カンボジアの携帯電話事情(4) - 地場ブランドのスマートフォンも存在
2015.03.13
Updated by Kazuteru Tamura on March 13, 2015, 15:00 pm JST
2015.03.13
Updated by Kazuteru Tamura on March 13, 2015, 15:00 pm JST
カンボジア王国(以下、カンボジア)では移動体通信事業者の販売店やショッピングモールなど、様々なところでスマートフォンを販売している。日本からカンボジアに進出したイオンモールでもスマートフォンが販売されており、しかも品揃えは非常に充実している。また、あまり知名度は高くないものの、地場ブランドのスマートフォンも存在する。今回はそんなカンボジアのスマートフォン事情を紹介する。
カンボジアでは様々なところでスマートフォンを購入できるため、スマートフォンの購入に困ることはないだろう。プノンペン市内を歩くと、個人商店のような小規模な販売店でスマートフォンやSIMカードを無造作に並べて販売している様子をよく見かける。
しかし、このような販売店では大手のメーカーやブランドに似せた模倣品やジャンクに近い中古品も少なくない。安価で購入することはできるものの、当然ながら故障の際の保証はなく、動作についても保障されておらず、また盗難品をそれと知らずに買わされることもあるという。それでもカンボジアにおいてはエントリークラスのスマートフォンでさえ新品は高価であり、中古のスマートフォンが主流となっているため、このような販売店がいたるところに見られる。
現地の人は模倣品を偽物と表現することもあり、確実に本物の新品を入手したければショッピングモール内のスマートフォン売り場に行けば良いという。プノンペンにはいくつかのショッピングモールが存在するが、その中でもイオンモールプノンペンは品揃えが充実しているとのことで、足を運んだ。
イオンモールプノンペンはカンボジア初のイオンモールで、2014年6月30日に正式に開業した。言うまでもなく日本でお馴染みのイオンモールがカンボジアに進出したものであり、モール内には日本企業の出店が目立っている。
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ノジマはイオンモールプノンペンに出店している企業の一つで、スマートフォンなどの販売を手掛ける。Sony Mobile Communicationsなどグローバルで展開するメーカーのスマートフォンだけではなく、Hiya Mobile Cambodiaなど東南アジアの一部地域のみで展開するローカルなブランドのスマートフォンも取り扱っており、品揃えは非常に豊富である。各スマートフォンは電源が入った状態で実機が丁寧に並べられており、手に取って動作や操作性を確かめながら選べる。また、ノジマで購入したスマートフォンは保証が受けられるため、安心してスマートフォンを購入できる。ノジマの中にはSmartブランドで展開する移動体通信事業者のSmart AxiataがSmart Shopとしてブースを構えており、必要であればSIMカードもついでに購入できる。
また、イオンモールプノンペン内にはノジマとは別にスマートフォンを販売するコーナーが設けられている。その他、Samsung Electronicsの販売店、スマートフォンやアクセサリを販売するテナントも入居している。Smart Axiataはノジマ内のSmart Shop以外にApple製のスマートフォンiPhoneを体験できるコーナーを用意しており、iPhone向けアクセサリの販売も手掛けている。Smart Axiata以外の移動体通信事業者ではCellcardブランドで展開するMobiTelもイオンモールプノンペン内に販売店を構える。
このようにイオンモールプノンペンではスマートフォン関連の販売店が充実している。あまりの充実ぶりに少し過剰に感じるかもしれないが、それだけ需要が高いと考えられる。
▼無造作にスマートフォンなどを並べて販売するプノンペン市内の商店。
▼イオンモールプノンペンの正面。日本で見慣れたイオンモールの看板であるが、店内はスマートフォンなどの販売店が充実して楽しめる。
▼イオンモールプノンペンに入るノジマと隣にあるSamsung Electronicsの販売店。ノジマにはSmart Shopが入っている。
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▼イオンモールプノンペン内にあるSmartのiPhone体験コーナー。iPhone向けアクセサリも充実している。
▼イオンモールプノンペンにあるCellcardの販売店。
▼イオンモールプノンペンにはノジマ以外にもスマートフォン販売コーナーがある。
▼イオンモールプノンペンに入居するスマートフォンやアクセサリを扱うテナント。店名は日本語でも書かれており、カンボジアにいることを忘れそうになる。
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東南アジア各国では地場ブランドのスマートフォンが少なくない。もちろん、カンボジアにも地場ブランドのスマートフォンが存在しており、カンボジアで設立されたHiya Mobile Cambodiaが地場ブランドとしてHiyaブランドを冠したスマートフォンやフィーチャーフォンを展開している。
