IP500 Alliance日本支部プレジデント 豊崎 禎久氏

IP500 Alliance日本支部プレジデント 豊崎 禎久氏(後編):IoTは日本のハイテク産業再興のラストチャンス

日本のIoTを変える99人【File.006】

2015.11.26

Updated by 特集:日本のIoTを変える99人 on 11月 26, 2015, 08:00 am JST

2015年10月、経産省と総務省が旗振り役となって、産官学連携でIoT関連技術開発や新規ビジネス創出を推進するための組織「IoT推進コンソーシアム」が設立された。参加企業は既に800社を超えたというが、従来の大企業合従連衡体でのレガシーなビジネスモデルの進め方では、はうまくいかないだろうと豊崎氏は予測する。
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IP500 Alliance日本支部プレジデント 豊崎 禎久氏

豊崎 禎久(とよさき・よしひさ)
1962年生まれ、長崎県出身。米フェアチャイルド社、ソニーセミコンダクタ社、米シグネティックス社、蘭フィリップス・セミコンダクタ社などを経て、米LSIロジック社でストラテジック・マーケティングとして活躍。その後、米ガートナー社のプリンシパル・アナリストなどを歴任。現在、アーキテクトグランドデザイン株式会社ファウンダー チーフアーキテクトに着任。慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科 特別招聘教授を務めた。

IoTは地方創生の切り札にもなる

日本では経産省、総務省、日本の企業連合がIoT推進コンソーシアムを立ち上げ、国をあげてIoTを推進しています。名だたる大手企業が多数参加されていますが、このまま進んでIoT世界のビジネスが作れるのか、未来が見えているのかというと、「今のままでは心もとない」というのが私の正直な気持ちです。

ドイツもアメリカも後ろに政府がいることは確かですが、それはあくまでもバックアップです。でも日本でこういうものを立ち上げると、必ず政府が前面に出る。でも政治家はエキスパートではありませんから、実際に絵を描くのは官僚です。そこに一儲けしたい企業が国プロで集まるという構図です。それでうまくいった試しはありません。

「儲かるからIoTに参入する」と考えている人たちがいたら、目を覚ましてくださいと言いたいです。戦う相手はアメリカであり、AppleやGoogle、Amazonなどです。彼らは次に自動運転やドローン市場に進出します。世界一の自動車メーカーである日本のトヨタが戦う相手はアメリカのIT企業。どう迎え撃ちますか?ということです。

日本政府がバックアップするのであれば、政府自身がビジネス視点でグローバルにどのような規格があるのか、我々だけでなくグローバルな規格団体と話してベストな選択をしていただきたいですし、政治家の方にも、単に「IoT」というキーワードがブームではなく、ご自身の地元での人口減少など大きな問題を解決する方法であるということを理解していただきたいと思います。

日本の地方部では、多くの工場が閉鎖されています。優秀な大学を卒業して、地元の企業に就職した方がリストラされ、職場が無いので再就職できない、という現実があります。海外に行って活躍できるという方はほんの一部で、能力がある多くの人が活かされていない。地方でIoTの新しいサービス産業を起こせれば、それは地方創生にもつながります。

IP500 Allianceの最初の取り組みとして、長崎市と大学、私と、センサー系のとある企業と、銀行とで、長崎の地元企業に新しい技術を移転してIoTビジネスにする試みをはじめています。長崎という場所は、台風がよく通過する場所で水害が多く、人口減少と高齢化が急速に進行し、課題の多い町です。課題を解決するのがテクノロジーであります。

長崎にはソニーセミコンダクタや三菱造船はありますが、それ以外に目立ったIT企業はありません。そこで、あえて地元企業と一緒にIoTで新しい産業を興そうとしています。税金は本社所在地に支払われますから、東京や関西に本社がある大企業では、意味がないのです。

成功事例が一つできれば、他の地域に同様の取り組みを提案できます。もちろん同じものをコピーするのではライバルを作ることになってしまいますから、プラットフォームは同じでも新しいテーマに取り組みます。人工知能を含めて、ソフトウェア産業は日本が一番弱い分野です。日本各地でビジネスを作りながら、それに合わせたソフトウェアを創造し、グローバル・ネットワークで接続することは、IP500 Allianceの描くグランドデザインの中に地方創生の成果を位置付けることになります。

中国を制する規格が世界を制する

IoTもM2Mもビジネスモデルに仕上げるのが難しいのは、現在ITの世界で無線ネットワークのラストワンマイルを握っているのは通信キャリアで、儲かる仕組みは最終的に彼らが全部持って行ってしまうから。でもIP500なら、無線部分はメッシュネットワークですから、SIMレスでIoTを実現できます。SIMレスの近距離通信規格としては、Bluetoothはスマートフォンを押さえたので一歩先行していると言われています。彼らもメッシュネットワークを考えているようですが、IP500 Allianceは既に実運用を始めています。欧州の電話会社社長の経歴を持つ、ヘルムート(IP500 Alliance ヘルムート・アダムスキーCEO&会長)がいかに先進的な考え方を持っていたかということです。

