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Foxconn傘下となる計画の亞太電信 - 台湾大哥大のネットワーク利用が問題に

Foxconn buying top stake in Asia Pacific Telecom

2015.04.01

Updated by Kazuteru Tamura on 4月 1, 2015, 15:00 pm JST

台湾の移動体通信事業者である亞太電信(Asia Pacific Telecom)は短期間のトライアルを経て2014年12月24日より正式にLTEサービスを開始した。LTEサービスの導入に合わせてブランド名をGtとして生まれ変わったが、大きな問題も抱えている。

ローミング提携が騒動に

亞太電信は同じく台湾の移動体通信事業者である台湾大哥大(Taiwan Mobile)とローミングで提携しており、亞太電信はLTEサービスの開始に合わせて台湾大哥大のネットワークにおけるローミングを開始した。これによって、亞太電信のLTEサービス利用者は台湾大哥大のネットワークを利用できるようになった。表面上はローミングと名乗っているものの、実態は台湾大哥大のネットワークに依存する状況となり、ローミングの範疇を超えているとの意見も出た。また、亞太電信と台湾大哥大を除いた既存の移動体通信事業者による反発を招き、台湾の行政機関で電気通信関連を管轄する国家通訊伝播委員会(NCC)による調査が実施されるほどの騒動に発展した。今回はこの件にフォーカスを当てる。

ローミング提携の経緯

ローミング提携に至った理由は、複数の要因が挙げられる。LTE用の周波数を獲得して移動体通信事業への参入を狙った鴻海科技集団(Foxconn Technology Group:以下、Foxconn)は、傘下の國碁電子(Ambit Microsystems)を通じて周波数オークションに参加し、計画通りLTE用の周波数を獲得した。

ところが、新規参入となるFoxconn陣営は國碁電子が獲得したLTE用の周波数のみを保有しており、携帯電話サービスを提供するためにはLTEネットワークで音声通話を実現するVoLTEを導入してLTE方式のみで提供、または既存の移動体通信事業者との提携や買収によって音声通話は3G/2Gで提供する選択肢が考えられた。Foxconn陣営は新規参入でノウハウなどに不安があるため、技術習得のためにも既存の移動体通信事業者との提携や買収などが有力視されていた。

そんな中、Foxconnは亞太電信を存続会社として2015年6月末までに國碁電子と統合し、統合後の亞太電信の株式をFoxconnが取得してFoxconn傘下とする案を打ち出した。この案は亞太電信の取締役会において承認された。

亞太電信は3Gで音声通話を提供しているが、3GはCDMA2000方式を採用する。CDMA2000方式はGSM系の通信方式と比べて採用数が少なく、端末の調達もGSM系と比べると容易でない。台湾では亞太電信以外のすべての移動体通信事業者はGSM系の通信方式を採用しており、亞太電信は端末のラインナップが劣っていた。そのため、亞太電信はCDMA2000方式からの脱却を狙っており、国家通訊伝播委員会へ提出した事業計画では2014年末までに2000局のVoLTE対応のLTE基地局を設置すると記した。しかし、亞太電信の想定よりVoLTE対応端末の普及が遅く、それでも脱CDMA2000方式を狙う亞太電信はローミング提携として台湾大哥大のネットワークを利用することで、CDMA2000方式に非対応の端末を投入できるようになった。

ローミング提携はFoxconnと台湾大哥大の戦略的提携によって実現しており、戦略的提携にはFoxconnによる台湾大哥大への出資、台湾大哥大による統合後の亞太電信への出資、國碁電子から台湾大哥大へ周波数の売却、そして亞太電信による台湾大哥大のネットワークを利用したローミングが含まれている。亞太電信と國碁電子の統合は完了していないが、これらの一連の動きから亞太電信は実質的にFoxconnの支配下にあることが見て取れる。

