【今よむべき3冊の本】「資本主義社会の次」に日本が進むために確立すべき技術体系
2016.01.12
Updated by Asako Itagaki on January 12, 2016, 12:12 pm JST
2016.01.12
Updated by Asako Itagaki on January 12, 2016, 12:12 pm JST
ハッピーマンデーが導入されて以来、最初の三連休の最終日にあたる「成人の日」が終わるまではなんとなく正月気分が抜けません。というわけで、この1年をどんな年にしようか、どんな年になるだろうかと考えるのは1月も10日を過ぎてからというのがここ数年の通例となっております。
WirelessWire Newsを発行しているスタイル株式会社はIntelligence Designer、考えるあかり、マガジン航など、複数のメディアを発行しております。WirelessWire Newsにコラムを寄稿いただいている谷本真由美氏とマガジン航に寄稿されている大原ケイ氏による往復書簡企画「クール・ジャパンを超えて」が昨年からスタートしておりますが、これを手始めに今年はスタイルのウェブメディア間での連携企画なども積極的に進めていく予定です。
その連携企画、2016年の第一弾として、「各メディアの編集長が『今読むべき本』を3冊紹介する」というお題が出ましたので、これもこの3連休に考えてみました。
【こちらもお読み下さい】
・谷崎、タケミツ、そしてリゲティーー 『考えるあかり』が考える、今年体感すべき3つの作品(考えるあかり編集長 狩野芳子)
・出版の「初心」を思い出すための3冊(マガジン航編集長 仲俣暁生)
昨年の12月に「今後10~20年後に日本の労働人口の49%が人工知能やロボットで代替可能になる」という野村総研のレポートが話題になりました。同時期に出版された「限界費用ゼロ社会」(ジェレミー・リフキン著、NHK出版)では、IoTによる自動化と生産性向上が結果的に雇用を奪い、失業率を上げることで結果的に経済が回らなくなるという「限界費用ゼロ社会」がもたらす現代資本主義社会の限界と、その後に来る共有型社会の台頭を描いています。
本書ではIoTはコミュニケーション、輸送、エネルギーの「3つのインターネット」から成り、これらが単一の可動システムとして協働することで新たな経済システムのプラットフォーム化するとしています。末尾には著者が日本向けに書き下ろした「岐路に立つ日本」という章があります。「日本は限界費用ゼロ社会へのグローバルな移行における不確定要素である」(本書より抜粋)として、ドイツと日本を比較して論じています。
日本は世界に比べると圧倒的に高品質な通信インフラが整備されており、過去には第二次産業革命で急速な生産性向上を遂げ高度成長を達成した経験があります。IoTによる超効率社会に移行する高い潜在能力を持ち、「主要産業の多くはIoTインフラの導入を切望している」(本書より抜粋)にもかかわらず、ドイツの後塵を拝しているのは、「古い原子力発電所をなんとしても稼働させ、日本を輸入化石燃料に依存させ続ける気でいる」(本書より抜粋)電力業界によって手足を縛られているからだとします。
とはいえ、1月から始まった電力自由化の動きに代表されるように、中央集権的な電力ネットワークの分散化はゆっくりとですが、始まるきざしがあります。リフキンが主張するように化石燃料を再生可能エネルギーに置き換えることは難しいとしても、天然ガスコージェネレーションのような新技術を利用した分散型発電などの動きも始まっています。
リフキンが予測するような未来が来るとすれば、新たな社会のエネルギー源には、中央集権的な垂直統合型システムの代表ともいえる原子力発電の居場所はなさそうです。すぐに原発を止めるのか、安全を確認したうえで再稼働しつつも徐々に減らしていくのか、あるいは原子力を使い続けるという選択がありえたとしても古い設備を更新するために、いずれにせよ既に日本国内に立地している原子炉を止めるためには、「廃炉」が必要です。
「廃炉」といえば東日本大震災でメルトダウン事故を起こした福島第一原子力発電所の原子炉を思い浮かべる人も多いでしょう。政府と東京電力はおよそ30年から40年で廃炉を完了するとしていますが、高い放射線量の中、1号機から3号機の原子炉から溶け落ちた燃料がどのような状態でどこに存在しているかも未だ不明です。
…といったことはよく知られていますが、原子炉の「廃炉」は通常どのようなプロセスで行われるかはあまり知られていません。「原子炉解体」(石川迪夫著、講談社)では、1981年から1996年にかけて行われた、原子力研究所の動力試験炉の解体撤去作業について詳しく述べられています。
原子炉の廃炉は、単に建物を壊すだけでなく、作業員の安全を確保しながら作業を行い、放射能を帯びた廃材を線量によって区分し適切な処理を行う必要があります。そのためには、除染技術、解体技術、線量の高い場所で作業をさせるためのロボット技術、放射性廃棄物の量を安全に減らす減容処理技術、放射性廃棄物を安全に保管する技術、作業計画を立案するためのシステム工学など多岐にわたる知見が必要です。
日本全国にある54基の原子炉も、いずれは廃炉の日を迎えることになります。福一の事故処理だけでなく、これらの原子炉を滞り無く安全に解体するための「廃炉工学」の体系を確立し、人材を育成することが日本にとっての喫緊の課題となります。ロボット、AI、センサーネットワークといったIoTを構成する技術要素はここでも重要ですし、廃炉の技術が日本で確立されれば、それは未来の地球にとって必要な技術です。
2016年は「東日本大震災から5年の区切りの年」でもあります。昨年末に平凡社STANDARD BOOKSとして刊行された寺田寅彦の随筆集「科学者とあたま」の中に、昭和8年の昭和三陸地震による津波被害を取り上げた「津浪と人間」という一編があります(寺田寅彦のテキストはパブリックドメインになっていますが、とても装丁が美しい本ですので、ぜひ手にとって見て下さい)。
昭和八年三月三日の早朝に、東北日本の太平洋岸に津浪が襲来して、沿岸の小都市村落を片端から薙ぎ倒し洗い流し、そうして多数の人命と多額の財物を奪い去った。明治二十九年六月十五日の同地方に起ったいわゆる「三陸大津浪」とほぼ同様な自然現象が、約満三十七年後の今日再び繰返されたのである。
(寺田寅彦「津浪と人間」より)
そして津波の直後は被害状況を調べて災害予防策を講じても、次の津波が来るまでには当事者たちは世間から引退しており、いつしか記憶は忘れられてしまうと語っています。「災害を防ぐためには人間がもう少し過去の記録を忘れないように努力するより外はないであろう」という言葉を、5年めの区切りの年に、あらためて心に刻みたいと思います。過去を忘れず常に思い返すことが、未来を正しく選択するためには必要なのです。
2016年も、IoTが変える社会をお伝えしていきたいと思っています。
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登録はこちらWirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。