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経産省「ID連携トラストフレームワーク」の理解を深め、ビジネスモデルのあり方を考えるシンポジウムとビジネスモデルコンテストを開催

2014.11.28

Updated by Rie Asaji on November 28, 2014, 14:00 pm JST

経済産業省は「トラストフレームワークが築く社会 〜ネット完結社会における利用者との信頼構築に向けて〜」と題したシンポジウムを9月26日(大阪)と10月23日(東京)で開催した。また、現在同省は同事業で提供するID連携トラストフレームワーク試験プラットフォーム上での稼働するビジネスのアイデアの募集を「ID連携トラストフレームワーク・ビジネスモデルコンテスト」で受付けている。

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シンポジウムではインターネット環境において利用者と事業者、あるいは事業者同士が、信頼できるインターネット上の環境の中でID(アイデンティティ)データを連携しサービスの質向上をはかる「ID連携トラストフレームワーク」について理解を深め、サービス提供のあり方についてさらなる検討を深めるため、講演が行われた。

スピーカーの各氏はインターネット上で生じている個人認証の問題などの身近な例を取り上げ、海外の先行事例なども併せて示しながら、日本に於けるトラストフレームワーク構築の今後の活用について期待を寄せた。

パーソナルデータの価値を活かしたビジネスの創出に向けて

イベントの主催となる経済産業省情報政策課情報プロジェクト室長 和田恭氏は急速にスマートフォンなどの個人情報端末の普及が進み、Webサイトの閲覧のみならず、位置情報や写真、個人の行動履歴などがクラウド側に集積され、IT利活用の形態が大きく変わってきている現状を述べた。

加えて、上記のようなパーソナルデータの取扱いについても現在ではユーザーが意識しないところで自動生成される行動履歴等が増加したことを指摘し、情報漏洩問題が各所で噴出する中、これらパーソナルデータをどう守っていくかについての議論の重要性は増していると話した。

また、このイベントの目的として、情報の利活用の価値を認めた上で、保護の観点からデータの流通が過度に萎縮することの無いようバランスをとって進めるために、個人情報の「価値」に対価を払うという流れを作る為に「ID連携トラストフレームワーク」という枠組みを使った新しいサービスのビジネスケースを作り出すべく、理解を深めて欲しいと述べた。

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生活者と企業双方にメリットのある「情報信託活用」を

D4DR株式会社代表取締役 藤元健太郎氏は「ID連携トラストフレームワークへの期待とビジネスとして離陸するために」と題して講演を行った。

冒頭には、SNSのアカウントが乗っ取られる問題や、IDや認証のパスワードの設定が覚えきれず、複数サービス利用時に同一のアカウント認証を使用してしまう問題など、ユーザーにとって身近な問題を提示した上で、「IDの管理をユーザーに任せる限界が来ている」とした。

また事業者としてこの問題に対峙した場合には、本人確認がサービス毎に必要なことが参入障壁になり得る。特にベンチャー企業などでは、個人情報取の得と管理がハードルになってしまうこと、また個人情報の保有自体がリスクになっている現状では、FacebookやTwitterなどのSNSのIDを自社サービスに連携することでそれらの問題を回避するという選択をせざるを得ない状況があることを指摘した。

これらID共通化問題・不正アクセス防止・本人確認のハードルの解決手段として、ユーザーが信頼して登録でき、事業者側のリスクを回避しつつビジネス展開できるような仕組みとなる「ID連携トラストフレームワーク」の構築の必要性を述べ、既にID連携を利用している海外の先行事例として機密性の高い住民登録番号に変わるIDを複数の民間機関で発効する韓国「i-Pin」、スウェーデンの銀行のIDを行政サービスに連携する「BankID」、ドイツの行政が発行し、民間で活用する「eID」の事例などを紹介した。

また、ECサイトなどに見られるレコメンドシステムなどは、一人の人間が持つ多様な側面「マルチパーソナリティ」に対応し切れていない課題を指摘し、これらのことを加味した上で、個人が安心して情報を預けることができ、企業は安全に情報の利活用促進出来るモデル、つまり「情報信託活用モデル」を構築することが望まれると述べた。

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ID連携トラストフレームワークの政策的位置づけと展開

経済産業省CIO補佐官 満塩尚史氏は「政府のIT戦略と経済産業省の取り組み」と題し、「ID連携トラストフレームワーク」の政府内での位置づけや、参考となる事例について講演を行った。

満塩氏はまず本年6月に改訂された世界最先端 IT 国家創造宣言(詳細は参考情報参照)に於いて、官民連携を想定した(1)ネットで本人確認手続きが完了し、(2)マイナンバーとの連携する行政サービスの構想に触れた。

