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北朝鮮

日本円で買える電子決済カード、Surface Bookのような脱着式キーボードのパソコン-北朝鮮最新IT事情を視察

Various IT products introduced in DPRK - Hybrid laptop also introduced

2016.01.18

Updated by Kazuteru Tamura on January 18, 2016, 11:51 am JST

朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)ではパソコンや周辺機器、スマートデバイスなどのIT製品の人気が高まりつつある。北朝鮮でタブレットが登場していることや、IT分野の教育に注力していることなどは北朝鮮メディアもしばしば報じており、国を挙げてIT分野の強化を図っていることは日本でも知られているだろう。北朝鮮を訪問して首都平壌で開催される「国際商品展覧会」に参加するなど、最新の北朝鮮IT事情を視察できたので紹介する。

タブレットの新製品が続々登場

北朝鮮では2012年に北朝鮮独自ブランドを冠したタブレットが登場し、このことは世界的に報じられた。北朝鮮では2012年の時点で複数の企業がそれぞれ異なるブランドのタブレットを開発し、Achimシリーズ、Samjiyonシリーズ、Arirangシリーズのタブレットが発売された。その後はこれらの既存シリーズにおける新型のタブレットのほか、Ullimシリーズ、Ryonghungシリーズ、Myohyangシリーズ、Haeyangシリーズなど新たなシリーズのタブレットも登場している。一部シリーズは販売終了となったが、北朝鮮で販売されているタブレットは豊富なラインナップとなっている。

国際商品展覧会で新製品を公開

北朝鮮では多くのタブレットが存在するが、これらの多くは首都の平壌で開催される国際商品展覧会において披露されることが多い。国際商品展覧会は新製品の披露や即売会を兼ねており、北朝鮮の対外経済省傘下の朝鮮国際展覧社が主催する。2014年6月より前は貿易省傘下であったが、2014年6月に貿易省と合営投資委員会および国家経済開発委員会を統合して対外経済省が発足し、貿易省の管轄業務を対外経済省が継承したため対外経済省傘下となった。

出展企業は北朝鮮企業に限定せず、中国など北朝鮮国外からも多くの企業が出展している。入場料は一人5ユーロを入場前に現金で支払う。開催場所は3大革命展示館で年2回の開催となっており、春に平壌春季国際商品展覧会を、秋に平壌秋季国際商品展覧会を開催する。2015年に平壌春季国際商品展覧会は第18回を、平壌秋季国際商品展覧会は第11回を迎えた。

北朝鮮メディアは積極的に国際商品展覧会の模様を報道しており、また国際商品展覧会を視察する外国人もいるため、新型のタブレットなどIT製品に関する情報はメディアを通じてある程度は入手できる。実際に視察したく考えたため、第11回 平壌秋季国際商品展覧会に参加した。

展示会はIT製品のみならず、日用品や医薬品など様々な分野の製品が集結しているが、IT製品はとりわけ人気を集めており、IT企業のブースは賑わっていることが一目で分かった。IT企業のブースは若年層の男性を中心に人気で、展示品のタブレットやパソコンを実際に操作してみたり、複数の機種を比較してみたり、気に入った機種を購入する様子が見られた。人気のブースは人が多くて近づきにくいこともあったが、3時間ほどあれば一通り視察できた。短時間の視察となったものの、北朝鮮におけるIT製品への人気の高まりを直に感じることができた。

▼国際商品展覧会の会場となる3大革命展示館。
国際商品展覧会の会場となる3大革命展示館。

タブレットとUSBメモリを購入

第11回 平壌秋季国際商品展覧会を視察するにあたり、何らかのIT製品を購入することは事前に計画しており、タブレットのAchim AC-01-191とUSBメモリを購入した。

Achim AC-01-191はAchim-Panda Computer Joint Venture Companyが販売するAchimシリーズのタブレットである。OSにはAndroid 4.4.2 (KitKat)を採用しており、アナログテレビの視聴が可能である。Achimシリーズのタブレットは北朝鮮国内の工場で組み立てており、それをアピールするためか化粧箱には朝鮮民主主義人民共和国製を意味するMADE IN D.P.R.Kとプリントされている。

USBメモリのブランド名はPotonggangとなっている。Potonggangは平壌の中心部を流れる河川の「普通江」に由来する。ストレージの容量やカラーなどは複数の種類が用意されている。製造元は普通江電子製品工場で、保証期間は購入から1年間である。