音声通話は亞太電信のネットワークではなく、基本的に台湾大哥大のネットワークを利用することになるが、既存の移動体通信事業者を傘下とすることで移動体通信事業への参入を円滑に進め、技術習得も見込めるため、亞太電信を傘下とすることはFoxconnにとって大きな価値があると考えられる。また、亞太電信は規模が小さく、Foxconnにとって傘下とすることが容易であったとも考えられる。このように様々な事情が絡み、Foxconnは亞太電信を傘下とすることで決定し、亞太電信は台湾大哥大とのローミング提携に至った。

亞太電信のサービスセンターに展示されているHTC Desire EYE。CDMA2000方式には非対応である。

亞太電信のサービスセンターに展示されているHTC Desire EYE。CDMA2000方式には非対応である。

Foxconnと戦略的提携を締結した台湾大哥大はお洒落な販売店も構える。

Foxconnと戦略的提携を締結した台湾大哥大はお洒落な販売店も構える。

台湾大哥大のLTE/W-CDMAを利用

ローミング提携では亞太電信が台湾大哥大のLTE/W-CDMA方式を利用する。台湾大哥大はGSM方式も提供するが、ローミング提携では利用できない。ローミングで利用する台湾大哥大のネットワークはLTE方式が700MHz帯(Band 28)と1.8GHz帯(Band 3)で、W-CDMA方式が2.1GHz帯(Band I)である。APT700 FDDと呼ばれる700MHz帯は亞太電信も保有し、日本を含む世界各地で採用が計画されており、対応端末は一気に増えている。1.8GHz帯はLTE方式で最も採用数が多いことで知られており、また2.1GHz帯のW-CDMA方式は3Gで最も採用事例が多いことは言うまでもない。

台湾大哥大のネットワークを利用することで端末調達が容易となり、亞太電信はLTEサービスの開始に合わせて今までは取り扱えなかったグローバルモデルなどもラインナップに揃え、ローミング提携によるメリットが目に見える形で表れている。

亞太電信のLTEを使えない亞太電信のLTE対応SIMカード

亞太電信はローミング提携としているが、実態は台湾大哥大のネットワークに依存する状況にある。亞太電信はLTE対応のプリペイドSIMカードを販売しており、ローミング提携の真相を探るべく筆者はそれを購入した。SIMカードのPLMN番号は亞太電信を指す466-05となっており、当然ながらこれには問題ない。

ところが、接続先ネットワークのPLMN番号は台湾大哥大を指す466-97に接続された。466-05が圏外の場所であれば仕方ないと思っていたが、466-05のLTEネットワークを検出した場所において手動で466-05への接続を試みると接続が拒否され、自動に設定すると再び466-97に接続された。亞太電信が保有する周波数範囲で466-05と466-97の両方を吹いている可能性も考えられたので検証を行ったが、そのような事実は認められなかった。

検証の結果、亞太電信が提供するLTE対応のプリペイドSIMカードでは、まったく亞太電信が運用するネットワークを利用できないことになる。事業者名は多くの端末では事業者名がGtと亞太電信のブランドで表示された。一部の端末ではGtと表示されずに、素直に台湾大哥大と表示されたが、多くの端末ではあたかも亞太電信のネットワークに接続しているように見えた。

亞太電信は700MHz帯の10MHz幅のみで運用しているため、通信速度は下り最大75Mbps/上り最大25Mbpsであるが、亞太電信のLTEサービス開始当初の台湾大哥大は700MHz帯の15MHz幅と1.8GHz帯の5MHz幅で運用しており、700MHz帯の15MHz幅であれば通信速度は下り最大112.5Mbps/上り最大37.5Mbpsとなる。通信速度を測定してみると、亞太電信の理論値を大幅に超える速度が出ることもあったが、これは台湾大哥大のネットワークを利用するためである。また、台北市内では台湾大哥大の屋内基地局を設置した亞太電信のサービスセンターも発見しており、さすがにやりすぎとの印象を受けた。

