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AI分析からわかる複数デバイス利用者のコンバージョン率の高さ――台湾AppierのAIソリューション【後編】

2018.04.19

Updated by Naohisa Iwamoto on April 19, 2018, 10:28 am JST

「アジア太平洋地域(APAC)では、4台以上の複数デバイスを所有する人が増加中。こうした消費者が異なるデバイスをどのように使っているかを分析する必要がある」。AI(人工知能)を活用したマーケティングソリューションなどを手がける台湾のAppierは2018年4月に、「2017年アジア太平洋地域インターネット消費者動向調査」の結果を発表した。冒頭の発言は、この調査から得られた分析を発表したAppier 最高売上責任者(CRO)のファブリツィオ・カルーソ氏のものだ。エンドユーザーが複数デバイスをどのように活用しているかがマーケティングの成否に関わってくるとの見方である。

まず、少し消費者動向調査の結果を見ていこう。

2016年と2017年の調査で、複数のデバイスを持つAPACの消費者が、何台を利用しているかの割合を比較してみた。すると、2台が51%から38%へと減少し、3台は23%から21%へとほぼ横ばい、4台以上が26%から41%へと急増する結果が得られた。複数のスマートフォン、タブレット、パソコンといった「4台利用」を利用する消費者が増加しているというのだ。

▼マルチデバイス化が進む状況を説明するAppier 最高売上責任者(CRO)のファブリツィオ・カルーソ氏20180419_appier2_001

国別で、4台以上の利用者が多いのは、香港、台湾(いずれも51%)、韓国(49%)、オーストラリア、シンガポール(いずれも47%)といった国や地域。一方で4台以上が少ないのは、タイ(30%)、日本(40%)となった。日本はスマートフォンの普及率がいまだに高くないことなどから、APACの中で複数デバイス化の進展が遅れている位置づけにある。

このように複数のデバイスを消費者が利用しているとなると、「マーケターはデバイスではなくて、人にリーチする必要が高まる」とファブリツィオ・カルーソ氏は語る。

デバイスごとに利用目的が異なる

調査のデータからは、複数デバイスの利用についても国や地域によって「使い方」が異なることがわかってきた。ファブリツィオ・カルーソ氏は「例えば、オーストラリアやフィリピン、台湾では、デバイスごとにまったく関連のない使い方をしている割合が高い。そのため同じ人であっても、デバイスごとの多様な利用に合わせたメッセージを送る必要がある。一方で、インドネシアや日本は、複数デバイス間の利用法が似ている傾向が強い」という。日本では、スマートフォンとパソコンに同じキャンペーンを適用しても一定の効果が得られそうだが、オーストラリアではデバイスごとに目的を持ってキャンペーンを変化させる必要があるというわけだ。

デバイスごとの利用法の違いは、商品購入などに至るコンバージョンの経路にも表れる。「エンドユーザーが購入に至るまでの経路を示すファネルの中で、それぞれのデバイスが異なる役割を果たしている。最初のタッチはスマートフォンが多いが、最終的な購入につながるコンバージョンではパソコンの重みが高くなるといった傾向がある」(ファブリツィオ・カルーソ氏)。

▼クリックスルーレート(CTR)はスマートフォンやタブレットよりも各段に低いパソコンだが、購買につながるコンバージョン率は他のデバイスを引き離して高い20180419_appier2_002

Appierは、複数デバイスを横断した「クロススクリーン」の消費者の動向をAIによって分析し、エンドユーザーへの最適なリーチの方法をマーケターに提案するソリューションを用意する。こうした施策は、実際に高い効果を与えているという。

「AIが主導するクロススクリーンのキャンペーンを利用した場合、ユニークユーザー当たりのコンバージョンは、1台のデバイスを使うシングルスクリーンのユーザーよりも、複数デバイスを活用するクロススクリーンのユーザーのほうが平均で150%も高くなった。また購買プロセスで3つのデバイスを使う消費者は、単一のデバイスしか使わない消費者の4倍も高いコンバージョンを得ることがわかった」(ファブリツィオ・カルーソ氏)。

▼ユニークユーザー当たりのコンバージョン率は、1台のデバイスのユーザーよりも3台のデバイスを使うユーザーのほうが150%も高い20180419_appier2_003

