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「ウルトラリーン」「ビームフォーミング」がカギ、5Gが目指す低消費電力ネットワークをエリクソンが説明

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2015.05.20

Updated by Naohisa Iwamoto on 5月 20, 2015, 21:18 pm JST

エリクソン・ジャパンは2015年5月19日、報道機関向けのブリーフィングを開催し、「5G」に向けた省エネルギー化のトレンドや技術を紹介した。「5Gネットワークにおける超省エネルギー化の可能性」と題して、同社CTOの藤岡雅宣氏が説明した。

まず、モバイルネットワークのトラフィックは今後も継続的に増加が見込まれており、電力効率を高めないと消費電力が爆発的に増えてしまうという課題を解説。藤岡氏は「今後10年間にトラフィックが1000倍に増加した場合、そのままでは電力消費量も1000倍に達してしまう。世界の通信事業者などが参加する業界団体のNGM(Next Generation Mobile Networks)では、5Gにおいてネットワーク全体の消費電力を現状の半分にする必要があると目標を定めている。そのためには、電力効率を2000倍に高める必要がある」と、目標のハードルの高さを示した。一方で、電力効率を高めてネットワークの消費電力を削減できると、通信事業者のOPEX(運用コスト)削減やエコロジーへの貢献はもちろん、エンジニアリング面での新しい展開にも貢献できるという。

通信していない基地局の消費電力を減らす

ネットワークの消費電力を考えるときに、「ピークをベースに設計された現状のネットワークでは、平均トラフィック量は少なく、多くの基地局がほとんどの時間に利用されていない」(藤岡氏)という現状がある。

▼グラフは基地局のトラフィックの状況を示す。右側が高トラフィックの基地局、左側が低トラフィックの基地局になるように並べたところ、ほとんどの基地局が低トラフィックの「青」を示していることがわかる20150520_ericsson001

一方で、広いエリアをカバーするマクロ基地局の電力消費は、無線信号の増幅に使うパワーアンプ(PA)の消費電力が占める割合が高い。マクロ基地局のPAの電力消費は負荷に依存する割合が他の基地局に比べて高いが、それでも通信に利用されていない間に多くの電力を消費している。

マイクロ基地局、ピコ基地局、フェムト基地局といった狭いエリアをカバーする基地局では、負荷に依存する割合は低く一定の消費電力があるものの、消費電力そのものがマクロ基地局に比べると桁違いに少ない。マイクロ基地局では約10分の1、ピコ基地局では約100分の1といった具合だという。

▼基地局の消費電力は、マクロ基地局ではPAが大半を占める20150520_ericsson002

こうした状況を整理すると「マクロ基地局は数の上では少なくても、消費電力の大半を占めている。現状の基地局ではトラフィックの負荷が減っても電力消費が減らない。5Gなど今後の基地局では負荷が減ったときに電力消費が減るような負荷への依存性を改善する必要がある」(藤岡氏)のだ。

5Gに向けて、負荷への依存性を改善する技術的な方策がいくつか検討されている。低トラフィックのときは、電力消費を抑えるように基地局をダイナミックに制御するのだ。藤岡氏は、「Always OnからAlways Availableへ」の方策として、4つの方向性を示した。

1つは、一般的な3セクタのアンテナで、低トラフィック時には使用を3つの無線ユニットから1つの無線ユニットへと減らす方法。2つ目は、MIMOで複数のアンテナを利用している場合に、低トラフィック時には1つのアンテナに使用を減らす方法。3つ目はマクロセルとスモールセルを重畳して設置するHetNetで、低トラフィック時にはスモールセルのノードを休止する方法。4つ目は、20GHz幅の帯域を利用しているような場合に、低トラフィック時には5GHz幅を1つだけ稼働させるといったキャリアを絞り込む方法である。こうした方策を組み合わせて、低トラフィックの基地局の消費電力を抑え、ネットワーク全体の消費電力を改善できるようにするという考えだ。

▼動的なオンデマンド制御をする4つの方策20150520_ericsson003

5Gでは必要なところに必要なときだけ送信する技術を検討

2020年の商用化を目指した研究開発が行われている「5G」では、ネットワークの電力効率を高めるための検討も進んでいる。藤岡氏は、「3GからLTEへの進化の過程では通信速度やトラフィック容量は大きく改善したが、電力効率に関してはあまり進展がなかった。5Gは、電力効率を高めることも技術開発のスコープに盛り込まれている」と語る。5Gは、6GHz以上の現在は通信に使われていない周波数帯を利用する新しい無線アクセス技術と、既存の6GHz以下の周波数帯でLTEを進化させた技術とを、相互に組み合わせて利用する形態となると見込まれる。そうした中で、電力効率を高めるためのいくつかの要素技術が浮かび上がっている。

▼「ウルトラリーン」ネットワークではシステム情報や参照信号を極力まとめて送信し、ユーザーデータの通信がないときにシステムを休止できるようにする20150520_ericsson004

第1の側面は必要なときだけ送信するための技術。その1つがユーザーデータと制御データの分離で、ユーザーデータはスモールセルから、制御データはマクロセルから通信する。トラフィックの多いユーザーデータは電力効率の高いスモールセルでやり取りするという考えだ。もう1つは「ウルトラリーン」と呼ぶ転送方式。ユーザーデータに直接関係しない通信を極力減らして、ウルトラリーン(超希薄)な転送を実現する。具体的には、LTEでは一定間隔で送信されるシステム情報や参照信号を、ウルトラリーンではユーザーデータの通信がない場合には送信せずに無線装置をスリープさせるというものだ。

第2の側面は必要なところにだけ送信するための技術。スモールセル化を進めて短距離送信により省エネルギー化を進めたり、複数の基地局を組み合わせて送信したりすることでエネルギー効率の最適化を図る。そして、必要なところにだけ送信するための技術として注目されているのが「ビームフォーミング」だという。ビームフォーミングは、電波の指向性を高めて、端末がある方向に向けてだけ電波を放射することで、無駄をなくし効率を高める技術。エネルギーを1方向にだけ集中することで、電波の到達距離が短い高い周波数帯でもカバレッジを広げることが可能になる。「実現のためには、ビーム方向を素早く変更できる自律的な送信技術や、シームレスなビーム交換などの課題があるが、現状でもかなり実現できるところまで技術開発が進んでいる」(藤岡氏)という。

▼端末がある方向にだけ指向性を高めて送信する「ビームフォーミング」20150520_ericsson005

もう1つ、ネットワーク全体の構成からエネルギー効率の向上を考えたときには、「用途ごとに複数のネットワークを用意するのではなく、1つのネットワークで複数の用途に対応できるようにすることが効率向上に役立つ」と藤岡氏は説明する。1つのネットワークを、要求条件の異なる複数のアプリケーションに対応させるために、エリクソンでは「ネットワークスライス」と呼ぶアーキテクチャを提唱している。「アプリケーションごとに要件を満たすネットワークスライスを提供することで、全体としては1つのネットワークで運用が可能になり、消費電力の増加を抑えた運用ができる」(藤岡氏)。

こうした技術や運用の組み合わせにより、5G時代には現在よりも大幅にエネルギー効率を高めたネットワークを作り出すことを目指す。藤岡氏は、「今は、人が住んでいないような場所の基地局も、都心部の基地局と同じように電力を消費している。将来的に電力効率を高めて消費電力を減らすことができれば、人が住んでいないような場所の基地局は自然エネルギー発電で電力をまかなうといったエンジニアリングの進化にもつながる」と、超省エネルギー化を進めたネットワークの可能性に期待を寄せた。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。

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