▼北朝鮮で購入したAchim AC-01-191。
北朝鮮で購入したAchim AC-01-191。

▼北朝鮮で購入したUSBメモリ。パッケージには普通江のイメージが描かれている。
北朝鮮で購入したUSBメモリ。パッケージには普通江のイメージが描かれている。

▼平壌の中心部を流れる普通江。
平壌の中心部を流れる普通江。

脱着式キーボードのパソコンが登場

北朝鮮で様々なIT製品が増える中で、Phurun Hanul Electronics JV Co., Ltdが存在感を出しており、一部の海外メディアも取り上げた。Phurun Hanul Electronics JV Co., Ltdは平壌の楽浪区域にオフィスを構える。ブランド名は朝鮮語で青空を意味するPhurun Hanulで、パソコン、プロジェクタ、ディスプレイなどを販売している。

Phurun Hanul Electronics JV Co., Ltdは主力製品として脱着式キーボードを採用したパソコンを公開した。キーボード装着時は一般的なノートパソコンとして利用可能で、キーボードを取り外すとタブレットとして利用できる。OSはWindows 8を採用し、プロセッサはIntel Atomシリーズ、CPUはクアッドコアで動作周波数が1.33GHzとなる。ディスプレイは約10インチで解像度がWXGA(1280×800)の液晶を搭載し、メモリの容量は1GBまたは2GB、ストレージの容量は32GBまたは64GB、電池容量は6000mAhである。

Phurun Hanul Electronics JV Co., Ltdはデスクトップパソコンやノートパソコンも販売するが、この脱着式キーボードを採用したパソコンを主力製品としており、パンフレットでは大々的に紹介している。

▼Phurun Hanul Electronics JV Co., Ltdが販売する脱着式キーボードのパソコン。
Phurun Hanul Electronics JV Co., Ltdが販売する脱着式キーボードのパソコン。

▼Phurun Hanul Electronics JV Co., Ltdのロゴ。製品にはこのロゴが入っている。
Phurun Hanul Electronics JV Co., Ltdのロゴ。製品にはこのロゴが入っている。

▼Phurun Hanul Electronics JV Co., Ltdのパンフレットには様々なIT製品を掲載している。
Phurun Hanul Electronics JV Co., Ltdのパンフレットには様々なIT製品を掲載している。

空港でIT製品のショップがオープン

平壌国際空港(FNJ)は2015年7月1日に第2ターミナルが開業した。これまで運用していた第1ターミナルは小さなターミナルだったが、第2ターミナルは立派な建物となり、数多くのショップが入居する。

第2ターミナルにIT製品を販売するショップが入ったことで、平壌国際空港でIT製品の購入が可能となった。当初はスマートフォンも販売する予定であったが中止にしたそうだ。スマートフォンは買えないもののタブレットやUSBメモリなどを購入できる。北朝鮮のブランドのIT製品のみならず、日本のブランドを含む輸入品も取り扱うため、北朝鮮のブランドを求めて訪問すると肩透かしを食らうかもしれない。なお、第2ターミナルはさらに拡張する計画で、すでに工事も始まっていた。

▼第2ターミナルに入るIT製品を販売するショップ。
第2ターミナルに入るIT製品を販売するショップ。

電子決済カードが普及

IT製品の多様化のみならず、北朝鮮ではIT技術を活用したサービスも普及しており、そのひとつが電子決済カードである。北朝鮮では電子決済カードのNaraeが普及しており、ナレカードと呼ばれることもある。Naraeの発行元は朝鮮貿易銀行で、北朝鮮の人々はもちろんのこと外国人も利用できる。Naraeを発行するにあたり、わざわざ朝鮮貿易銀行に足を運ぶ必要はなく、筆者は平壌高麗ホテル内の喫茶店のレジで発行した。

Naraeを発行する際に利用者自身で4桁の暗証番号を決めるが、これは決済時に必要であるため、忘れないよう注意したい。暗証番号を決めて発行手数料とチャージ額を払うだけで入手可能で、わずか2〜3分程度でNaraeを入手できた。日本円、ユーロ、米ドル、中国人民元で購入可能としており、筆者は日本円で購入した。レジでは日本円、ユーロ、米ドル、中国人民元のレートを案内しており、日本円のレートは1週間ごとに更新するという。

