「CEATEC JAPAN 2015」のアルプス電気ブース

アルプス電気 民生・新市場業務部担当課長 稲垣一哉氏(後編):顧客メリットを部品メーカーの立ち位置で引き出すため、システムのレイヤーでパートナーの力を借りる

日本のIoTを変える99人【File.007】

2015.12.10

Updated by 特集:日本のIoTを変える99人 on 12月 10, 2015, 08:00 am JST

センサーにBluetooth Smartの通信機能、電池までをセットにした「センサネットワークモジュール」を提供することで、アルプス電気では「引き合いは多いが大量案件につながらない」というIoTの現状に風穴を開けようとしている(前編参照)。部品メーカーがIoT時代にどのようなアプローチで、顧客に価値を提供できるのか。営業本部 民生・新市場業務部1G 担当課長の稲垣一哉氏はその1つの答えとして、パートナーとの協業を挙げる。

アルプス電気 民生・新市場業務部担当課長 稲垣一哉氏

稲垣一哉氏(いながき・かずや)
1997年にアルプス電気に入社、PHSの位置情報システム、PLC(電力線通信)、5GHzの無線システムなど、主に通信関連の事業に関わり、2006年〜2008年ボストンに出向し、MITとの産学連携などを担当。帰国後はMEMSなどのセンサー事業の立ち上げに関わる。2012年からは無線電力伝送やセンサーネットワークなど、エネルギー関連のプロジェクトを歴任し、現在はIoTを中心に民生・新市場の事業開発と産学官連携を担当する。

IoTに求められるセンサーのニーズに対して、100%の個別要求に応えることは難しいことから「センサネットワークモジュール」の提供を2015年10月に開始しました。部品メーカーの製品としては異例ですが、センサーをモジュール化し、9800円というリストプライスを設定し、Webサイトで1つからでも購入できるようにしました。大量生産しないとビジネスにならないという部品メーカーのビジネスモデルの殻を破ることで、ユーザーニーズを拾い上げようとする動きです。

アルプス電気では、「センサネットワークモジュール」の提供に先立ち、屋外設置が可能で通信距離が長い920MHz帯の通信に対応した「環境センサモジュール」も提供しています。アルプス電気ではこれらを総称して「IoT Smart Module」と呼んでいます。IoTを実践したいけれど部品がないから実証できないという課題解決の糸口をこちらで掴んでいただければと考えています。

とは言え、事業的な課題を全部解決できるかというと、それだけでは難しいのも事実です。多くのお客様はIoTの実践でクラウドの利用を想定されています。クラウドにつなぐ方法であったり、人工知能やアナリティクスにデータを渡す方法であったり、解決すべき点はたくさんあります。IoT Smart Moduleを購入していただけば、IoTは簡単に始められるのですが、その先の奥が深いわけです。これは、部品メーカーとしてのアルプス電気が競争力あるソリューションとして提供できる範囲を超えてしまいます。

アーキテクチャをレイヤーで整理し、餅は餅屋に徹する

そこで、IoTのアーキテクチャをレイヤーで整理して考えることにしました。下位のレイヤーには、「デバイスレベル」「通信レベル」があります。部品メーカーですから、デバイスレベルはお手のものですし、通信レベルのノウハウも多く蓄積しています。すでに2種類のIoT Smart Moduleが提供しているレイヤーでもあります。一方、アプリケーションやソリューションを規定する上位レイヤーの「アプリレベル」は、顧客側に目的があるわけです。この「デバイスレベル」「通信レベル」と、「アプリレベル」の間をつなぐところのリソースがアルプス電気にはないことが明確になりました。「システムレベル」と呼ぶ中間のレイヤーです。

例えば、アプリレベルから見るとIoTのセキュリティは重要な課題です。OTA(Over the Air)によるファームウエアの更新や、暗号化処理など個別の機能はアルプス電気のリソースでまなかえますが、システム全体としての「使いやすさと堅牢さのバランス」や「トータルのコストと実現する機能」などは部品メーカーの提供する価値の範囲を超えてしまいます。それならば、システムレベルで全体を見てもらえるパートナーを探そう――ということになりました。

IoT事業のパートナー第一弾となったのが日本IBMです。IBMが提供するPaaS(Platform as a Service)である「IBM Bluemix」を、センサーモジュールとアプリケーションをつなぐシステム基盤として利用することにしました。IBMはシステムレベルでは世界でビジネスを展開していますが、ハードウエアは提供していないので、お互いにそれぞれの強みの補完関係を保てる理想的なパートナーです。

IoTソリューションにIBM Bluemixを使うことで、センサーのデバイスの接続や制御、データの収集、管理、IoTイベントの処理フローの作成など、IoTアプリケーションに必要なソリューションを包括的に提供することが可能になります。また、IBM Bluemixには視覚的に論理フローを組み立てる機能があり、ストーリーを顧客企業が自由につなぎ変えてメリットの最大化を検証することができます。ハードウエアはアルプス電気がIoT Smart Moduleとして用意しますから、顧客にはクラウド上のIBM Bluemixを活用してメリットが生まれるシステムを作ってもらえれば、というスタンスです。

