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渡る橋を燃やす従業員

Employees who burn bridges

2015.04.28

Updated by Mayumi Tanimoto on April 28, 2015, 04:51 am JST

イギリスやアメリカでは転職しながらキャリアアップしていくのが当たり前なので、転職することは珍しくありません。

辞めたからといって、おらが村を裏切ったどんでもない奴、脱藩した奴、という扱いはあまりしません。よっぽどのことをしなかった限りは、仲の良かった同僚は付き合いを継続しますし、辞めた会社に遊びに行くこともあります。

退職した職場に戻ることもあります、戻ってきたからといって驚くわけではなく、「やあまたきたね」という感じでノリは軽いのです。出戻り社員は他の職場で良い経験を積んだ、人脈を作ったということで珍重されることもあるのです。

しかし、そういう風に辞めた会社に遊びに行ったり、出戻りするには、「きれいに辞める」ことが重要です。

転職が多い社会だ方こそ、実は転職する人や辞め方に大変な気を使いますし、送り出す方の上司や同僚も大変な気を使います。送別会をやるだけではなく、職場全体で何か記念品をあげたり、カードを上げたり。嫌いだった人でも一応盛大に送り出したりします。なぜなら、その人と別の職場で一緒になる可能性があるし、取引先になる可能性だってあるからなのです。流動性の高い社会では、社交性、外交的であること(つまり相手を気持ちよくする社交術)、綺麗な人間関係を保つ事、が案外大事なのです。一年中大げんかしても問題ないのは、雇用の心配がない公務員や大金持ちです。

ところが、そういう転職が頻繁な社会であるアメリカとイギリスで、Radioに皮肉たっぷりの退職通知をアップしたユーザーが話題になっています。この投稿の題名は「My two week notice」となっていますが、これは通常英語圏では、退職届を出すのが、退職する2週間ぐらい前だからです。

 

My two week notice

 

「義母がガンで突然死んですみませんでした」

「私はロボットではなかったのですみませんでした。そして私は義母の死に関して感情的な影響を受けて仕事を休んでしまいすみませんでした」

「病気になり仕事を休んですみませんでした、そして他の人が病気にならずすみませんでした」

「過去7ヶ月の間、週に47.5時間、法律的に残業代が払われるはずでしたが、サービス残業してすみませんでした。しかしながら、他に選択肢がなく、学校がある時間の間に、病院の予約を入れなければなりませんでした」

「明らかに私は最悪な従業員でそれに関して謝罪します。あなたは他人にどうやって仕事をするべきかいわれたくなくないのを知っていますが、私の代わりを今すぐに見つけることをお勧めします」

 

通常、転職や退職する時は、嫌いな職場ではあっても、後々のことを考えて、burn bridges(橋を燃やす)、つまり、元の職場との縁を切るようなことをしないことが多いのですが、この人は相当酷い扱いを受けて怒っていたようです。

今回アップされたのは皮肉な手紙だけでしたが、これを見て、ハッとしなかったとしたら、あなたの感覚は相当鈍っているといえるでしょう。

これが仮に、職場や上司の名前、仕事の内容、会社名などがわかる形でアップされていたら、どうだったでしょうか?嘘が書いてあったなら訴訟することになるかもしれませんが、会社にとっても、巻き込まれた人にとっても、多大な労力がかかります。また、本当のことが書かれていて、関係者が匿名もしくは実名で、次々と追加情報をアップしたら、仕事がやりにくくなるだけではなく、会社の倫理も疑われるかもしれません。会社の存在自体が危うくなる可能性だってないとは言えないのです。

つまり、誰もが情報を全世界に向けて発信できる今日では、自分や会社にとっての最大のリスクヘッジの一つは、一緒に働く人やお客さん、下請けの会社など、自分の仕事に関係するすべての人達を、自分の家族のように扱うことなのです。

 

 

 

 

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。