複数デバイスを所有するエンドユーザーの動向を捉え、的確なマーケティング施策を行うことがコンバージョンの増加につながるとの指摘で、これをAppierのAIソリューションが支援するというシナリオである。

オンラインの売上を急増させた台湾カルフールなど例も続々

すでに「AppierのAIソリューションを利用している企業は、日本も含めてすでに1000を超える」(Appier プロダクトマネジメント担当ヴァイスプレジデントのマジック・ツー氏)。実際にクロススクリーンのキャンペーンを実施するなど、AIが分析したエンドユーザーの情報を活用して、ビジネスに効果をもたらしている企業もある。

台湾のカルフールは、Appierの「CrossX」ソリューションを導入する企業の1つ。同社で電子商取引事業開発マネージャーを務めるジル・プレスコット氏は、2015年に開始した台湾でのオンラインストアの展開に、Appierとの協業で得た知見を活用しているという。

「オンラインストア開設当初は、リアルの店舗での経験からオンラインストアの品揃えやキャンペーンも実施してきた。しかし、Appierと協業することでユーザーの行動や製品への嗜好が分析できるようになり、知識が増えてきた」(ジル・プレスコット氏)。オンラインストアでコンバージョン率が高いのは35~44歳の年齢層というのは予想を大きく違わない結果だが、女性の利用者が多いリアルの店舗と異なり「オンラインストアでは男性のコンバージョン率が高い」といった新しい発見があったという。

特筆すべきは、クロスデバイスのターゲティングの結果だ。スマートフォン、タブレット、パソコンといった単一デバイスの利用者と比較すると、パソコンとタブレットの2台を利用する人は5.3倍、スマートフォンとパソコンとタブレットの3台を利用する人はなんと11.1倍もコンバージョン率が高くなるという。「デバイスの数が多いユーザーほど、購買につながる可能性が高いことがわかった。そうしたユーザーをターゲットとしてアプローチしたりリマインダー送ったりすることで、コンバージョンの確率を高める施策が実行できている」(ジル・プレスコット氏)。実際、CrossX AIソリューションの導入後の平均で、前月に比べてページビューが50~60%増、購入と収益が20~25%増という効果が上がっているとのことだ。

▼ユーザー企業としてAppierのAIソリューションの利用状況を説明する台湾カルフールのジル・プレスコット氏(中央)とパクトール台湾のアレックス・チェン氏(右)。左は司会を務めたAppier 最高戦略責任者(CSO)のショーン・チュウ氏20180419_appier2_004

台湾をはじめとして男女のマッチングサービスなどを提供するパクトールも、AppierのCrossX AIソリューションを導入して効果を上げている。パクトールでは、オンラインのマッチングサービスとして、声を使ってチャットをする「Goodnight」、写真まで公開する「Paktor」、出会いや結婚を前提とする「Paktor Premium」を提供。アジアで1500万人を超えるユーザーが利用してるという。

パクトール台湾のゼネラルマネージャーを務めるアレックス・チェン氏は、「AppierのAIソリューションは、Paktorアプリでアプリ内課金を促進させるために活用している。Appierは、誰がサブスクライバーになる可能性があるかを見つけてくれる。自分たちでファネルまで入り込んだ分析をするのは難しいが、それをサポートしてくれている」という。

具体的には、AppierのAIソリューションを使うことで、チュートリアルの受講率をパクトールが定めたKPIに比べてさらに62%高めることができた。さらにその先の目標である有料アプリのインストール率を、最大で50%高めることができた。「最初はAIが分析するといっても疑問があったが、実際にAppierのソリューションを使うことで購読者を多く連れてきてもらうことができた。週次のデータで、購読率は30%、売上も26%向上しているように、具体的な成果が表れている」(アレックス・チェン氏)。

ユーザーの行動をAIによって推測、予測できるAppierのAIソリューションは、実際に効果を体感する企業も出てきている。もちろん、「AIを使ったり、機械学習を使ったりすれば、自動的に儲かる」わけではない。企業ごとのニーズ、目的が定まっていてこそ、AIの分析やリコメンドがマーケティングなどに効果をもたらすことになる。例えば「優良顧客になりそうなエンドユーザーにリーチしたいという」目的が明確になっているならば、そこにはすでにAIを活用したソリューションが用意されているのである。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。