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『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々』に見る情報伝達手段の進化

2015.02.05

Updated by Hitoshi Sato on 2月 5, 2015, 08:45 am JST

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『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々』(原題: Sophie Scholl - Die letzten Tage)という2005年にドイツで制作された映画を見た。ナチスドイツ時代に、ナチスに抵抗した「白バラ抵抗運動」のメンバーの一人で、国家反逆罪により21歳で処刑されたゾフィー・ショルが主人公である。

「白バラ抵抗運動」の活動にはミュンヘン大学の学生だったハンス・ショルとその妹ゾフィー・ショル、クリストフ・プロープスト、ヴィリー・グラーフ、アレクサンダー・シュモレルおよびクルト・フーバー教授らが参加していた。グループは、1942年6月から7月にかけて4種類のビラを作成し、郵便などで配布し、1943年1月に5種類目のビラ「全ドイツ人への訴え」を作成して各地で配布した。2月14日、16日にはミュンヘン市内でビラを撒いたが、かなり残った。そこで、グループは残ったビラをミュンヘン大学で撒くことにした。ここから映画が始まる。

1943年2月18日朝、ショル兄妹は大学へ行き、まだ閉まっている講義室の前と廊下にビラを置き、最後に残ったビラを持って3階に行き、ゾフィーが吹き抜けにばら撒いた。この時彼女はナチス党員である大学職員に発見され、兄ハンスとともにその場で拘束されゲシュタポに引き渡された。翌日にはプロープストも逮捕された。そしてショル兄妹とプロープストの裁判はビラを撒いた4日後の2月22日に行われ、人民法廷(ドイツ民族裁判所)で反逆罪により有罪となり、死刑の判決を受け、ギロチンで即日処刑された。

2014年11月、仕事でミュンヘン大学を訪問する機会があった。そこにはゾフィーがビラを撒いた建物と廊下がそのまま残っていた。

ナチスドイツ時代、ゾフィーらのようなドイツ人が、当時のナチスドイツに反抗することは並大抵のことではなかっただろう。ゾフィーらは当時のナチスドイツに「言葉」で戦っていた。そしてその言葉を伝えるために、当時は紙不足だったがビラを作り、それらを配布していた。郵便切手を大量に購入したことを尋問されるシーンも映画の中にはある。当時の情報伝達手段が伺える。

現代社会ではインターネットのような情報通信技術の発展によって、インターネットの掲示板などで、伝えたい情報や抗議は世界中に瞬時に配信することが可能であろう。しかし約70年前の1943年にはパソコンも携帯電話も存在しない時代である。紙で印刷したビラを撒いたり、手紙で郵送することによって個人の信条を伝えていた。今のように簡単に自分の思いをインターネットで世界に発信できる時代ではなかった。

ゾフィーらは裁判でも最後まで戦った。裁判官らに向かって言った「今にあなたが、ここに立つわ」。私たちを処刑しても、明日はお前たちの番だぞという強い意志を最後まで失わなかった。

当時のナチス政権下でナチスドイツに反抗して、ビラを撒くことなんて自分にはできなかっただろうな、と映画を見ながら、そしてミュンヘン大学の構内を歩きながら思った。

人間は弱いものである。そのような強大な権力や組織に抗うことはしないで、平凡に生きていきたいと思うものだ。それでもゾフィーのような人がいるからこそ、彼らは歴史的な英雄として後世まで語り継がれているのだろう。1943年当時から約70年が経ち、技術の進化とともに社会生活も情報発信手段も大きく変化した。これから先はどのような時代になるのだろうか。「世界が大きく変化しようとも、人間として変わらないものがある」ゾフィーの映画はそのようなことを物語っていた。

▼ミュンヘン大学の前にあるゾフィーらのバラ撒きを記念した石碑
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▼ゾフィーらがビラを撒いたミュンヘン大学(2014年11月) まさにこの廊下にビラが撒かれて、逮捕された。
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▼ゾフィーらがビラを撒いたミュンヘン大学(2014年11月)
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佐藤 仁(さとう・ひとし)

2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。