人工知能フレームワーク、Chainerのインパクト

Chainer the neural network framework

2015.06.19

Updated by Ryo Shimizu on 6月 19, 2015, 09:45 am JST

ディープラーニングを始めとするAI技術が急速に進化しています。

昨日もGoogle Researchが人工知能に写真から別の事物を連想させて想像したものを描かせるという研究を発表しました。

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これは控えめに言っても、驚くべき成果です。

人間にとって、最も重要な脳機能のひとつである「創造性」が人工知能によって代替される可能性さえ示唆されてきたということです。

 

事実、たとえば有名な画家のタッチを学習して、写真を見せるとその画家のタッチで描くような研究は既に存在しています。

いずれそう遠くない将来、漫画や小説といったものが人工知能によって自動生成される日も来そうな予感がします。

 

そうなると、例えば有名な漫画家や作家の作風を学習して、それをAIが描くことができるようになるのかもしれません。

 

たとえばドラゴンボールの鳥山明っぽい絵で、話はデスノート、みたいに指定すると勝手に漫画が生成されるような世界です。

 

または、なかなか遅筆で先に進まない漫画の、続きを勝手に書いてくれたり、漫画家にとっては、たまに休みたい時にAIがかわりに自分の漫画を書いてくれたら、ラクでしょうね。

 

しかし同時に、それは著作権が有名無実のものに帰すかもしれないという可能性を孕んでいます。

 

有名な漫画家の絵を学習したAIには、著作権は適用されません。

AIの学習データに対する著作権の適用は判別が難しく、たぶん永久に無理なのではないでしょうか。

ただ、例えばドラえもんやピカチュウのように、明らかに同じキャラクターとわかるようなものは使えないようにするとか、様々な法的な工夫があとで必要になってくるでしょう。

ただ、まだ発展途上段階での法規制の議論はあまり好ましくありません。

 

既に今の人工知能でも、簡単なフィルター処理(Photoshopなどでかけるような、ぼかしやモザイクといった処理)は学習によって模倣することが可能とされています。

学習には多大な時間がかかりますが、学習済みのDNNに画像を見せて(入力して)出力するのはミリ秒単位と高速ですから、時間のかかるフィルター処理などをDNNで代替するなどの高速化が考えられます。

 

そうすると、これまでアルゴリズムで特許や著作権を主張していた人々が、ニューラルネットワークの前では強く権利を主張することができなくなる可能性があります。

 

ニューラルネットワークで再現可能なアルゴリズムは、ニューラルネットワークを学習させるためにリバースエンジニアリングは必要ないからです。

これは、優秀なギタリストが有名なアーティストの演奏を完コピして演奏するのに似ています。

楽曲の場合、厳密には著作権が適用されますが、そのかわり、演奏そのものには原盤権がかかりません。

既に自動作曲の研究も進んでいるので、いつの日か人気アーティストのカバーアルバムは、軒並みニューラルネットワークが自動生成したものにとってかわるかもしれません。

 

21世紀は、既にソフトウェアそのものでお金をとることが難しくなる時代に突入しています。

Windows10へのアップグレードが期間限定とはいえ無料化されたことはその象徴でしょう。

スマートフォンのアプリストアは既に完全なる過当競争で、かつてのように何千円もするゲームソフトが何十万本と売れる世界は、国内の家庭用ゲーム機ですら厳しくなってきました。海外ではまだまだそうしたゲームは売れていますが、いつまで続くかはわかりません。

 

ソフトウェアは大きく2つの方向へ別れようとしています。

ひとつは、SONY Computer Entertainmentのプロジェクト・モーフィアスに代表される、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を利用したヴァーチャル・リアリティ方面への進化です。

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現在ラスベガスで開催されているElectric Entertainment Expo(E3)では、プロジェクト・モーフィアスと、Oculus、そしてValveという3つのヘッドマウントディスプレイが競いあうように展示されています。

 

HMDは既に実用期にあり、あとはいつ、どのようなタイミングで市場に投入されるか、という段階に来ています。Oculus、モーフィアス、ともに来年の発売が予定されていて、いま現在は開発会社にデモンストレーションを行っているという段階のようです。

 

HMDを利用した全く新しいエンターテインメント体験は、ひとまず世界中で喝采を浴びそうな予感がします。

 

筆者の会社では、実写映像のヴァーチャル・リアリティに拘り、VRiderというソリューションパッケージを提供しています。

 

4K超の解像度で見る動画のVR体験は、まるで幽体離脱したかのような不思議な感覚があります。

 

新潟県の湯沢のスキー場を借りて、ドローンに吊り下げた球体カメラで撮影した360度ぐるりと見渡せる映像は、文字通りの空中散歩です。

 

こういう、作ること自体にお金がかかっていることに納得感があるコンテンツには、これからもお金が支払われ続けるでしょう。

 

一方、作り手が使うソフトの方はというと、どんどん無料化、オープンソース化が進んでいます。

コンパイラや開発環境といった、かつては何十万円もした開発ツールは特殊な用途のものを除いてほとんどが無償になっています。データベースでさえもです。

かつてNetscape社はWebサーバーを一台あたり4500万円のライセンスで販売していました。

今はそれよりもずっと高性能なWebサーバー、Apacheは無料のオープンソースです。

 

こうした動きの中で、いま一番注目を集めているのはプリファードネットワーク社の人工知能フレームワークChainerです。

なんとオープンソースかつ無償で公開されています。

 

最先端技術を駆使した新開発のフレームワークを無償で公開する。これは日本のベンチャー企業としては非常に大胆な決断で、しかしプログラマーでもある筆者からみると、非常にクレバーな決断とも思えます。

 

今、新しい人工知能フレームワークをプロプライエタリ・ソフトウェアとして開発しても、GoogleやFacebook、カリフォルニア大学バークレー校などなどといった並居る強豪に太刀打ちできるわけがありません。開発者の絶対数が足りないからです。

しかし、オープンソースにすれば、純粋にソフトウェアの出来・不出来だけで勝負できます。

いま現在広く用いられている各種の人工知能フレームワークも、万能というわけではありません。そのなかでChainerは、GoogleやFacebookが開発に参加している他のフレームワークとくらべても、遜色がないどころか、高い優位性を持っているように思えます。

まだ登場したばかりの技術ゆえか、サンプルプログラムやチュートリアルがまだまだ少ないのが現状ですが、開発元のプリファードネットワークとしては、二週間に一度のリリースを宣言しており、期待がおおいに高まります。

特に次のリリースでは既存のフレームワークの中でも利用者の多いCaffeの学習モデルをそのままインポートできる機能が追加されるなど、既存のディープラーニング研究者にとっても有用な機能も揃えていこうという姿勢が見られます。

 

ひとつの技術がきちんと立ち上がるには、単にオープンソースであるだけではだめで、そのコミュニティ、利用者、開発者をいかに育てていくかということが重要になります。

 

その意味でChainerは今のところ非常にうまい滑り出しをしているな、という印象です。

国産の人工知能フレームワークとしてぜひ期待したいところです。

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清水 亮(しみず・りょう)

1976年新潟県長岡市うまれ。6歳の頃からプログラミングを始め、16歳で3DCGライブラリを開発、以後、リアルタイム3DCG技術者としてのキャリアを歩むが、21歳より米MicrosoftにてDirectXの仕事に携わった後、99年、ドワンゴで携帯電話事業を立上げる。'03年より独立し、現職。'05年独立行政法人IPAより天才プログラマーとして認定される。

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