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「いやあ、おもしろかった!」

当日の司会進行、本稿を手がけた編集者、そしてWirelessWireNews編集長のすべてが、異口同音にこのコメントを残しました。

誤解のないように申し上げますと、これまでの本連載のすべてが、第一線のエキスパートによる高い知見に基づいた、読み応えのある原稿だと自負しています。実際、個人情報やパーソナルデータという、動きの激しい分野を扱っているにも関わらず、これまでのどのテーマも、いまだ色褪せていないはずです。

しかしながら、いつにも増して本稿が「おもしろかった!」と思えるのは、今回ご登壇いただいた、本村氏と原田氏のそれぞれの見識が、この領域における私たちのモヤモヤとした気分を見事に看破し、その上でこれから私たちが何を考えるべきか、その指針を示していただけているからではないでしょうか。

たとえば「AI(人工知能)は万能なのか」という根源的な問い。昨今のAIブームではとかくシンギュラリティ(技術的特異点)が論じられ、人間が機械に代替される時代が訪れるのではないか、と懸念されがちです。しかし本村氏は、過剰学習(オーバーフィッティング)によるエラーの発生はもちろん、そもそもAIを構成するアーキテクチャの背景にある人間の思想のレベルにおいて「まだまだ」だと指摘します。

だとすると、AIを中心とした「より完全性の高いプロファイリング」などは、まだまだ遠い将来の話といえます。それ以前の「近くの問題」として、日本と米国ではプロファイリングという概念に対する定義からして違うこと、いずれにせよプロファイリングはまだまだ不完全であること、そして特に日本のプロファイリングに関して、中途半端であるがゆえの新たな課題が事業者と消費者の両方に存在しうることを示されていました。

一方で、AIがより精度を高めるためには、パーソナルデータだけではなく様々な外部環境を把握し、またAI自身をも検証できるプロセスが必要です。だからこそIoT(モノのインターネット)には大きな意味があり、AIはIoTによって(ないしはIoTはAIによって)磨かれる、というフィードバックが期待されます。このフィードバックの関係が理解され、それが具体化されれば、AIもIoTもバズワードの域から抜け出せそうです。

では改めて、AIやプロファイリングは、パーソナルデータの課題としては、まだ遠い存在なのか──いえ、そうではないでしょう。ただそこで論じられるであろう課題は、個人情報の定義や管理方法といった、今日の目の前にある課題としてではなく、私たち人間や社会が、機械による学習をどのように手懐けていくかという、パラダイムの問題として発現してくるはずです。逆に言えば、そのパラダイムの問題を明確にしなければ、目の前の課題に対する対処は、すべて小手先の対応に終止する、とさえ言えます。

もしかするとそれは、とてつもなく深遠で哲学的な議論なのかもしれません。そしてそれは、近代の日本がずっと忘れたふりをして過ごしてきた、「積年の宿題」に手をつけることに、つながるのかもしれません。しかしその宿題から逃れては、私たちはいつまでも「借り物のパラダイム・借り物の技術」のまま、過ごすことになるでしょう。

そして宿題を放置したまま、技術とパラダイムがAIというレベルまで到達すると、いよいよ私たちの精神の部分まで、借り物で過ごさなければならなくなる、とも言えます。すでにそれは、(かつて私たちがテレビ放送をそうやって見ていたように)YouTubeをぼんやり見たりAmazonのおすすめをなんとなく受け入れながら毎日を過ごす子供達に、及びつつあります。

AIやプロファイリングの検討を通じて、私たちは21世紀に何を欲しているのか、そうした議論を進めていくべきではないかと、そんな大きな刺激をいただけた対談でした。

【テーマ11:「プロファイリングの現在と未来」】
対談:人間の「内なる声」は人工知能に届くのか
(1)見落とされているアンビエント型AIの重要性
(2)「データは客観」の落とし穴に墜ちてはいけない
(3)人と相互作用し変化し続けるホワイトボックス型AIを目指そう

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特集:プライバシーとパーソナルデータ

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