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21世紀のビジネスマンは分身の術を使う

Use your "Double"

2015.08.21

Updated by Ryo Shimizu on August 21, 2015, 07:54 am UTC

8月1日から、弊社のコンピュータ・グラフィックス研究所である「UEIリサーチ」を株式会社ドワンゴに移管し、私自身もUEIリサーチを中心としたプロジェクト推進のため、ドワンゴに席を置くことになりました。

もうひとつ、協業先でチームが常駐している場所が五反田にあり、本社のある湯島と、ドワンゴのある銀座の歌舞伎座タワー、そして五反田と、毎日3つの会社に出社する、みたいなことが続いています。

こうなると一日の半分くらいの時間が移動に消費され、実際のところこれはちょっと勿体無いことです。

しかも、今月は出張で月の頭からロサンゼルスで開催されているSIGGRAPH2015という国際学会に参加していたので、開発の現場とコミュニケーションをとるのが難しくて困っていました。

以前この連載でご紹介したように、たいていのミーティングは社内の独自チャットシステムを使って行っているので定例会議などは問題がないのですが、プレゼンテーションのような場面ではさすがに説得力に欠けます。

どうしたものかな、と頭を悩ませていると、慶応義塾大学の稲見昌彦先生が「Double(ダブル)を使いましょう」と教えて下さいました。

「Double」とは、Double Robotics社が開発したテレイグジスタンスロボットです(http://www.doublerobotics.com/)。

これはiPadと接続することで自走式のロボットになります。
iPadへはiOSアプリまたはGoogle ChromeなどのWebブラウザから接続でき、双方向のテレビ通話と自由な移動が可能です。

オプションのスピーカーも購入したので、大声で怒鳴ることもできます。

ちょうど成田についた頃にDoubleが着荷したとのことで、品川へ向かう成田エクスプレスの車内から、会社に接続してみました。

Doubleでは、ちょうど人間なら顔にあたる部分にiPadの画面が来て、フェイス・トゥ・フェイスで会話することができます。

静音モーターを採用し、走行音もとても静かで、そもそも静かなソフトウェア会社のオフィスにおいても仕事の邪魔にならないというのも魅力です。

これを3つあるオフィス全てに設置できればいいのですが、一台30万円くらいと高価なのでとりあえず本社から最も遠い五反田のオフィスで運用してみて様子を見ようと思います。

同じように慶応義塾大学日吉キャンパス、科学未来館など多数のオフィスを持つ稲見教授は全てのオフィスにDoubleを設置しており、いつでもどこでも行けるようになっているそうです。

「悔しいことに、これで充分なんですよねー」

と笑う稲見教授は、もともと東京大学の舘研究室でテレイグジスタンス(遠隔存在)ロボットを体験したことに感動して研究者になった人なので、いわばテレイグジスタンスの専門家です。その専門家が、「悔しい」と表現するところに、この技術がついに完成の域に達したかもしれないと思えてきました。

Doubleは二輪で自走しますが、この二輪は非常にコンパクトであるだけでなく、非常にトルクフルです。
Doubleを前から押すと、自動的に後ろに下がってバランスをとるようになっています。

面白いのは、iPadの背面カメラを上手く利用し、ミラーが仕込まれていてDoubleの足元を確認することができるようになっていること。

障害物にぶつかった際などに便利です。

DoubleをスマートフォンのLTEで使うと画質がイマイチですが、よりハッキリみたい場合は「撮影」ボタンを押すと、通常のカメラが起動し、高精細な撮影画像を送ってくれます。これは意外と便利です。

また、PC版のDoubleコンソールからは、顔の代わりに指定したURLのページを表示させることもできます。

WiFi環境があれば、いつでもどこでも遠隔存在性(テレイグジスタンス)のメリットを享受できます。
旅先でもWiFiとPCがあればすぐにオフィスへテレポーテーションできるわけです。

