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メイカーが作り出した未来 - Make原理主義-

2015.02.16

Updated by Masakazu Takasu on February 16, 2015, 12:01 pm JST

情報処理学会の学会誌「情報処理 55号(2014年10月号)」で「モノづくりの現在 -DIYから製造まで」というMake特集があり、「ボクらはなぜ,作るのか─「楽しむ」ことから世界は変わる─」(PDFです、僕が書いたぶんは許可を得てまるごと公開します)という原稿を書きました。

20150216.jpgのサムネール画像全体の構成は以下のようになっています。

1.ボクらはなぜ,作るのか -「楽しむ」ことから世界は変わる- (高須 正和)
2.研究者のモノづくり -インタラクション研究のための段階別プロトタイピング(神山 洋一)
3.放課後のモノづくり -個人と企業の狭間の「インディーズ」研究開発(田中 章愛)
4.プロのモノづくり -ハードウェアビジネスの現在(岩佐 琢磨)
5.「作る」を作る -スマホ連携ツールキットkonashiの場合(青木 俊介)
6.ユメをカタチに -ハードウェア起業の「壁」を越えた先へ(岡島 康憲)

各界でバリューを出してる人たちが書いていて、実際におもしろい特集です。Amazonで全体の冊子を売っています。僕以外の著者の方を簡単に紹介します。

「2.研究者のモノづくり -インタラクション研究のための段階別プロトタイピング」の著者である神山さんは、慶應義塾大学メディアデザイン研究科で、研究のためのプロトタイプを数多く作っています。自然科学の研究はコンピュータ上で物理シミュレーションすることが多いのですが、インターフェース系の研究はプロトタイプをたくさん作る必要があります。

「3.放課後のモノづくり -個人と企業の狭間の「インディーズ」研究開発」の田中さんは、SONYで働きつつVITROというMakerユニットなど、大企業の組織から離れたところでMake活動を行っています。その活動が企業にフィードバックされ、SONY内でのMakerスペースの開設に繋がったりしている人です。

「4.プロのモノづくり -ハードウェアビジネスの現在」の岩佐さんは、Cerevoという会社で「少人数でもハードウェアを量産して売る」というハードウェアベンチャービジネスをはじめた、国内の先駆者の一人です。

「5.「作る」を作る -スマホ連携ツールキットkonashiの場合」を書いた青木さんは、「プロトタイプを作りやすくするためのツールキット」を作っていて、「作るための道具を作る」をしている人。

「6.ユメをカタチに -ハードウェア起業の「壁」を越えた先へ」の岡島さんは、DMM.Make Akibaでハードウェアを作ろうとしている人に、もの作り以外の部分を含めた様々なサポート、たとえば起業のアドバイスなどをしたりしている人です。

このように、Make界隈でさまざまに活躍している人たちが「モノづくりの現在」について書いているわけですが、僕が執筆を依頼されたのは「Makeの原点」みたいな話でした。

Makeのお膝元はアメリカのMakerMediaという会社(2014年に米オライリーから分社。日本では、「オライリー・ジャパンのMake部門」が引き続きMake活動を牽引しています)で、本拠地はMake:Magazineという雑誌です。僕はオライリー・ジャパンの人たちに機会を与えてもらって、2012年にはMakerMediaの発起人で今も社長を務めているDale Dougherty(『僕らはみんな何かの作り手だ!』)、2013年にはMake:Magazineの編集長Mark Frauenfelder(『「Makeすることで世界は変わる」~「Make」編集長が語るMakerムーブメント』)にインタビューを行ったことがあり、そこを踏まえて書いて欲しいという依頼でした。

彼らはいわばMakeの教祖なので、彼らが唱えている考え方は、Makeの原理主義みたいなものだと思います。Daleは「作ることを楽しみ、シェアしましょう」とさまざまな機会に繰り返し語っています。彼の語る"シェア"には、「相手のための奉仕」という意味合いはほとんど無く、「お互いがより楽しむために、Makeの行為を見せあって楽しもう」というものです。

Markは、「Made by Hand ―ポンコツDIYで自分を取り戻す」という、彼とMake活動についての関わりを記した本を書いています。クリス・アンダーセンの名著「MAKERS」にくらべるとおそらく読んだ人は少ない本だと思いますが、「モノを作ることによる、自分と社会の関係の変化」について面白い体験が綴られています。実例を挙げると、以下のようなことです。

例えば木のイスを自分で作ってみたとして、
・はじめてだったら、もちろん苦労するし、何度かは失敗するかもしれない。
・失敗することによって、より深くイスについて考えたり学んだりできる。「どうやると座りやすくなるのか」「木目の扱いはどうやるのか」「木材加工ってどうやるのか」。
・当然、売っているイスほどは上手にできないので、「どうやって、良いイスを作っているのか」に目が向く。
・それまで自分と無縁だった「イス」が、「じぶんごと」になる。
・そうやって、社会のいろいろなことが「じぶんごと」になっていく。
・作る人たちと交流していくと、あらゆることがどんどん「じぶんたちのこと」になっていく

おそらく、バーニングマン等とも共通する、世の中のすべてを「じぶんたちのこと」と考える思想が、ここに現れているのだと思います。一見、近代文明否定っぽく見えるかもしれませんが、「事象には原因や構造、しくみがあって、そこをきちんと考えると事象に影響できる」という、むしろサイエンスやエンジニアリングの原点的な考えとも近い考え方だと僕は捉えています。

DaleもMarkも、Makeによる社会的な影響、新産業の創造や教育的な効果については、「あくまで結果」として、あまり多くを語らず、「自分が楽しむために、仲間を広げ、自分たちが楽しむことをいかに進めていくか」について何度も語っています。メイカーを見るときに、「面白そうにやっているかどうか」を基準にするのはよい考え方です。

今はMakeの活動の産物が、社会を変えるような大きな役割を果たすようになり、メイカーがその活動だけで暮らしていけるようになり、人の関心を集められるようになりつつあります。

自分が作りたいものを、作りたいように作る人たちが、世の中全体を巻き込んでいく、いわばギークが直接未来を作り出していく時代に今はなっているわけですが、その活動の根っこの部分を作った人たちが、「作ることを楽しむことが、いちばん大事」と語っているのは、非常に夢のある考えだと思っています。

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高須 正和(たかす・まさかず)

無駄に元気な、チームラボMake部の発起人。チームラボニコニコ学会βニコニコ技術部DMM.Makeなどで活動をしています。日本のDIYカルチャーを海外に伝える『ニコ技輸出プロジェクト』を行っています。日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があり、メイカーズのエコシステムという書籍に活動がまとまっています。ほか連載など:http://ch.nicovideo.jp/tks/blomaga/ar701264