Hiya Mobile Cambodiaは台湾のMediaTek(聯發科技)と提携して2012年より事業を開始しており、カンボジアにおけるスマートフォンやフィーチャーフォンの販売を主要事業としている。製品のラインナップは決して豊富ではないが、プノンペン市内にはショールームを設置しており、イオンモールプノンペンやシティモールといった規模が大きいショッピングモール内にも販売ブースを設けている。ショールームや販売ブースなどを正規販売店として構えることはブランディングの一環であり、人が集まりやすいショッピングモールに設置することで知名度の向上を狙う。また、無名のブランドが多く流通するカンボジアでそれらと一線を画す狙いもある。
正規販売店で購入した場合は模倣品を買わされる心配がなく、1年間の保証も受けられるため、消費者にとって正規販売店で購入するメリットは大きい。ただ、正規販売店の数はまだ少なく、2015年2月末時点ではプノンペン市内に限られている。Hiya Mobile Cambodiaは決して存在感を示しているとは言えず、今後の正規販売店の増加やラインナップの拡充が知名度を向上させるためのカギになるだろう。
Hiya Mobile Cambodiaについては、カンボジアの地場ブランドであること以外に、もう一つ外せないことがある。それは、AEON MICROFINANCE (CAMBODIA)との提携である。AEON MICROFINANCE (CAMBODIA)は日本のイオングループに属する企業で、カンボジアにおいて総合金融事業を手掛ける。Hiya Mobile Cambodiaとは2012年より提携しており、この提携によってスマートフォンの分割払いを実現し、新品のスマートフォンの購入を容易にしたとアピールしている。
Hiya Mobile Cambodiaのフラッグシップとして展開されているスマートフォンHiya X Oneは価格が120米ドルに設定されているが、カンボジアでは120米ドルのスマートフォンは高価なものである。そこで、一括払い以外に22.5米ドル/月の6回払いとする分割払いを導入した。分割払いの支払総額は135米ドルとなるが、一度に大金を支払う必要がないことはスマートフォンを購入する際のハードルを大きく下げる。なお、分割払いを申し込むためにはIDカード、給与明細、住所証明書の提出が必要となり、AEON MICROFINANCE (CAMBODIA)側の判断で分割払いを断られる場合もあるため注意しておきたい。
▼プノンペン市内にあるオフィス兼ショールーム。
▼イオンモールプノンペンに設けられた販売ブース。
▼Hiya Mobile Cambodiaのフラッグシップとして展開されているHiya X One。
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地場ブランドのHiya Mobile Cambodiaよりカンボジアで存在感を示しているブランドがあり、それがSINGTECHブランドを展開するSINGTECH IT & Communicationsである。本社をシンガポールに置く企業であるが、シンガポールでは展開せず、カンボジアやミャンマーにおいてスマートフォン、フィーチャーフォン、タブレットなどを展開している。実際に、シンガポールの街ではSINGTECH IT & Communicationsの広告を見かけることはなかったが、プノンペンやヤンゴンにおいては販売店や広告をよく目にした。特にプノンペンではSINGTECH IT & Communicationsの広告を目にしない方が難しく、カンボジアの企業と言われたら信じてしまいそうなくらい、カンボジアで存在感を示していた。
SINGTECH IT & Communicationsは比較的豊富なラインナップを用意しているが、いずれもエントリークラスの価格帯に設定されている。カンボジアのような低価格な端末の需要が高い市場において、低価格な端末のみを投入することで販売台数を伸ばしている。ボリュームゾーンのみを攻める戦略が功を奏しているのである。また、カンボジアの公用語であるクメール語に対応したスマートフォンは多くないが、そんな中でクメール語に対応したスマートフォンやタブレットを積極的に投入していることもカンボジアで受け入れられた理由の一つだろう。
このようにしてカンボジアにおける存在感を高める中で、Smart AxiataがSINGTECH IT & Communicationsの端末を正規に販売している。移動体通信事業者が正規に取り扱うことは、ますますブランドの存在感を高める要因の一つとなっている。
▼小規模な販売店がSINGTECHの看板を出しているが、それはSINGTECHブランドがカンボジアで浸透していることを物語っている。
▼プノンペン市内に設置されているSINGTECH SAPPHIRE Prime Turbo Z500Tのビルボード。カンボジアでは大小さまざまなSINGTECHの広告をよく目にする。
