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恵方巻きと自己責任

2015.02.05

Updated by Mayumi Tanimoto on February 5, 2015, 01:29 am JST

デパ地下をウロウロしていても、最近では節分用の豆を探すのが簡単ではありません。豆は煎餅やクッキーに練り込まれてひっそりと売られ、その代わりに、海鮮やトンカツの入った恵方巻きを求める人々が長蛇の列です。

関西の友達に言わせると、地元でさえ恵方巻きなんて食べていなかったというのですが、10年ほど前に登場した恵方巻きは、今や、まるで大昔からある様な、やらなければならない様な行事になりつつあります。

その起源はコンビニだと言う説もありますが、誰かが「流行っている」といえば、そうかなと思い、素直に従ってしまうという、日本の人々の単純さと純朴さを象徴する様なイベントに違いありません。

家で作れば原価100円ほどの恵方巻きを求める長蛇の列の横では、バレンタインのために形をこねくり回した安っぽいチョコレートや、かまぼこや煎餅が大量に売られています。中身は安っぽいものでも、入れ物や形を変えて、「これは流行っているんですよ」「みんなやっているの」と言われれば、一時間から二時間分の時給を払ってしまうのが日本の人々なのです。

恵方巻きの列を眺めながら、ワタクシは喫茶店でiPhoneを眺めていました。ツイッターのタイムラインには人質事件に関するニュースとコメントが溢れていました。

恵方巻きを求める人達は列に並ぶのに熱心で、それがまるで世界で最も大事なことに様に見えますが、ネットの中では被害者とその家族を非難するどす黒いコメントが渦巻いていました。

物理的空間と仮想空間の違いはありますが、それは全く同じ瞬間に起こっていたことでです。

恵方巻きを買い求める人々と、自己責任論の人々は、一見似ていないようで、その根本は同じです。それは、お上や権威のある人達が決めた枠からはみ出すものは異端として叩きのめすという理論です。

恵方巻きを食べるのは、自分が食べたいからではなく、マーケターの考えた流行に乗るのが正しいとなんとなく考えているからで、自己責任論を唱えるのは、誰か有名な人がその意見を唱えるからであって、自分や自分の家族が被害者やその家族と同じ立場におかれた時の姿を、自分で想像したからではありません。

恵方巻きのバカげた流行に疑問を唱える人は場の空気を乱す人として嫌われ、自己責任論に従わない人は、権威やお上を批判するならずものとして徹底的に攻撃されるのです。それが倫理的に正しいかどうかということは関係ありません。この国の人達に取って、何が倫理的か、何が世の中にとって良いことかよりも、大事なのは決められた枠に従ったかどうかだからです。

こういう考え方は、なぜ我が国ではブラック企業やそれらを摘発しないお上が批判されないのか、なぜ我が国では規制や既存のビジネスモデルに挑戦する人達が賞賛されないが批判はされるのか、という質問への回答です。

ですから、我が国で、いくらベンチャー支援策を整えてもアップルやグーグルは産まれないのです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。