アルプス電気としては、顧客がIBM Bluemixを活用して様々なストーリーをつないでみて、そこでメリットを生み出すフローが出来上がることに期待しています。クラウド上で試して、顧客に本当にメリットがあるフローが精査できたら、それをハードウエア上に焼き込めばいいわけです。そこからは、部品メーカーの最も得意な分野の仕事になるのです。

さらに、新しい展開も考えています。ハードウエアとしてのセンサーそのものだけでなく、アルゴリズムを含めたファームウエアのグレードアップや保守・メンテナンスなど、センサーを活用してもらうための基盤となるサービスまで提供することで、顧客のメリットの追求に貢献できるのではないかと思います。

IoTのアーキテクチャをレイヤーで考えることで、自分たちだけでは出来ない価値をパートナーとともに提供することができるようになります。日本IBMとの協業に続いて、ユニアデックスともパートナーとして協業することを発表しています。アルプス電気は部品メーカーですから、IoTでもセンサーが一番生きるようなソリューションを提供することが狙いです。ソリューションに応じた最適なパートナーと手を組むことで、IoT全体としての価値やメリットの創出につながることを目指しています。

最適で実利的なIoTを見出すためには個別探索が必要

こうして、IoTが話題になって、当社でもビジネスとして軌道に乗せようとしているわけですが、「IoTってビジネスになるの?」という根本的な部分の説明が難しいところです。どのKPI(重要業績評価指標)を使えばいいのかですら、判断がつかないケースも多いでしょう。でも、だからといって黙って何もしないでいては時代に取り残されます。IoTは新しい言葉のように捉えられがちですが、前編でも説明したように「構想」としては特に新しいものではありません。20年以上も前から考えられてきたことが、現代になって実現性が高まってきただけのことです。アクションを起こせるならば、今すぐにでもやってみましょう、御社とお客様の課題解決を探すツールが出て来ましたよ、というメッセージを届けたいと思います。

IoTではいろいろなアイデアが生まれてきています。アルプス電気は部品メーカーですから、センサーモジュールの開発キットであるIoT Smart Moduleをビジネスの柱にするつもりはありません。センサーモジュールは、市場に対してどの方面から反応があるかを確認するレーダーのようなものです。今、レーダーのスイープを始めたところ、様々な方面から反応があることがわかりました。各方面の反応を常態化させて、部品のマスプロダクションにつなげることが部品メーカーとしての目指すところです。

2015年10月に開催された「CEATEC JAPAN 2015」のアルプス電気ブースでは、IoT Smart Moduleとパートナーとの協業をアピールする展示を行いました。センサーとBluetooh Smart通信機能などをパッケージ化した「センサネットワークモジュール」は、CEATEC AWARDのグリーン・イノベーション部門で準グランプリを受賞したように、来場者の注目度も評価も高かったと考えています。IoTに乗り出そうとしたときに、アルプス電気のハードウエアとIBM、IQPやユニアデックスといったパートナー企業のシステム技術などを組み合わせることで、手軽に新しいアイデアを実現できることを来場者に伝えることができたと思っています。

「CEATEC JAPAN 2015」のアルプス電気ブース

「CEATEC JAPAN 2015」のアルプス電気ブース。IoTを1つの柱として、ソリューションやパートナーとの協業をアピールした

CEATECでの反応で少し予想と違っていたこともあります。当初、IoTに興味を示すのはベンチャー企業などが中心かと考えていました。ところが蓋を開けてみると丸の内に本社があるような重厚長大な産業企業の引き合いがとても多かったのです。「IoTで何ができるか」幅広い産業での具体的なソリューションやインフラ探索が始まっていると感じています。

そうした中で、実際にビジネスの現場にいる人がIoTの価値に気づいていくケースがあったことが印象的です。ヘルメットにセンサネットワークモジュールを付けて、作業員の状態に異常があったときにアラートを出すデモを行ったのですが、「工事現場などでまさに求めているソリューションだ」といった反応が得られました。顧客にどのようなメリットがあるかは、アルプス電気が判断するのではなくて、実際にビジネスで使っている人の目で具体的な価値を判断するものでしょう。アルプス電気としては、現場で受け入れられるベストプラクティスを集めた提案を続けていきたいと考えています。

アルプス電気の創業者の言葉に「部品に徹する」というものがあります。これは今でも受け継がれている言葉です。IoTがどのように広がる時代が来たとしても、本分は部品メーカーだということです。アルプス電気では、部品メーカーとしてのIoTへの取り組みを先行して進めることで、本格的なIoT時代が到来するまでに実績を作っておくことが必要だと考えています。実績の中には、パートナー戦略のような新しい試みだけでなく、積み重ねてきた部品メーカーとしての価値も含まれます。

アルプス電気 民生・新市場業務部担当課長 稲垣一哉氏

センサーの質がそろっていて、測定結果にばらつきがないということは、データを大量に蓄積したときにアナリティクスしやすいことにつながります。品質の安定はアルプス電気の強みですし、センサーごとのばらつきを考慮せずにアナリティクスができれば、使いやすさは高いわけです。こうした価値も含めて、いままでアルプス電気の部品が使われていないような領域で私たちのセンサーやコンポーネントが使われるようになれば、IoT時代になっても、部品に徹したアルプス電気が社会に貢献し続けることを示せると考えています。

構成:岩元直久

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