社会インフラネットワークさえできてしまえば音声とテキストは送れます。そして、インフラを変えればオセロゲームのようにプレイヤーをひっくり返すことができます。それを真剣に考えているのが中国で、そのための仕組みとしてまずはAIIB(アジアインフラ投資銀行)でチームを作りました。中国が介在するODAで、彼ら自身が中国の考え方でIoTインフラを構築することになれば、オセロゲームが成立します。

私はIP500 Allianceという規格団体の代表として、中国政府との対話を始めています。彼ら自身も、日本や米国の規格を採用するわけにはいかないが、欧州の規格であれば前向きに検討できるという考えを持っています。アメリカが自国の規格をいくら良いものだといっても、人口はたかだか3億人。それに対して中国とアフリカを合わせれば数十億人です。規格というのは数の論理ですから、市場の規格争いは結局中国市場を誰が抑えるかで決まるのです。IP500 Allianceに参加する日欧米企業とともに中国市場をとっていくために、アジアパシフィックの代表として、大きな使命を担っていると自覚しています。

IoTに本来求められるのは、QoLを上げるテクノロジー

IoT社会の未来のカタチは、人体の隅々までが脳に神経で接続されているように、地球上のすべてがネットでつながり、すべての情報が一元化されるでしょう。その世界には、光の面と闇の面があります。

例えば、高齢化社会で避けて通れない介護問題があります。ネットがあれば老人が長生きできるというものではありませんが、IoTを活用することで事故を未然に防いだり、事故が起こっても的確な対処をとることができます。止まった心臓を動かすことはできなくても、夫婦の片方が遺された時に、人工知能とロボットによって配偶者と添い寝しているような安心を感じながら日眠れるかもしれません。テクノロジーを、いかにQoL(Quality of Life)を上げることに使えるのかということが、社会貢献として、本来IoTに求められることではないでしょうか。

これが光の面だとすると、闇の面は国家による監視社会です。ハリウッド映画にあるような、国家によって全ての情報が常時モニターされる社会が既に現実化していることが、エドワード・スノーデンによって暴露されました。個人の情報はそれだけ価値があるということです。情報をとりたがっているのは国家だけではなく、犯罪者やテロ組織もそうです。重要なのは国家が敵なのか味方なのかということではなく、セキュリティ・セーフティの世界でも吸い上げられたくない情報は伝えない規格を考えなくてはいけません。言い換えれば「個人の情報は個人へ」という哲学を規格に実装しなくてはいけないということです。

この機を逃すと日本のハイテク産業はアメリカに焦土化される

IoTは、日本企業がリバイバルできる、世界の中で日本の企業ブランドを再構築できるチャンスです。これを逃すと日本の産業はアメリカに焦土化され、国民が生きていく生業もおそらくなくなるでしょう。実質的にはアメリカが参入しないニッチを拾うだけで、新しいマーケットは作れなくなると考えます。

我々とGoogleのThread Groupとは、スマートホーム、スマートビルの世界で戦うことになるでしょう。でも彼らは所詮、「雲の上」の人なんですね。クラウド、すなわちデータセンターに情報を格納することが目的で、全てはそこにつながっています。家にいる時の情報を入手するためにスマートホームをやるし、車に乗っている時間の情報を得るために自動運転に手を出す。そしてそのためにネットワークの規格を作っています。

対して我々は、サービスを作りたい人のためのエコシステムとしてのIoTインフラを作っています。その点が彼らとは違います。

9月にはスイスのルガノで「スマートシティテクノロジー」をテーマにした国際会議を開催しました。ここで、オムロンの環境複合センサーがIP500 Allianceのメンバーであるヨーロッパの企業から高く評価されました。彼らは、「環境複合センサー」という製品ではなく、「自分たちのシステムに付加価値をつけるセンサーソリューション」だと評価したのです。

▼高評価を受けたオムロンの環境複合センサー
高評価を受けたオムロンの環境複合センサー

彼らが本当に受注できるかはまだこれからですが、これまではそもそも日本企業とヨーロッパの企業が商談をする機会が今まではありませんでした。ヨーロッパの規格団体を日本に持ってきた成果です。このようなことが増えれば、日本からヨーロッパに進出する企業、逆にヨーロッパからも日本に進出する企業が増えてくる。私の役割は、ブリッジになることです。

これからの地球が立ち向かうべき気候変動や地震などの災害を少しでも減らす減災市場や、都市と人と家とビルをつなぐスマートビークルなど、日本企業が独自に強い技術を持つ市場に、DKEが認めたIP500 Allianceの規格をいち早く導入することで、日本のハイテク産業を再興したいと考えています。

(構成:板垣朝子)

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