亞太電信のLTE対応プリペイドSIMカード。台湾桃園国際空港で購入した。

亞太電信のLTE対応プリペイドSIMカード。台湾桃園国際空港で購入した。

PLMN番号から始まるSIMカードのIMSIを確認すると、亞太電信の466-05となっている。しかし、接続先のネットワークは台湾大哥大の466-97である。また、亞太電信は1.8GHz帯を保有しないが、台湾大哥大の1.8GHz帯を利用できる。

PLMN番号から始まるSIMカードのIMSIを確認すると、亞太電信の466-05となっている。しかし、接続先のネットワークは台湾大哥大の466-97である。また、亞太電信は1.8GHz帯を保有しないが、台湾大哥大の1.8GHz帯を利用できる。

亞太電信のLTE対応SIMカードを挿入してネットワークを検索すると台湾大哥大がGT 4Gと表示された。本来の亞太電信のネットワークであるAPTを選択しても接続できない。なお、SIMカード未挿入の場合はGT 4Gと表示されず、台湾大哥大を示すTW Mobileと表示される。

亞太電信のLTE対応SIMカードを挿入してネットワークを検索すると台湾大哥大がGT 4Gと表示された。本来の亞太電信のネットワークであるAPTを選択しても接続できない。なお、SIMカード未挿入の場合はGT 4Gと表示されず、台湾大哥大を示すTW Mobileと表示される。

通知バーにはGT 4Gと表示されるものの、事業者名は素直にTW Mobileと表示される場合もある。

通知バーにはGT 4Gと表示されるものの、事業者名は素直にTW Mobileと表示される場合もある。

亞太電信のサービスセンターに展示されているInFocus M810。屋内基地局が設置されており、信号強度は-45dBmと非常に強い。この環境で通信速度を測定すると、下りが100Mbpsを超えることもあった。

亞太電信のサービスセンターに展示されているInFocus M810。屋内基地局が設置されており、信号強度は-45dBmと非常に強い。この環境で通信速度を測定すると、下りが100Mbpsを超えることもあった。

亞太電信のサービスセンターに展示されているApple iPhone 6 Plus。通知バーにはGTと表示されているが、帯域幅が15MHz幅となっており、間違いなく台湾大哥大のネットワークであることが分かる。

亞太電信のサービスセンターに展示されているApple iPhone 6 Plus。通知バーにはGTと表示されているが、帯域幅が15MHz幅となっており、間違いなく台湾大哥大のネットワークであることが分かる。

事業計画に反するとして処分も

ローミング提携で亞太電信が台湾大哥大に依存する状況に、競合他社は黙っているわけがない。特に3大移動体通信事業者から大きくシェアを離され、亞太電信と近いシェアで競り合う台湾之星電信(Taiwan Star Telecom:以下、台湾之星)は反発の意をあらわにしている。この騒動を受けて国家通訊伝播委員会はローミング提携に関する詳細な資料を提出するように求め、最終的には一般的なローミングとは言えないと結論を出している。

並行して国家通訊伝播委員会は亞太電信と國碁電子の統合申請の審査を進めていたが、その過程で驚くべき事実が発覚した。当初の亞太電信の事業計画では2014年末までに2000局のVoLTE対応基地局を設置するとしていたが、2015年1月末の時点で300局に満たないことが判明した。亞太電信の基地局の少なさは公式ウェブサイトで公開しているエリアマップからも推測できる。亞太電信はLTEサービスのエリアマップとして、4Gと4G (VoLTE only)の2種類を公開している。小さく注意が書かれているが、4Gは台湾大哥大の提供エリアを含んでおり、4G (VoLTE only)は亞太電信のVoLTE対応基地局のみとなる。比較するとその差は一目瞭然である。亞太電信はしばしばエリアの広さをアピールしているが、それは台湾大哥大のエリアを指すことになる。

