WWN_robot10

ロボットと人間の境界線はどこにあるのか? 石黒浩教授が「超」授業を公開!

Between robot and human

2015.06.08

Updated by Yuko Nonoshita on 6月 8, 2015, 13:02 pm JST

世界初のアンドロイド・バラエティー「マツコとマツコ」に登場するマツコロイドの制作者として知られるロボット工学の第一人者、大阪大学の石黒浩教授による特別授業が、グランフロント大阪を拠点とするナレッジキャピタルで行われた。本イベントは、「超」学校シリーズと題した大阪大学とのコラボレーション企画として計3回開催されるプログラムの一つで、「わたしの研究、今、ココです」をキーワードに異なる分野をテーマにする教授陣がそれぞれ独自の話題を取り上げる。

第1回目となる石黒浩教授の話題は、もちろんロボット。だが、「あなたとロボットの境界線はどこですか?」というテーマからもわかるように、最新のロボット技術ではなく、人間とロボットの相違はどこにあるのかという、哲学的ともいえる話が中心だ。2006年7月に自身と瓜二つの遠隔操作型アンドロイド『ジェミノイド』のプロトタイプを発表してから現在までその開発を続けている石黒教授は、目指しているのは人知を超えるロボットの開発ではなく、あくまでも「人を知る」のが目的であり、「人類にとって意味のあることは人間に対する興味から生まれるもので、人は人を知りたいから生きているのではないか」と言いきる。

「人間そっくりのロボットを作ってますと言うと、『人間とロボットはどちらが優れているか?』とよく聞かれるのが、そもそも人間のことがわからないからロボットの研究を始めたので答えようがない。単純に計算力や記憶力といった個々の能力を比べればすでにロボットの方が勝っているが、私自身は能力の優劣に興味は無く、なぜロボットと比べたがるのかという人間の心理の方に興味がある」

▼大阪大学やATR(国際電気通信基礎技術研究所)で最先端のロボット開発研究を行う石黒浩教授の貴重な公開授業が大阪で開催された。
WWN_robot01
WWN_robot02

人間の心理を知るために、これまで様々な場所で様々なタイプのジェミノイドが開発され、公開されている。たとえば、一対一の対話能力を持つ女性型アンドロイドのジェミノイドF、通称『ミナミちゃん』は、大阪と新宿の高島屋で販売員として開発された。何度か繰り返し登用されるうちに機能がバージョンアップされ、ついに人間より販売成績を上げられるまでになったそうだ。最初は興味本位だが、それよりも機械はウソをつかないと思い込んでいるので信用してつい買ってしまうという人の心理が背景にある。さらにお客さまの要望に合わせて機能をアップするのだから、優秀になるのは当前だ。

「マツコとマツコ」も番組はバラエティーだがマツコロイドを使って真面目な実験をしており、視聴率も良いことからロボットへの関心が高まっていることが伺える。マツコロイドがアナウンサーのように流暢にニュースを読み上げている場面もあり、教授が開発するアンドロイドの進化を目の当たりにして、”自分の仕事がロボットに奪われてしまうのではないか”という声が授業の参加者から聞かれた。そうした意見に対し石黒教授は「(ロボットとは関係なく)、自分が教えている大学院生が入学して卒業する間の6年ぐらいで、(彼らが就くであろう仕事の)半分ぐらいは変わると実感している。これからはさらにロボットに置き換えられるようになるのは間違いないが、コンサルタントやカウンセラーのような対話職は増えている。単純な仕事は機械に任せて、より人間らしい仕事をやるようになるのではないか」と話す。

▼香港でアイドルとして製作されたジェミノイドF「上海のヤンヤンちゃん」も熱狂的なファンができるほど大人気で、こうして実際に人間の役割をロボットと置き換えると、社会でどのような場面で機械化が進みやすいのかが見えてくる。教授は「次にロボットが爆発的に流行るとしたら様々な要因から中国だと考えている」と言い、中国市場を勉強するために製作に取り組んだとしている。
WWN_robot03

また、見た目だけでなく行動もそっくりにできることから、ロボットをアーカイブとして保存する研究も行なわれている。その一つが、人間国宝の落語家、桂米朝師匠の「米朝アンドロイド」で、2012年7月の完成披露式には師匠本人も参加。当時は苦笑いしながらアンドロイドの落語を観ていたというが、今となってはそのアンドロイドこそが師匠の落語を受け継ぐ存在になっている。

▼「米朝アンドロイド」は桂米朝師匠が先日亡くなられたことで本当の意味でのアーカイブとなった。
WWN_robot04

仕事も動きも人に近づけられたが、残る課題は容姿である。ジェミノイドは人そっくりなところがやや不気味で、精巧で人に似てくるにつれて違いが浮き彫りになる。一方、フランスでロボットによる演劇が上映されたが、見た目は完全に機械なのにも関わらず人間らしい心を持つ演技だったと話題になった。つまり、人は人のようにふるまうものの方に人間らしさを感じるのだが、石黒教授はそこであえて2体の美人アンドロイドを制作し、どこまで美を高めれば人形のように美しい人間に見えるか、その境界線を探ろうとしているそうだ。

▼ロボットを人のようにふるまわせることは世界で行なわれているが、人に似ていない方がなぜ人間らしく感じられるのか。教授の研究は外面と内面の両方向へと拡がる。
WWN_robot05

これからの自身の研究については、意図を持ち要求までできるチューリングロボットを開発するという壮大なプロジェクトを、日本のロボット研究の中で最も大きな予算で行っているところだという。「人間のように対話できるロボットを作ろうという、99年のAI(人工知能)ブームの時には絵空事でしかなかった研究が、技術環境が整ったことで再び始まっている。ヒトは相手と6割以上意図や欲求を共有できれば気持ちいいと感じられ、それを5年かけて実現させようとしている。ただし、それでもヒトの”気持ち”までがわかるわけではない。いつかはそういうロボットが生まれるだろうが、とにかく一歩ずつ進化だけはしている」

ロボットを人間に近付けるにはプログラミングが大事だが、マクドナルドのマニュアルぐらいなら今のロボットはすぐに実装させられるという。それよりもさらに高度なプログラミングをするために、研究では言語学、脳科学、心理学、認知科学、そして哲学者の専門家らに参加してもらい、総力戦で取り組んでいるという。ハードウェアからソフトウェアへ、ロボットの開発がこれほどまでに進化しているのかと実感させられる授業であった。

▼意図や欲求を理解することが人の気持ちがわかることになるのか。ロボットの開発を通じて人間の本質を探ろうとする石黒教授の研究はこれからまだまだ続く。
WWN_robot06

【参照情報】
・「超」学校シリーズ
ATR 石黒特別研究所

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

野々下 裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。

RELATED NEWS