欧州委員会（European Commision）は現地時間25日、EU域内での単一デジタルマーケット実現に向けた制度改革案の骨子を発表した。対象となる分野が多岐にわたることなどから実現の難航も予想されると同時に、米国勢を中心とする外国企業などにも大きな影響が出る可能性が指摘されている。

アンドゥラス・アンシップ（Andrus Ansips）元エストニア大統領が責任者となって進めるこの取り組みでは、現在加盟国28ヶ国で国ごとに行っている規制などの障壁を取り除くことを通じて、域内全体での市場育成や経済の活性化、公平な取引の実現などを目指そうというもの。改革の対象となる分野のなかには、IT、通信、メディア関連（放送・映画・音楽、出版）、小売などが含まれるという。また具体的な項目としては、携帯通信のローミング料撤廃や、通信インフラ整備のための投資奨励を目的とした事業者負担のバランス見直し、国境をまたぐ商取引の促進を目的とする障壁（"geoblocking"）の撤廃などが挙げられている。

この話題を採り上げたFTでは、まずメディア分野の障壁に言及し、国別にコンテンツの流通に制限がかけられている現状が、消費者にとっても提供者側にとっても不利益につながっているとするアンシップ氏の発言を紹介。またたとえば「英BBCが域内全体に番組を配信するようになれば、お金を出しても観たいという人はたくさんいるだろう」などと同氏が述べたと記している。

いっぽう、Eコマースの分野では、たとえばオランダ人とスロバキア人が同じオンラインのサービスを使ってタクシーに乗った場合、方向や距離がほぼ同じでも、オランダ人のほうが割高な料金を請求されるといった例も挙げられている。

いっぽう通信分野については、以前から議論が続けられているローミング料の撤廃について、先ごろ加盟各国が撤廃の一時先送りに同意したことに対してアンシップ氏が「事業者側が顧客に対して「ウチのサービスをつかうな」と言っているのも同然で、いずれ消費者から嫌われることになる」などと述べたと記している。

それに対して、WSJでは、欧州の通信事業者各社の間で以前から不満の声が上がっている通信インフラ整備に関わる負担の問題に着目し、改革案が実現した場合、「WhatsUp」や「Skype」のようなOTT（Over-The-Top）サービスを提供するフェイスブック（Facebook）やマイクロソフト（Microsoft）などの米企業が、新たに負担の一部肩代わりを求められる可能性があるとしている。また「通信サービス事業者とOTTサービス各社との負担のバランスがとれていないのは誰もが承知していることで、われわれはよりよりバランスを見つけなくてはならない」などとするアンシップ氏の発言も紹介されている。さらにWSJは、欧州委員会でデジタル経済問題を担当するギュンター・エッティンガー（Günther Oettinger）コミッショナーが1月に「他社の著作物を利用するグーグルのような企業に対して税金を課すことも選択肢のひとつ」との考えを明らかにしていたことも紹介している。

Reutersでは、オンライン小売分野で存在する配送料などの障壁が原因で、自国以外のサービスを使って買い物をする消費者が全体の15％にとどまっているとする欧州委員会の調査結果を紹介。その上でこうした障害をなくすことが、域内での経済活性化につながるとする同委員会の考えを記している。

また携帯通信分野については、これまで国ごとに実施されてきた周波数帯の割り当てが足かせとなり4Gサービスの展開・普及が遅れたなどとして、同委員会が各国政府の権限に一定の制限を課す内容なども提案の中に盛り込まれていると指摘している。

なお、欧州委員会では今年5月までに改革案の正式版を完成させる見通しだとWSJは記している。

【参照情報】
・EU's Andrus Ansip unveils plans to overhaul digital market - FT
・EU Considers New Telecom Rules to Level the Playing Field - WSJ
・EU plans to tackle online barriers in digital single market - Reuters