに、「じゃあ稲見先生の研究室で一度やってみよう」ということになったのです。

 会社から貸出用のenchantMOONを10台もって、いざ稲見研へ。
 まずは軽く一時間くらい、enchantMOONの基本的な使い方を説明して、その後、いざハッカソンを開始します。

 このハッカソンは15分ルールで行います。
 15分で特定のテーマに沿ったものを作ります。

 もし簡単すぎて時間が余ってしまったら、他のものを作っても構いません。沢山作ってもいいですし、一つのものを作り込んでも構いません。

 最初のテーマは「秋」でやってみました。
 

 そうしたら、面白いことが起きました。
 私や稲見先生、そして稲見研のプログラマー寄りの学生達はみんな「もみじがひらひらと舞い落ちて来る」というプログラムを作りました。

 私は落ち葉に混じってたまにマツタケが落ちて来て拾うと点数が入るようにしてみました。

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 ところがプログラマでない学生さんは、ハイパーリンクだけを使って「サークルの連絡帳を作ったら面白いんじゃないかと・・・」と「スポーツの秋」「食欲の秋」といった項目をつくり、そこに手で何が食べたいとか何して遊びたいとかを書き込めるようにして、サークルの部屋に置いておきたい、と言ったのです。

 これには私も稲見先生も驚きました。

 私たちプログラマは、なんて頭が固かったのでしょう。

 私たちは「秋」を表現することに囚われ、プログラムテクニックに集中していたのですが、確かに「現実の秋」を楽しむためにサークルの部室で共有する端末を明確にイメージした、という点では発想の次元が違う、と思いました。

 さらに「実用ツール」というテーマでもやってみました。
 こちらは時間の都合上、10分という短い時間でしたが、私は罫線ブロックを使って定規を作りました。

 稲見先生は画像検索でクイズを作ろうとされていました。
 光学迷彩をカメラで再現しよう、というアイデアも出ました。

 そしてやはりプログラムを普段かかない学生さんは、私たちを驚かせました。
 彼女はハイパーリンクを使ったあみだくじを考案したのです。

 まず、1ページ目に複数の円が描かれていて、そこに全員の名前を書き込みます。
 次に、名前をタップすると、「当たり」か「ハズレ」のページにジャンプします。

 確かに、これならあみだくじと同じです。
 
 さらにもう一人の学生さんは、面接をするときに写真を撮りながらメモを書き込むという使い方を提案されていました。確かにそれも実用ツールです。

 短い時間ではありましたが、非常に刺激的かつ有意義なハッカソンになりました。
 

 プログラミングが次の世代にジャンプする鍵は、コンピュータの中の世界だけに囚われず、外の世界をいかに有効に利用するかである、ということは私自身ずっと思って来たことです。

 
 もともと、携帯電話の仕事を始めたのも、オフィスや自宅にいなくても、いつでもコンピュータと一緒にいる環境、マーク・ワイザーの言うユビキタス環境に興味を持ったからでした。

 しかしIoTのように、外界との通信にCPUを用いるようではまだまだコンピュータの内と外を活用しているとは言えないのかもしれません。

 もっとごく普通の使い方ができると、コンピュータはさらに何倍も活用できるのではないか、なんてことを考えています。

 慶応義塾大学稲見研究室の皆さん、そして稲見先生、ありがとうございました。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。