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残業を減らしたければ権限分掌しろ

Segregate duties if you do not want to work after 5 

2015.12.14

Updated by Mayumi Tanimoto on December 14, 2015, 12:40 pm UTC

AppBankからどんなネタがわいてくるのだろうと連日胸が高鳴っている今日このごろです。先日我が家の老婆に最近はネットでゲームをやるのを流すと大金持ちになれると説明したところ、そんなのは あたしに 金をくれと電話を掛けてくる詐欺師と同じに違いない、といっておりましたが、老婆のいうこともたまには耳を傾けるべきでしょう。

さて、大原さんから前回いただいた

副次権ビジネスのすすめ

の中で、もう一つ気になる点がありました。

欧米のエディターに比べると、日本の編集者はやらされていることが多すぎて、年間の刊行タイトル数のノルマも半端ないんですよね。海外だと「それって、エージェントやマーケティングやパブリシティーという、全然ちがう部署の人たちの仕事でしょ?」ってことまで引き受けていて、しかも電子書籍の仕事までまわってくる。

つまり、日本の出版業界は、北米や欧州の業界に比べると、分業制が確立しておらず、一人の人間があれもこれもやらされるので、仕事量が半端なく多く、しかも外部の「専門家」の使い方も恐ろしく下手だ、という話です。

これは私も感じることです。イギリスだと編集だけやる人、レイアウトだけやる人、企画だけ立てる人、販売戦略だけ立てる人、電子をやる人、とかなり分業化されています。組織の規模が小さい場合は、外部のそれ専門の専門家に割りと高めの費用を払って業務を依頼します。外部の人間は短期雇用で雇用の安定性はないので割高な費用を払うのは当たり前です。

外注コストは出版業界の組合で「なんの業務はいくら」と相場が公開されています。だから激安で仕事を頼んでくるような組織は鬼畜扱いされ、専門家の方が相手にしなくなります。そして口コミでそこの噂は広まり、ロクな人間が来なくなります。ここでは出版だけではなく放送やIT業界の個人事業主やフリーランスは、そうやって自分達の仕事の単価を守っています。ゆるいギルド制のような仕組みです。ですからフリーランスでも正社員以上に稼ぐ人々が山のようにいます。雇用が保証されてないのでアタリマエのことなのですが。

日本の出版業界とお付き合いしてびっくりしたのは、編集者の人があれこれ一人でやっているだけではなく、外部とも業務の垣根が曖昧で、なんだかカオスなことです。これは大手でも同じです。

私の本業はITガバナンスとか監査の方面でありますが、英語圏だとIT業界では権限分掌(役割分担)が明確です。英語で書くとSegregation of duties (SoD)です。(どこぞのビデオ屋と間違えないでください)それを元に組織やプロセスを設計し、コスト計算し、問題が起きた場合の責任分解点を明確化し、アクセスできる情報や業務の機能を制御します。

さらに重要なのは、権限分掌が各従業員の雇用契約の下地になる点です。 権限分掌に書いた業務を元に、職務記述書を起こし(順番は反対の場合もある)、それが各従業員の業務評価書、雇用契約書の下地になります。各自の評価や給料、業務量の計算の元になるわけですから、従業員にとっても大変重要です。

まともな権限分掌がなければ、きちんとしたコスト管理が不可能ですし、問題が起きた場合にルートコーズ(根本的原因)を洗い出すこともできませんので、インシデントやプロブレムに即時に対応できません。

権限分掌は、まっとうなサービス運用を行うための基本中の基本です。 その組織のガバナンス体制の監査をする場合は、その組織の組織図と、業務実際を元に、権限分掌も徹底的に洗います。問題があれば改善し、状況は継続的にモニタリングします。

まともではないマネージャや経営者の運営する組織は、権限分掌がメチャクチャです。誰が、何を、いつ、どの時点で、誰の指令でやったのか、が不明なので、問題の洗い出しも突き止められませんし、コスト管理もメチャクチャです。職務契約書や雇用契約書もメチャクチャなことが少なくありません。

日本の出版業界は、大手であっても、デスマーチが当たり前のシステム屋と似ています。権限分掌ができておらず、現場の力技で業務を回している状態です。職務契約書や雇用契約書も適当です。英語圏のIT業界だったら、まともな人間は誰も働こうとは思わない状態です。

権限分掌が曖昧なのには良いこともあります。担当者の転機で自分の本業以外のこともこなしてくれたりしますし、問題解決も早い場合もあります。責任配分も曖昧ですので、慣れ合いで仕事する空気が漂い、なんとなく心地よくて、ぬるい職場の出来上がりです。管理者は何も管理する必要がありません。経営者や管理者にとって楽な職場です。

景気が良い時はこれでもいいのですが、一旦入ってくるお金がタイトになるとそうも行きません。稼働コストも含めたコストはきっちり見なくちゃなりません。できる人間のアウトプットはきちんと評価してそれ相応の報酬を支払う必要があるので、誰が何かやってどうなったか、を「見える化」する必要があります。 内部でできない仕事は切り出しし、もっとスキルのある専門家に頼んだり、内部の人間の稼働コストよりも割安な外注に仕事を頼んでコストをカットします。

日本の出版業界が不況に悩み、コンテンツを有効活用できていないのは、権限分掌をはじめとする「経営のやり方」に問題がある気がしていますが、それを指摘する人はあまりいないようです。しかしこの問題は、出版業界だけではなく日本のITや通信、サービス業の世界でも同じです。曖昧に業務を回しているから残業は減らないし、従業員は疲弊するし、効果も出ないわけです。

しかし残業が減らない根本原因を議論する人はいません。「議論しない」という点が最大の問題なわけですが。

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。