また、現行の本人確認手続きの見直し検討について、例として「児童では無いこと」「実在する本人であること」の二点を確認したい場合でも現状は免許証やパスポートなどを提示する方法しか無く、氏名や性別など付随した情報を明かさなければならないプロセスである事例を挙げ、ID連携トラストフレームワークの活用により、本当に必要な属性情報だけを確認することが出来るようになれば、個人と事業者、相互のリスクを最小限にできる、と述べた。

また来年度から配られるマイナンバー(※)については、日本では民間利用は行わないという方針が決定している為、マイナンバーとは切り離したかたちでの民間IDとの連携、また官民間だけではなく民民間についてのID連携については今後の検討課題となることに言及した。

最後にID連携トラストフレームワークの適用が期待される分野として、訪日外国人の本人確認や国籍確認を行うための適切な言語サービス、就職支援や医療サービスなど、トラストフレームワーク構築を活用したビジネスなどへ期待を寄せた。

※マイナンバー法:「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(社会保障・税番号制度)。国民一人一人に番号を割り振って所得や納税実績、社会保障に関する個人情報を1つの番号で管理する共通番号制度。2015年10月に法施行、2016年1月より利用開始。

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連携のレベルを調整できるフレームワークと選択誌の用意が重要

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大阪会場では、「IdP事業者から見たID連携トラストフレームワーク普及のための要件」と題して、ヤフー株式会社Yahoo!JAPAN研究所上席研究員 五味秀仁氏が登壇し、ID連携の技術の現状と、ヤフーの取り組みについて説明した。

ヤフーでは、認証事業者の立ち位置でTwitter、Facebook、mixi、GREEなどのSNSを初めとした他社サービスとのID連携を進めており、ユーザーは従来、サービスごとに管理していたIDを複数サービスに渡り利用できるようになっていると述べた。

このID情報のやりとりに際しては、(1)利用者、(2)認証業者、(3)連携業者の三者の間でのトラスト関係が重要となり、また、その際のトラスト(信頼性)は様々な要件にまたがる階層構造になっていると指摘した。IDとパスワードだけでアクセスできる情報、強固な認証手段を講じないと受け取れない情報など、連携のレベルが柔軟に調整出来るフレームワークを作ること、かつ利用者が主体的に認証情報や認証事業者を選べるようになることが信頼性担保の上で重要と述べた。

※IdP:アイデンティティ・プロバイダ。ID認証を行い連携サービスにID情報を提供する役割。

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ID連携が実現するビッグデータ市場の拡大

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東京会場では「ID連携が実現するビッグデータ市場の拡大」と題して株式会社ゼンリンデータコム ネットサービス本部営業戦略室マネージャーの足立龍太郎氏が講演した。

位置情報を利用したロケーションビジネスサービスのケースとして通信事業者の基地局データを活用した行動分析サービスやスマートフォン上で動くナビアプリ、自動車の移動履歴の収集分析を行う事例を紹介した。

今後複数のサービスのID連携を実現することで取得データを統合しより高精度で価値のある情報提供が可能になるという見通しを述べ、都市計画等にも活かされるデータが生み出されることに期待を寄せた。

アイデンティティ連携を活用したビジネスコンテスト開催

一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)電子情報利活用研究部主任研究員 保木野昌稔氏が、経済産業省の同事業で開催する、アイデンティティ連携を活用したビジネスモデルコンテストについて説明した(東京会場ではプラットフォーム提供のNTTソフトウエア株式会社、ビッグローブ株式会社の2社のプレゼンテーションも行われた)。

ID連携を活用した新しいビジネス展開を志す企業からの応募を、(1)「2020年オリンピックを視野に入れた"訪日外国人へのおもてなし"サービス」(2)利用者情報の確からしさを確認する環境の利用...本人であることを確認した個人認証及び属性情報を用いるID連携トラストフレームワークの環境の下で展開するビジネス、の2つのテーマで受け付ける。

当コンテストの特徴は連携のためのプラットフォームをコンテスト事務局と協力企業が提供し、実際にサービスを実装、検証した上で審査を行う点である。アイデア募集は11月30日まで、その後書類選考を経て年明けから実装がスタート予定、2015年3月のシンポジウムにて表彰を行う。

【参考情報】
シンポジウム「ID連携トラストフレームワークが築く社会」(9/26大阪)
シンポジウム「ID連携トラストフレームワークが築く社会」(10/23東京)
世界最先端 IT 国家創造宣言
アイデンティティ連携を活用したビジネスコンテスト

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麻地 理恵(あさじ・りえ)

日用品メーカー勤務を経て、2012年株式会社 企(くわだて)入社。情報通信、メディア産業を中心として企業の経営支援、財務支援、事業開発支援を行う。