ユニクロの週休3日からIT業界が学ぶべきこと

What IT industry should learn from Uniqlo's 3 days off per week

2015.08.25

Updated by Mayumi Tanimoto on 8月 25, 2015, 08:26 am JST

ユニクロが労働時間を1日8時間から10時間にするかわりに、週休3日を導入することにした決定が話題をよんでいますが、週40時間という総労働時間には変化がない「変形週40時間」です。もう少し頑張って欲しいという気がしましたが、ブラック企業と叩かれてきたユニクロですら、従業員の労働環境を改善しているのだ、というメッセージは、多くの企業にとって良い影響をもたらすに違いないので、歓迎したいと思います。

ユニクロの決定には、ブラックイメージの払拭以外に、労働力の確保や、従業員の士気向上など様々な理由があるに違いありませんが、通信&IT業界には、ユニクロの決定を注意深くウオッチする必要があります。通信&IT業界は、仕事の効率化を助けるソリューションやデバイスを提供する一方で、労働環境の改善に最も遅れている業界のひとつだからです。むしろ、環境はどんどん悪化しているといっていいのかもしれません。

スマートフォンやグループウェア、常時接続環境が存在しなかった時代に比べ、この業界の人々は、ますます忙しくなり、自宅と職場の垣根は曖昧で、休暇中もメールをチェックしたり、グループウェアを覗き込むのが珍しいことではありません。働き方が柔軟になった様にみえますが、40年前に比べたら確実に忙しくなっているし、仕事は減っていません。

経済学者のJohn Maynard Keynesは、1930年に、Economic Possibilities for our Grandchildrenという論文において「未来の労働時間は3時間ごとのシフトワークか週15時間になる」と予測していましたが、現実はその予測と逆の方向に行っている様な気がします。

週40時間労働は、現在様々な先進国で職場の標準になっていますが、実は100年以上前に、それ以上働くと生産性が落ちるから、という理由で採用されたものです。「実質的」な労働時間が長くなっている現在は、時代に逆行しているわけです。

週40時間労働の標準化は、労働者と企業側の交渉や組合活動、20世紀初頭に高まった労働運動や、社会主義運動の影響もあります。しかし、自由主義経済であり、利潤と効率化を追い求めるアメリカの民間企業であるフォード自動車の影響も小さくありません。1926年にはフォード自動車は週40時間労働を導入し、全米に衝撃を与えます。それまでは、週6日、1日10時間労働、週60時間労働が当たり前だったので、労働時間が一気に 40%近く減ります。

この決定は、単に労働者を守るためではなく、ヘンリー・フォード自身が、週40時間労働は、生産性維持に最も効率的である、と判断したためでした。実はこの決定前に、フォードは、12年以上にわたって、労働者を週何時間働かせると最も効率が良いか、ということを考えてきました。そして、実際に実験を行っています。直感的に決めたのではなく、アメリカらしい実証主義に沿った合理的な判断だったわけです。フォードは議会や組合にもロビイングを行い、週40時間は後日法律になります。

この決定は、従業員の待遇を良くすると、ビジネスにとって良い結果をもたらす、というフォードの成功体験に沿っているようです。1914年のアメリカは不況のため失業者と労働争議が溢れていました。そんな状況をみたフォードは、男性工場労働者の賃金を上げることを決定し、当時1日9時間$2.34だった賃金を、なんと、その2倍の$5にします。女性労働者の賃金は1916年に同じレートでアップしました。賃金上昇は、工労働者の士気と会社に対する忠誠を高めることに成功し、結果、工場の生産性がアップします。また労働時間の減少と賃金のアップは、労働者が買い物する余暇時間とお金を手にしたため、経済が活性化するという効果ももたらしました。

フォードの実験は、その後の様々な学術研究でも立証されていま。例えばペンシルバニア大学のJohn Pencavelの研究によれば、労働時間が週50時間を越えると、働く人の生産性の伸びは鈍化し、むしろ下降していくと結論付けています。

IT業界の様なクリエイティブ産業に従事する人の生産性は、製造業や手を動かす仕事の人よりも下降するのが早い上に、長期間に渡って低下する傾向があるので、長時間労働が常態化している会社では、長期間にわたって、画期的なソフトウェアやソリューションを生み出せなくなる可能性もあります。

ゲームデザイナーであり、Spry Fox のChief Creative Officer であるDaniel Cook氏は、生産性に関する調査研究を30以上引用して、生産性の向上方法に関して考察しましたが、週60時間労働は、短期的にはアウトプットが多くなるが、4週間以上継続すると、生産性が下がるだけではなく、働く人の創造性が低下してしまう、としています。

医学学術誌のThe Lancetに発表された Long working hours and risk of coronary heart disease and stroke: a systematic review and meta-analysis of published and unpublished data for 603 838 individualsという論文では、北米と欧州で発表された25の研究を元に、60万3千人の男女が対象となったデータをレビューしています。週に55時間以上働く人は、週35-40時間働く人に比べ、心臓発作や脳卒中など、心疾患を起こす確率が33%も高いことがわかりました。

つまり、通信やIT業界の企業は、画期的な製品やサービスを生み出し、満足度を高め、従業員の病欠や死亡を防ぎたいのであれば、週40時間以下にするのが、長期的に見て最も効果が高いということです。日本のIT業界や通信業界からは、画期的なソリューションが産まれなかったり、IT企業とは名ばかりで実態は単なる人材派遣業だったり、政府や大企業の下請けとして新規制のない製品を運用しているだけだったり、提案力のない企業が少なくありませんが、その理由は、プアな労働環境にあるのかもしれません。

鶏が先か卵が先かの話になってしまいますが、例えば顧客に画期的な提案をするのには、創造性が必要ですし、アイディアを練る時間や製品を検証する時間や余裕が必要です。しかし、連日10時間労働、休日出勤、長期休暇もない、という状態では、先進技術の研究や、異なる分野のアイディアを学ぶための読書、他社の人との情報交換など不可能です。

 

 

 

 

 

 

 

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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