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ルミネCM大炎上から学べること

What we can learn from Lumine's controversial ad campaign

2015.04.22

Updated by Mayumi Tanimoto on April 22, 2015, 03:09 am JST

少し前のことですが、ファッションビルであるルミネのCMが大炎上いたしました。この炎上の件に関して、連載で意見を書いたり、また朝日新聞の取材を受けたりしました。この件はネット界隈ではまだまだ燻っています。

ルミネよ、客を怒らせてどうするんだ

「仕立て方は王道、描き方に問題」 ルミネ動画を検証

このCMが炎上してしまったのは、ルミネのターゲット顧客である20代後半から40代の働く女性が直面する日々の苦しみや心を無視してしまったところにあるわけですが、同社の意思決定層は、

最も重要な顧客の気持ちを全くわかっていない、というのがわかってしまいました。

しかし、日本ではこのCMが単に性差別的だ、不愉快だという「感情論」で終わってしまい、これが企業統治(ガバナンス)の問題である、ということがほとんど議論されていないのはもっと重要な問題です。

まず、統治がしっかりした組織ならば、広告を作成した後に、それを放送して良いかどうか、法務部やリスク管理部のチェックを通る体制があるはずです。ルミネにはどうもそれがなかったか、チェックする人々がリスクを十分理解していなかった様です。

さらに、企業の広告というのは顔のようなものですから、その上層の人々が最終的なチェックをするべきですが、その人々のチェックをすり抜けてしまったか、その人々自身が、何を言ったら顧客を不愉快にするか、21世紀においては、何を言って良いのか悪いのか、を理解できていなかったわけです。

つまり、チェック体制が機能していなかった上に、チェックする際の指標も機能していなかったのです。

つまり統治に穴があるということです。

さらに、チェック体制以上に恐ろしいのは、こういう差別的な広告を「良い」とする人々がこの企業を経営していることが、世間にも従業員にもテナントにもよくわかってしまった、ということです。

ルミネはファッションビルなので、テナントにも従業員にも女性が少なくないわけですが、そういう差別意識でガチガチで、人が何を感じようか気にしていない人々が、人事管理の仕組みにゴーを出し、産休の仕組みを決め、仕事のやり方を決めている。そういう企業で働きたいと思う優秀な人は多くはないでしょう。

男性だって女性だって、差別意識でガチガチの人達のためにお金を稼いでも楽しくありません。

ワタクシは学生の頃からルミネを使っていますが、ルミネのエレベータというのは大変狭くて子連れでベビーカーで移動だと大変不便で、飲食店に入る際には入り口段差があったり、そもそも入り口が狭くてベビーカーごと入れなかったりするわけですが、そういう人達が色々決めているのであれば、それは当たり前のことなのかもしれません。先々月も子連れで飲食店に入ろうとしましたが、腰痛持ちの自分一人ではベビーカーを担いで段差を乗り越えて移動することが無理だったので、行くのを諦めたテナントがありました。

こういう性差別主義広告での炎上は日本に限ったことでもありません。通信業界やIT業界は、グローバル展開している企業が多いので、何を発信するかにはかなり注意していますが、それでも炎上する例というのもあります。

例えば有名な例の一つとして、コスタリカの通信事業者であるClaroの性差別的なツイートががあります。同社はメキシコで市場の70%を牛耳るAmérica Móvilが所有していますが、

マチズモが大問題になっているメキシコと同じく、コスタリカでも女性への差別や暴力は少なくなく、過去5年ほどの間に40名以上が配偶者に殺害されています。こういう社会状況を反映しているのか、国を代表する企業である同社も性差別的なPRをやることで有名です。

例えば「The response “No” by women comes from the Latin for “beg me a little more」(女性のノーはラテン語の『もうちょっと私に恵んでちょうだい』という表現から来ている)というツイートははコスタリカの司法長官の目にも入り、即取り消すように求められ、Claroは数時間後に取り消しますが、謝罪の仕方が微妙だったために延焼してしまいます。

同社はニカラグアで「もっともセクシーなメッセージを送ろう!」というキャンペーンを展開し、地元の女性団体の怒りを買い大々的な反対運動に発展しました。町中には同社を批判する垂れ幕が掲げられ、後日、謝罪と女性の地位向上を啓発するキャンペーンに協力することを約束します。

以下は性差別的だとしてネットで話題になったサムソンの広告です。この広告に登場する白人の女性は「コンピューターは子供の写真を見る程度にしか使わないわ、スイッチを入れるのが大変!」と言っている一方で、男性たちはコンピューターを仕事で使っている姿で登場し、もっと複雑なことを語ります。Youtubeでこの動画を見ると、様々な国の消費者が激怒しているのがよくわかります。

サムソンの宣伝は日本のメーカーや家庭用消費財の宣伝でよく見かけるような内容ですが、世界中の不特定多数が動画や画像を簡単に共有できる今日、この様な広告でも大炎上するのです。

上記の炎上例、日本の感覚だと「この程度で?」と思うかもしれませんが、性差別に対して考え方の異なるところでは、日本の感覚は通用しないのです。

通信やITの世界では女性や少数派のプレゼンスというのがまだまだ大きくはないわけですが、ルミネの件で「この程度で?」と思った方は、まずそう思ってしまった自分の感覚に問題がある、と思った方が良いでしょう。

 

 

 

 

 

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。