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アイデアとテクノロジーから生まれる体感型広告の開発秘話とは(前編)〜アドテック関西 プレイベントレポート〜

2014.11.20

Updated by Yuko Nonoshita on November 20, 2014, 18:52 pm JST

11月26、27日の両日にグランフロント大阪で開催される「アドテック関西2014」のプレイベントが、17日Osaka Innovation Hubで開催された。クリエイティブをテーマに今回のイベントが関西初登場となる話題の「Yahoo!トレンドコースター」の開発秘話をはじめ、関西の広告業界の動きが紹介された。

▼世界で12番目の開催拠点となるアドテック関西はセールスプロモーションなど東京とは異なる独自の内容で構成される。
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「Yahoo!トレンドコースター」とは、Yahoo! Japanの検索結果を体感するために作られたアトラクションで、オキュラスリフトを付けた搭乗者がキーワードを音声入力すると、結果グラフに合わせてコースが生成され、その上を検索結果を見ながらジェットコースターシミュレーションを楽しむ仕組みになっている。アドテック東京などで公開されて話題となり、アドテック関西の会場でも公開される。

今回は、企画と開発に関わったエイド・ディーシーシーの鍛治屋敷圭昭ディレクターがチームを代表して制作の裏側を紹介した。エイド・ディシーシーは、昨年、ヤフーの依頼で「インターネット広告の未来」をテーマに「さわれる検索」を制作したことで知られる。同作品は、検索結果を3Dプリンタで出力するマシンで、盲学校の生徒たちを対象に作られ、カンヌ国際広告祭でシルバー賞を受賞したほか、文部科学省のプロジェクトにも採択された。今回のコースターはその第二段ということで、エンターテインメント要素が強いものになったと説明する。

「100案以上考えた中から『Feel the Trend!』をコンセプトに、検索データ連動コースターのアイデアが浮かんだ。実現できる確信はなかったが、翌日にはスタッフの一人がUnityを使ってデモ映像を作り、そこから一気に企画が進んだ」という。プレゼンでは映像を見せるだけでなく、担当役員を2人がかりで抱えて画面の前で動かしたり、霧吹きでジェットスモークも演出。"体験"を取り入れたことで、10分後には制作が決まった。制作では、テクニカルディレクターやプログラマを集め、ヤフーを含む8社が制作に関わった。大所帯に見えるが、コアで動いているのは5,6人で、その分だけ機動力を高めた。

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例えば、シミュレーションシートはチェコの制作会社を見つけて現地まで交渉に行った。ドライビングシミュレーター用なので用途が違うと断られかけたが、その場でスタッフがコースターの動きを再現して見せたところ、購入が決まった。チューニングは日本で行い、シミュレーターはWindows PCだけでコントロールし、音声入力のみiPadを使っている。ボディの造形など一部を専門家に依頼する以外は、風圧を演出するファンや周辺器材も秋葉原で自分たちで調達した。実際のコースターを造るのと異なり、満足にテストをする時間もないが、横の動きを加えたり、LEDの光を加えるなどレベルアップには手を抜かなかった。
「実際に機械を動かすのでトラブルもつきものだが、広告なので失敗ができないし、スケジュールもタイト。その点については事前にクライアントと信頼関係を築き、どうするかをすり合わせておくことが重要」と鍛治屋敷は語る。ハード部分以外に、検索結果をコースターの画面として表示する場合は著作権法に抵触する恐れがあることから、契約書類を作るなどコンテンツの部分での対応も厳しいものがあったようだ。

コースターは9月11日に東京レジャーランドで一般公開したところ、ネットやマスメディアにも大きく取り上げられた。日清食品やアディダス ジャパン、日産自動車とのタイアップにも使われ、先週からオンラインで体験版が公開されている。今までに無い取り組みを成功させる秘訣として、鍛治屋敷は「アイデアとテクノロジーは表裏一体で、紙ベースで調べたことは信頼しない方がいい前例が無い時はとにかくカラダを動かしてやってみるのが大事。わからないことは第一人者にたずねたり、ネットも使って世界から情報を探すので英語力も必要になる」とコメントしている。

▼「Yahoo!トレンドコースターの出来るまで」と題されたセッションでは、トレンドコースターの企画と開発に関わったエイド・ディーシーシーの鍛治屋敷圭昭ディレクターが開発の裏側を語った。
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▼昨年制作した「さわれる検索」での高い評価が次のコースターという大きなチャレンジにつながった。
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▼企画がスタートしてから数ヶ月という短い期間で実際にアトラクションとして通用するレベルのコースターシミュレーションが制作された。
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▼東京レジャーランドでは一般向けに公開され「業界関係者以外の人たちが楽しんでくれたのがよかった」という。
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広告と聞くとマスメディア向のCMや新聞雑誌、ネットなど2次元的なものを想像するが、Yahoo!トレンドコースターのようにユニークなアイデアを現実化して、ブランディングや技術力のアピールにつなげようとする動きがここ数年で増えている。後編ではパナソニックの「太陽光屋台」をはじめとした具体的な事例を元に、話題となった広告の制作現場の裏側をさらに紹介する。

【参照情報】
アドテック関西2014 公式サイト
「Yahoo!トレンドコースター」体験サイト

※修正履歴(12/4 11:30)
初出時にはエイド・ディーシーシーの鍛治屋敷氏を「さわれる検索」制作者として紹介しておりましたが、鍛治屋敷氏から、ご自身は直接たずさわってはいないというご指摘をいただきましたので、当該部分を訂正いたしました。また、その他紛らわしい部分の表現を一部修正いたしました。(本文修正済み)

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野々下 裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。