オフィスをロボットが音もなく移動する様はシュールですらあります。

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しかしこのDoubleは本当に便利で、たいていの簡単な打ち合わせや相談事ならこれで済んでしまいます。
電話やFacetimeではちょっと取りづらいコミュニケーションも、Doubleなら簡単にとることができます。

出張中にちょっと職場の様子を見たいとか、「○○君は出社してきてるかな?」と電話するまでもないような様子伺い、経営者にとっては何より大事な、「会社の様子を常に確認する」という目的には充分使えます。

これが50万円以下で買えるというのは正直かなり安いと思いました。
移動時間のことはもちろん、いつでも瞬間的に職場に戻れる、という安心感は凄いものがあります。

もちろん同様の仕組みをDIYで作れば似たような仕組みをもっと安く作ることは可能だと思います。
しかし製品としてきちんとパッケージ化されていると、使用するときの安心感が違います。

ただし、現状のDoubleにもまだまだ欠点があります。
たとえば、ビデオの画質が悪いこととか、操作とビデオから送られてくる映像にタイムラグがあるので、慣れないとうまく運転できない点、また、真下が確認できるのは嬉しいものの、わりと椅子の足に乗り上げてひどい転倒をすることもあります。

結局、人間のいる環境で使用し、人間がロボットにちょっと注意を払わないとなりません。
また、当たり前ですが腕がついてないのでドアを開けることが出来ません。

会議室への移動などは基本的に誰かに連れて行って貰う必要があります。
こうなると「じゃあSkypeで(Skypeの方が)いいんじゃないの?」と思えてしまうのですが、やはり「そこに居る」という感覚はなかなか強烈で、Doubleを使用する本人だけでなく、周囲の人間にも遠隔存在性を強く意識させることに成功しているのは驚きました。

使ったことのない方は「ただのテレビ電話じゃないの?」という印象をもたれるかもしれませんが、実際にはDoubleの「存在感」というのは強烈です。テレビ電話と音声電話くらいの違いがあります。

実際、慶応義塾大学メディアデザイン研究科では教授会にDoubleで参加する先生もおられるそうです。

こうなると本格的にテレポーテーションした感じです。
場所の制約から開放されるというのは、まさに人間拡張技術(ヒューマン・エンハンスメント・テクノロジー)の面目躍如といった感じです。

この先、日常的な連絡にはDoubleで充分、という場面に増えてくるでしょう。
経営者ともなると、出社する目的が単に会社に行ってみんなに顔を見せる、またはみんなの顔を見るだけ、ということも少なくありません。

それだけでもモチベーションはだいぶ違います。
以前、とある通信販売会社の社長とお話させていただいたことがあるのですが、なぜだか社長がいるときといないときで売上高がかなり違うそうです。

だから会社が軌道に乗っていて、本来、社内にいる必要がないときでも、必ず毎日会社に顔を出す、というようなことをおっしゃっていました。

Doubleをうまく活用すれば、フェイス・トゥ・フェイスでやりとりしなければならない重要な取引先と会うために世界中出張しながら、いつでも会社にテレポートすることができます。最近はデルタ航空などを始めとして、機内でもWiFiが使えるようになってきたのですが、ストリーミングなどは原則として禁止されています。いつか機内からでもストリーミングが使えるようになれば、さらに応用性が広がるのではないかと思います。

フェイス・トゥ・フェイスがビジネスにおいて重要な意味をもっているからこそ、Doubleは活用の機会が増えていくでしょう。

Doubleを使うと自分の移動時間が短縮できるだけでなく、他人の移動時間も短縮できます。

Doubleには、時間を限定して他のユーザーがブラウザからアクセスできるゲスト機能があり、ゲスト機能を使うと、特定の人物を招待することができるほか、マルチキャスト機能を使うと、映像と音声を他のユーザーも見ることが出来ます。