発行手数料とチャージ額を合わせて3,000円を出したところ、明細書には発行手数料が294北朝鮮ウォン、チャージ額が2274北朝鮮ウォンと記載されていた。日本円換算で発行手数料は343.46円、3,000円から発行手数料を差し引いた2656.54円分がチャージされたことになる。

Naraeを利用可能なショップは多く、Naraeのロゴマークがショップの入口またはレジに掲げられていれば利用できる。決済時にNaraeを店員に渡せば専用の機械にNaraeを通してくれるため、顧客側は暗証番号を正しく入力するだけで決済が完了する。

北朝鮮では現金で少し面倒なことがある。観光客向けにユーロや米ドルで表示するショップも存在するが、やはり現地通貨である北朝鮮ウォンで表示するショップが多い。しかし、外国人は経済特区として外資の誘致を推進する羅先経済貿易地帯を除いて基本的に北朝鮮ウォンを使えない。そのため、決済のたびに店員がレートを計算して外貨で支払うが、ショップが細かい外貨の釣銭を持っていなければ、支払いの通貨と異なる通貨で釣銭を受け取ることがある。実際に筆者は日本円で支払い釣銭が中国人民元、中国人民元で支払い釣銭が米ドルや北朝鮮ウォンということがあった(釣銭で北朝鮮ウォンを受け取る事例は珍しく、北朝鮮ウォンへの両替を断られた筆者の本音は嬉しかったが、外国人は使えないため記念に持ち帰るよう指示された)。Naraeを使えばこのような釣銭に関する煩わしさを解消できる。

また、Naraeの残高は北朝鮮ウォンで表示されるため、残高さえ把握していればわざわざレートを計算する必要なくどれくらいの金額を買物できるのかイメージしやすいだろう。Naraeの残高不足分を現金で支払うことも可能で、Naraeを上手く活用すれば面倒を省きつつキャッシュレスで買物を楽しめる。

▼Naraeの表面。
Naraeの表面。

▼Naraeの裏面
Naraeの裏面

▼レジではNaraeを購入できる通貨のレートを案内していた。JPYではなくJNYと書かれているが、日本円のレートを確認できる。
レジではNaraeを購入できる通貨のレートを案内していた。JPYではなくJNYと書かれているが、日本円のレートを確認できる。

朝鮮語のロゴを前面に展開

北朝鮮独自ブランドと言うとあまり馴染みがないかもしれないが、国際商品展覧会で北朝鮮の企業が披露するIT製品や家電製品のほとんどは共通して朝鮮語由来のブランドを冠しており、朝鮮語のロゴが入っている。日本や韓国などの企業はブランドやサービスに英語由来の名称を与えることも多く、たとえ英語由来の名称ではなくとも製品にはアルファベットのロゴが一般的に見られるが、北朝鮮においてはそうではない。朝鮮語のロゴを前面に出すことで北朝鮮独自の製品であることを強調し、北朝鮮の人々の自尊心を高めるとともに購入意欲を掻き立てる狙いがあるという。

北朝鮮ではスマートフォンの利用者が増加しているほか、タブレットやパソコンなどのIT製品も多様化しており、またNaraeが普及するなどIT製品やIT技術が北朝鮮の人々の生活に浸透しつつある。国を挙げてIT分野を強化する北朝鮮では今後も様々なIT製品やIT技術を駆使したサービスが登場する見通しで、引き続き北朝鮮におけるIT分野の発展に注視しておきたい。

▼Arirangシリーズの液晶テレビ。Arirangのブランドはスマートフォンで有名になったが、それ以前から存在しており、Arirangシリーズのタブレットや液晶テレビが販売されている。
Arirangシリーズの液晶テレビ。Arirangのブランドはスマートフォンで有名になったが、それ以前から存在しており、Arirangシリーズのタブレットや液晶テレビが販売されている。

▼平壌国際空港のチェックインカウンターのモニタは第1ターミナルが中国の康佳(KONKA)製であったが、第2ターミナルは北朝鮮のブランドであるSamilpoとなった。Samilpoは金剛山近くの湖で関東八景のひとつに数えられる三日浦に由来する。
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田村 和輝(たむら・かずてる)

滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。