▼Smartの販売店に展示されているSINGTECH SAPPHIRE Prime Turbo Z500T。もちろんクメール語に対応する。
▼Smartの販売店に展示されているSINGTECH SAPPHIRE i-Tab Mini 7850。パネルには特徴としてクメール語への対応が記載されている。
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カンボジアでは一部の移動体通信事業者が自社ブランドでスマートフォンを販売している。Viettel (Cambodia)がZTE製のスマートフォンをMetfoneブランドで投入し、Xinwei (Cambodia) Telecomが重慶信威通信技術(Chongqing Xinwei Telecom Technology)製のスマートフォンをCooTelブランドで投入している。
しかし、カンボジアでは中古のスマートフォンが主流であるために、移動体通信事業者の販売店で購入するケースは多くない。また、Viettel (Cambodia)は新製品をしばらく投入しておらず、2013年に参入したXinwei (Cambodia) Telecomはシェアが非常に低いため、カンボジアで移動体通信事業者のブランドを冠したスマートフォンを目にする機会は少ない。
▼CooTelブランドを冠したCooTel Mi106。
カンボジアの移動体通信事業者で他とは違う端末戦略をとるのが、Excellブランドを展開するGT-TELL (Cambodia) Investment Companyを買収したSouth East Asia Telecom (Cambodia)だ。自社ブランドのスマートフォンを販売するわけではなく、海外の移動体通信事業者のスマートフォンを販売しているのである。本社併設の販売店にはスマートフォンが販売されているが、そのスマートフォンに入っているロゴはカナダの移動体通信事業者であるBell Canadaの旧ロゴである。
同社は通信方式にCDMA2000方式を採用しているため、GSM系の通信方式を採用する移動体通信事業者と比べて端末の調達が容易ではない。また、CDMA2000方式に対応した安価なスマートフォンはGSM系のSIMロックフリー端末のように大量には出回っておらず、利用してもらうためには移動体通信事業者が自らスマートフォンの販売も手掛けるしかない。しかし、移動体通信事業者の規模が小さく専用のスマートフォンを開発することはコスト面で困難であり、また安価なスマートフォンが求められる市場であるため、海外で販売された型落ちのスマートフォンをそのまま販売しているのである。
▼Excellの本社併設販売店にはBell Canadaの旧ロゴが入ったHTC Touchが展示されていた。カナダで2007年に発売されたスマートフォンが2015年のカンボジアで販売されている。
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カンボジアでは非常に高価なものとなるが、Smart AxiataはiPhoneも正規に販売している。qbブランドで展開する移動体通信事業者のCambodia Advanced CommunicationsもiPhoneの広告を出しているが、カンボジアではSmart Axiataのみが正規代理店に認定されている。
正規代理店であることを示すためか、Smart Axiataはカンボジア唯一のApple公認販売代理店であることをアピールする広告を出している。また、Smart Axiataの本社ビルは巨大なiPhone 6の広告で覆われており、本社併設販売店にはiPhoneのコーナーが設けられている。高価であるが故に販売台数はそれほど多くはないというが、カンボジア在住の外国人が購入していくことは珍しくないとのことである。
Smart Axiataは他の移動体通信事業者より端末の販売に力を入れており、iPhoneだけではなくOSにAndroidまたはWindows Phoneを採用した低価格なスマートフォンをはじめとし、フィーチャーフォンやタブレットの販売も手掛けており、端末のラインナップが最も充実している移動体通信事業者と言える。Smart AxiataはiPhoneを含んだLTEサービスに対応したスマートフォンも取り扱っており、確実にLTEサービスを利用したい場合はSmart Axiataの販売店でスマートフォンを買うことが堅実な選択肢となるだろう。
カンボジアでは新規参入となるメーカーやブランドが増えており、今後のスマートフォン市場の大幅な成長が見込まれている。市場の成長ともに動きが激しくなると思われるため、引き続きカンボジアのスマートフォン市場の動向を注視しておきたい。
▼Smart本社が入るビルはiPhone 6の巨大な広告で覆われている。
▼Smartの本社併設販売店にはiPhoneの販売コーナーが用意されている。
▼展示されているiPhone 6はSmartのLTEネットワークに接続されていた。
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登録はこちら滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。