また、当初の事業計画にはローミング提携は含まれておらず、事業計画を変更せずにローミング提携を開始したことも問題視された。亞太電信と台湾大哥大に対しては移動体通信に関する規則である行動寬頻業務管理規則に違反するとして、それぞれ30万台湾ドルの罰金が命じられている。

そして、亞太電信と國碁電子の統合案は事業計画に沿っていないことを理由に却下された。國碁電子は2014年12月3日付けでLTEサービスのライセンスを交付されており、2015年6月3日までにLTEサービスを開始しなければ免許の剥奪となる。Foxconnは國碁電子のLTEサービス開始期限が迫る中で亞太電信との統合案を再考する必要があり、悩ましい状況にあると言える。

亞太電信の公式ウェブサイトに掲載されているエリアマップ。上が台湾大哥大のネットワークを含み、下が亞太電信のVoLTE対応基地局のエリアのみである。上は2014年12月24日時点、下は2014年11月24日時点と更新日に差はあるが、上は離島もエリア化済みであることに対し、下は台北とその近郊、台中、高雄に限られている。[出典:http://www.aptg.com.tw/others/Coverage.htm]

亞太電信の公式ウェブサイトに掲載されているエリアマップ。上が台湾大哥大のネットワークを含み、下が亞太電信のVoLTE対応基地局のエリアのみである。上は2014年12月24日時点、下は2014年11月24日時点と更新日に差はあるが、上は離島もエリア化済みであることに対し、下は台北とその近郊、台中、高雄に限られている。[出典:http://www.aptg.com.tw/others/Coverage.htm]

売却した周波数まで利用できることに

國碁電子は台湾大哥大に周波数を売却したが、これには亞太電信と國碁電子の統合計画が大きく影響している。台湾ではLTE用の周波数オークションを実施するにあたり、1社が取得可能な帯域幅の上限などが設定され、カバレッジの拡大に有利な1GHz未満の周波数は上限が25MHz幅と定められた。亞太電信は700MHz帯の10MHz幅、國碁電子は700MHz帯の10MHz幅と900MHz帯の10MHz幅で計20MHz幅を獲得した。ここまでは問題ないが、亞太電信と國碁電子が統合することで1GHz未満の周波数だけで30MHz幅となり、上限を超えることになる。5MHz幅は放出必至となったため、戦略的提携の一環として台湾大哥大に売却した。

これは台湾大哥大にも大きなメリットがある。國碁電子が保有する700MHz帯は台湾大哥大の700MHz帯と隣接しており、台湾大哥大と隣接する5MHz幅を売却すれば台湾大哥大は連続した20MHz幅で提供できるようになる。連続した20MHz幅であれば通信速度は下り最大150Mbps/上り最大50Mbpsに高速化できる。帯域幅の拡張で混雑緩和も期待できるため、台湾大哥大にとって都合が良い。700MHz帯は900MHz帯(Band 8)や1.8GHz帯と異なりすぐに利用できるため、2015年3月に国家通訊伝播委員会の承認を受けてすぐに700MHz帯を20MHz幅に拡張すると発表した。

ローミング提携で台湾大哥大のネットワークを利用する亞太電信は、当然ながら拡張された帯域幅も利用できる。國碁電子が売却した周波数を亞太電信が利用できるという、このFoxconnの策略にはただただ脱帽するばかりである。

規則の改正にも波及

国家通訊伝播委員会は当初より行動寛頻業務管理規則を改正することで決まっている。ただ、Foxconn陣営の一連の騒動があったせいか、移動体通信事業者の統合や周波数オークションに関して新たな制約が盛り込まれることが有力視されている。今後の台湾では行動寛頻業務管理規則の改正だけでなく、LTE用に解放される2.6GHz帯の周波数オークションも待っている。亞太電信と國碁電子の統合計画の行方などFoxconn陣営の動向のみならず、引き続き台湾の移動体通信業界は要注目である。

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田村 和輝(たむら・かずてる)

滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。

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