WirelessWire News Technology to implement the future

by Category

MITが夢想する23世紀のコンピュータの姿

2014.11.27

Updated by Ryo Shimizu on November 27, 2014, 15:12 pm JST

スクリーンショット 2014-11-27 15.13.28.png

 本日、大日本印刷の五反田ビルにてマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ副所長の石井裕教授を招いた講演会が開催されました。

 MITといえば世界最高の頭脳を誇る超名門大学で、ノーベル賞受賞者はハーバードを凌ぐ77名、学生1万名、教員1000人。

 アメリカの大学としては非常にこじんまりしたキャンパスでありながら、関係者が起業した会社は2万5千社を超え、産み出した雇用は300万人で、これはシリコンバレーの就業人口の約1/4に相当します。もし、MITがひとつの国家だとすれば、世界11位のGDPに匹敵すると言われています。この規模は東京都と同じ規模です。

 MITがIT産業に果たした功績は、まずGNUを始めとするオープンソースソフトウェア、フリーソフトウェア運動があります。MITなくしてLinuxもMacOSXもiOSもAndroidもあり得なかったのです。さらに、数々のプログラミング言語に影響を与えたLispの発明、人工知能や子どもへのプログラミング教育の発明と人類の歴史的にも大きなインパクトのある貢献が無数にあります。

 その世界最先端の研究所を副所長として実質的に率いる石井教授が夢想するのは、2200年、つまり23世紀の未来です。そうした未来世界においてコンピュータとはいかなる姿をしているでしょうか。それが石井教授のテーマなのです。

 石井裕教授といえば、視線を反映させた遠隔会議システム「クリアボード」やGUI(マウスやウィンドウズによるグラフィカルユーザーインターフェース)の次のトレンドであるTUI(タンジブルユーザーインターフェース。画面に触ったり物理的なモノを配置することで操作する仕組み)の先駆者として世界的に有名なユーザーインターフェースの研究者です。

 今回、石井先生が来日して講演されるということで、その機会を逃してはなるまいと思い駆けつけました。

スクリーンショット 2014-11-27 15.14.21.png

 今、一般的に用いられているMacやWindowsで使われているようなGUI(アイコン、マウス、ウィンドウなどによるユーザーインターフェース)は、いわばリモートコントロールです。画面の中のマウスカーソルを動かすために、トラックパッドやマウスを必要とするわけです。

 GUI以前の世界は、CUI(キャラクターユーザーインターフェース)と呼ばれ、全ての操作はキーボードによって行われていました。このキーボードの操作も、手元のキーボードで入力したものが、少し(数cm〜数十cm)程度離れた画面に反映されていく、いわばリモートコントロールです。

 そこで石井教授が1993年に考えだしたコンセプトが「タンジブル(触れることのできる)」ユーザーインターフェースで、このコンセプトは、以後20年近く研究が進められています。

 タンジブル研究の発展系のひとつが、今はやiPhoneやiPadでお馴染みのマルチタッチユーザーインターフェース、と言えるでしょう。

 GUIが間接的(インダイレクト / リモートコントロール)なものだったのに対し、マルチタッチスクリーンは直接的(ダイレクトコントロール)なユーザーインターフェースと言えます。ただし、石井先生の「タンジブル」はさらに進んで、触れるユーザーインターフェースも意味していますから、GalaxyNoteや筆者の会社が開発するenchantMOONのような、ペンなどの画面に対する直接入力を可能にする補助入力機器を利用した世界観はさらにTUIに近づいていると言えます。

スクリーンショット 2014-11-27 15.14.13.png

 TUIは完全にピクセル(画面を構成する小さなドット)の集まりだけの世界から、現実の世界に少しだけ氷山が頭を表した、という世界観です。

 つまり、GUIは完全に画面の中(Digital)だけで完結しているけれども、TUIは画面の外(Physical)とも関係性を構築し、より扱い易いものにしているわけです。

 しかし石井先生の発想はここで止まりません。
 より過激に、TUIを発展させた概念としてRadical Atoms(舞踏原子)というコンセプトを提唱されています。

 
スクリーンショット 2014-11-27 15.14.03.png

 Radical Atomsの実現した世界では、ついにデジタル(電脳世界)とフィジカル(物理世界)の関係性が逆転します。

 画面の中にあるものを操作するのではなく、物理世界の事物が直接動き、人間を含めた周囲の環境と巧妙にインターアクトするのです。

 上の映像は、今年のミラノサローネでLexusがスポンサーになり、石井先生率いるMITメディアラボのチームが創り出したRadical Atomsによるアートです。

 電子的な仕組みにより、高速に上下するピンをうまく活用した素晴らしくインパクトのあるアート作品で、心を打たれます。

 このTRANSFORMという作品の元になったのは、石井教授が学生とともに2年の歳月をかけて完成させたinFORM ENGINEという仕組みです。

 30x30、合計900本のピンは全てハンドメイドで、これがコンピュータの指示によって動いたり、また逆にピンを押し込んだり、引っぱりあげたりすることでコンピュータに指示を与えたりすることができます。

 上部にはプロジェクターから映像が投影され、たとえば離れたところで誰かが本を開くと本の内容まで見えるのが映像からわかると思います。

スクリーンショット 2014-11-27 15.13.52.png

 また、たとえば電話が鳴っているのに本人が気付かない場合、机そのものがさざ波のように動いてユーザーの視界に電話が入るように動かす、なんていうデモもあります。これなど、今までは全く想像もできなかったような人と機械の関係性ではないでしょうか。

 こうした研究を通して、石井先生が夢想する23世紀の世界では、コンピュータはその形をとどめなくなっています。平面のディスプレイは姿を消し、そのかわりに自由自在な形に変形するRadical Atomsたちが生活の至る所に溢れているでしょう。

 このRadical Atomsのビデオを見ているだけで様々な気持ちが産まれていきます。

 かつてアイヴァン・サザーランドが世界初のインタラクティブコンピュータとして、スケッチパッドを作ったとき、それが持つ圧倒的な可能性に気付いたのはごく僅かな人たちでした。

 しかし、すべてはここから始まったのです。
 これに刺激を受けたアラン・ケイ、ジョン・ワーノックなどの若者が、次々と新しい発明を重ねて行きました。

 このわずか15年後にはMacintoshが発売され、それから約30年後にiPadが発売されました。今我々が知っているコンピュータの全ての原型は、このSketchpadにあったわけですから。

 Radical Atomsは21世紀におけるSketchpadになるのかもしれません。

 ピン自体が色んな色に発光したら?
 もっと大きかったら?
 もっと解像度が高かったら?

 どんな使い方がある?
 どんな遊び方がある?

 たとえば建築関係の会議のとき、こういう机があればきっと便利でしょう。
 地形をあちこちから眺めたり、手で触って勾配を確かめたりすることができます。

 複雑な棒グラフや立体グラフもビデオの中にあるような感じで動かせたら、子ども達はもっと直感的に三次関数を理解できるかもしれません。

 石井先生は「これでまるごとベッドを作れば、個々人にリアルタイムに最適化する凄く快適なベッドができるかもしれない」と質疑応答で語っておられました。

 もっとこの先にある未来を見てみたい。

 そう思うととてもワクワクします。

スクリーンショット 2014-11-27 15.13.41.png

 そして最後に、石井先生が語った「造山力」のスライドを紹介してこの稿を閉じたいと思います。

 23世紀、果たして私たちの子孫たちは、どんな生活をしているのでしょうか。
 石井先生のいきいきとした講演を見ていると、本当に楽しみです。

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。