出張や旅行などで視察などの様子をリアルタイムで本社と共有するような使い方まで想定されているのです。

今のところ、Doubleは非常に限定された機能しか持っていません。
しかし、そうした機能の数々は、SDKが公開されているので自分で拡張することが可能です。

例えばスピーカーにバッグをぶら下げるだけで、簡単な書類なら運搬できるようになります。
単純なロボットハンドを付けて、手を振り上げるなどの動作をさせてもいいでしょう。

 

 

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私は足元よりも周囲の状況を確認したいので、ミラーの先に魚眼レンズか全周レンズを取り付けるなどの改造を考えています。

リモートコントロールでライトが点灯するようにしても便利かもしれません。
オフィスに泥棒が入ったときや、海外で留守にしているときに大きな地震があって会社の様子を見たい時などに重宝しそうです。

WiFiが必要なので原子力発電所の内部など、とても特殊な環境で使うのはあまり現実的ではありませんが、危険地域の現況確認などには使えるかもしれません。

ゆるいスロープなどは登れるものの、踏破性はほとんどないので、畳敷の日本家屋では使いづらいと思います。

しかもオプションの充電スタンドを購入すれば、遠隔地から自分で充電スタンドに接続することができるようになっています。

Doubleのようなテレイグジスタンスロボットは一度使いはじめると便利すぎて手放せなくなるそうです。

先の稲見先生は「このままだと教授全員がロボットで教授会に出てくるようになるかもしれない」と冗談めかして言っていましたが、意外とそういう未来は遠くはなさそうです。

このような時代のロボットがより性能を上げるためには、まず動画圧縮のレイテンシーを短くするという方向性と、操作の遅延にあわせてロボットの動きも遅くするという方向性があると思います。

これだけ動画が遅延するとなると、ロボットの側にある程度自律的な危険回避機能が欲しくなります。
障害物を判別して自動的に回避したり、オフィス内の指定した位置に自動的にたどり着いたり、もっと進めば、顔認識をして特定の人物がいないか探しまわったりといったことができるようになるでしょう。

これまでのテレビ会議は、双方に特殊な環境が必要というのがボトルネックでした。

また、テレビ会議をする場合、相手にもソフトをインストールして貰う必要がありました。
これからは、Doubleをオフィスに設置しておけばいつでも好きな相手とその場でテレビ会議ができます。

これはこれまでのお互いが万全の準備をした上で始めるテレビ会議とはぜんぜん意味が違います。

しかもそれだけではなく、自分もDoubleとともにオフィスにいるときは、遠隔地にいる人間を手軽に手元に呼び寄せることができるのです。

たとえば、サテライトオフィスにDoubleを置いておき、自分がサテライトオフィスに出向いている時に本社の人間にDoubleのゲスト用リンクを送れば、その場でDoubleに相手を招待することができます。

特別なソフトをインストールする必要がなく、ブラウザでそのリンクを開くだけでいつでも好きなスタッフを好きなときにそばに呼び寄せて話をすることができるわけです。

筆者も仕事柄よくテレビ会議をするのですが、テレビ会議はテレビ会議として接続される前にいろいろトラブルが起きるのが常です。

双方に相応のリテラシーがないといけないからです。

しかし、Doubleなら、いつでも安定して接続できる環境が揃っているのでトラブルや事前準備を全くしなかったとしてもすぐに繋がることが出来ます。

テレビ会議で事前にもたついていた経験があると、Doubleによるテレイグジスタンスは隔世の感があります。

もしテレビ会議に不満を感じているのなら、Doubleを使うとほんのすこしだけ、テレビ会議の先、テレイグジスタンスという未来を感じていただくことができるかもしれません。

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清水 亮(しみず・りょう)

ユビキタスエンターテインメント代表取締役社長CEO。1976年新潟県長岡市うまれ。6歳の頃からプログラミングを始め、16歳で3DCGライブラリを開発、以後、リアルタイム3DCG技術者としてのキャリアを歩むが、21歳より米MicrosoftにてDirectXの仕事に携わった後、99年、ドワンゴで携帯電話事業を立上げる。'03年より独立し、現職。'05年独立行政法人IPAより天才プログラマーとして認定される。

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