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イノベーションツールとしてのパターンランゲージ

2015.02.26

Updated by Satoshi Watanabe on February 26, 2015, 17:45 pm UTC

パターンランゲージに関しての国内第一人者である、慶応大学の井庭さんの事業者向けのパターンランゲージの紹介セミナーに先日お邪魔してきた。
井庭さんとは、本業の方でもしばしご一緒することになりそうな流れになっており、諸々のご挨拶も兼ねてついでにセミナーにも参加しつつ、という流れであった。
という訳で、少しパターンランゲージの位置づけについて簡単に整理してみたい。
■ パターンランゲージとは何か
パターンランゲージとは何か、とのコンパクトな説明は井庭研の説明文を借りてくるのが早い。
パターン・ランゲージでは、デザインにおける多様な経験則をパターンという単位にまとめます。パターンには、デザインにおける「問題」と、その「解決」の発想が一対となって記述され、それに名前が付けられます。パターン・ランゲージの利用者には、自らの状況に応じてパターンを選び、そこに記述されている抽象的な解決方法を、自分なりに具体化して実践することが求められます。
パターン・ランゲージを記述・共有する意義は、大きく分けて二つあります。一つは、熟練者がもつ経験則を明文化しているので、初心者であっても、洗練されたやり方で問題解決ができるようになるという点です。もう一つは、デザインに関する共通の語彙(ボキャブラリー)を提供するので、これまで指し示すことができなかった複雑な関係性について簡単に言及できるようになるという点です。
ビジネス分野における手法やメソドロジーはそれこそ山のようにあるが、パターンランゲージの特徴は、特定のマニュアルやプロセスをなぞることを目していないことと言える。ビジョンに対して戦略があり、戦略を踏まえての計画があるというのは企業における基本的な動き方であるが、もう少し細かい具体性のある場面や課題にたいして、どのように向き合うのかといったところに相性が良い。
類似したやり方で整理をすると、クレドに対してパターンランゲージがある、といった位置づけも出来るだろうか。抽象度の高い基本行動指針を記したのがクレドだとすると、もう少し多様な、緩やかに構造化された場面を体系化した形で整理記述することになるため、個々の場面、課題に向き合う際にクレドよりは具体性の高い指針を補助線として得られる。また、クレドを軸としたサービス品質管理で良くエピソード的に語られる、個人の自己裁量を発揮して、というよりは現場現場のやり方を自分達で見出し共有化してチームの資産とする(あるいはフィードバックして社の資産とする)という動きを支援するのに向いている。質の向上を意識した際のQC的な改善プロセスなどに組み合わせても面白そうである。
■ オープンイノベーション、共創イノベーションとの距離感
パターンランゲージは、それこそ井庭さんの業績成果もあろうが、最近各所で取り上げられ、注目されているとの動きや気配を良く感じるようになってきた。なぜであろうか、というのを考えると、社会公共分野への適用については、ここでは割愛してビジネス分野を軸として捉えると、連綿としてあるイノベーション系の議論のうち、オープンイノベーションやユーザーイノベーションの実装アプローチとして期待されている節を感じ取れる。
製品開発プロセスが新技術を製品に適用して市場に出す、という川上から川下への動き(と生産効率)を重視したものから、お客さんにとって役に立つもの、魅力のあるものという考え方へのシフトがこの20年30年継続している。
この課題意識に対して、市場調査をしましょう、マーケティングが足りない、いやいやそこでデザインがという議論も同じく10年20年で効かない単位で議論されているが、ここ10年くらいは、インターネット及びインターネット的なコミュニケーションツールが当たり前に使われるようになってきたからか、企業の動きも外に開いていかないとこれはもう間に合わないぞ、との議論が良く語られるようになっている。
本業である企の仕事でも時折相談を受けたりする、オープンイノベーションに関する話もその一角である。オープンイノベーションも解釈は複数あるが、シンプルには、自社リソースでは市場要求に十分に応じられない、事業資産が足りないといった場合に、多様な企業とコラボレーションをして柔らかく市場要求に応えられるようにして行こうといった風に位置付けるのが良くある。このアプローチは、オープンにしなきゃ、というテーゼは分かってもでは実際にどうやって立場が違うもの同士歩調を揃えて動けばいいのかという問題が実施段階にて発生しやすい。課題の構造がパターンランゲージ的である。
あるいは、製品アイデアや製品改良について、ユーザー側を工夫とイノベーションの起点とするとの考え方がある。MITのヒッペル教授や神戸大の小川先生が提唱するユーザーイノベーションのモデルがあるが、コラボレーション的に事を進める場合、ユーザーと事業者が、ヒアリング対象とヒアリング主体といった風に主客分かれるのではなくて同じ目線で同じ目標で議論が出来る環境が求められる。これまた課題の構造がパターンランゲージ的である。
■ パターンランゲージ的になっていく世の中?
これらの動きへのアプローチ手法が全てパターンランゲージが妥当解と言えるかは、現状まだ良く分からない。それこそ、場を上手く作れるのなら、井庭さんともしっかり議論を進めたいところである。
であるが、「閉じこもって中で技術磨いてるだけではなかなか商売にならんのだなぁ」という企業側からの声が聞こえてくるような状況で、パターンランゲージの注目度がじわじわ高まっているのは、割とすっきり腹落ちするところである。。

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渡辺 聡(わたなべ・さとし)

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任助教。神戸大学法学部(行政学・法社会学専攻)卒。NECソフトを経てインターネットビジネスの世界へ。独立後、個人事務所を設立を経て、08年にクロサカタツヤ氏と共同で株式会社企(くわだて)を設立。大手事業会社からインターネット企業までの事業戦略、経営の立て直し、テクノロジー課題の解決、マーケティング全般の見直しなど幅広くコンサルティングサービスを提供している。主な著書・監修に『マーケティング2.0』『アルファブロガー』(ともに翔泳社)など多数。