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映画「サウルの息子」の舞台となったアウシュビッツ強制収容所を空撮したドローン

2016.02.03

Updated by Hitoshi Sato on 2月 3, 2016, 16:32 pm JST

2015年にハンガリーのネメシュ・ラースローという若い監督が制作し、2016年1月から日本でも公開されている映画「サウルの息子」が話題になっている。アウシュビッツ強制収容所においてガス室で殺害されたユダヤ人の死体を処分する任務(ゾンダーコマンド)につくユダヤ人囚人サウル。ある日、自分の息子が殺害される。ガス室で処理された遺体は、焼却炉で焼かれるだけだが、ユダヤ教では火葬では死者が復活できないことから禁じられており、息子をユダヤの教義で埋葬しようと試みる壮絶な物語である。

▼映画「サウルの息子」紹介動画

アウシュビッツ強制収容所をとらえたドローン

映画「サウルの息子」の舞台となったのは、アウシュビッツ強制収容所である。ナチスが政権を握ってから推進されたホロコーストではユダヤ人やロマ、政治犯、身体障碍者など約600万人が殺害されたと言われている。アウシュビッツ強制収容所はヨーロッパ中のユダヤ人などを絶滅することを目的として設置されたもので、ここでは110万人以上の人々が大量虐殺の犠牲となった。つまりホロコーストの犠牲者の5~6人に1人がアウシュビッツで殺害された。

そのアウシュビッツ強制収容所跡地を2015年1月にイギリスのBBCがドローンを用いて空撮し、その動画をYouTubeにも公開して世界中に情報発信している。公開から1年が経過し既に124万回以上再生されている(ショートバージョンは72万回再生)。

ポーランドのクラクフ郊外にあるアウシュビッツは日本からは非常に遠く、簡単に行ける場所ではない。また映像や写真などで見ることはあっても、ドローンで空撮された映像は珍しい。ドローンはこのような歴史的史跡や、自然など人間が簡単に行けないところを日常では見えない角度から捉えて撮影するのに最適である。もちろん、YouTubeにアップされた無味乾燥なアウシュビッツの動画を見ても、当時の壮絶な地獄の様子は伝わってこないかもしれないし、自ら一度も強制収容所の経験のない現代の人間が当時の収容所での囚人の様子を想像することなど不可能なのかもしれないが、それでも歴史の事実と現在の様子は伝わってくる。

▼BBCが制作したドローンで空撮したアウシュビッツ強制収容所跡地

アウシュビッツ・ビルケナウ博物館からも情報発信

アウシュビッツ強制収容所は現在でも世界中からの多くの訪問客が後を絶えない。訪問客は増加しており、2001年には49万2,000人だった訪問客が、2015年には172万5,000人となっている。それでもやはり簡単に行けない人も多い。そのためアウシュビッツ・ビルケナウ博物館でもサイトでの説明の他にYouTubeに大量の動画をアップして、ホロコーストの悲劇と当時のアウシュビッツでの様子を世界中に伝えている。生存者たちの声などもあり、当時の様子が伝わってくる映像が多い。

▼アウシュビッツ・ビルケナウ博物館が解放70年を記念して制作した動画

映画「サウルの息子」の中にも収容所での壮絶なシーンが多く出てくる。特に親衛隊やカポにとって、囚人の命を維持するよりも重大な仕事は囚人を監督し続けることだというのがわかる。移送されてきたユダヤ人をガス室へ誘導し、殺害し、その後処理するまでも非常にシステマティックである。「ドイツ人は正義よりも秩序を愛する」とドイツの文豪ゲーテは言った。アウシュビッツはまさに虐殺と絶滅という目的達成に向けた、おぞましい秩序によって運営されていたのだろう。

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【参照情報】
映画「サウルの息子」
アウシュビッツ・ビルケナウ
アウシュビッツのYouTubeページ
Auschwitz Continues to Draw Visitors, in Poland and on Facebook

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佐藤 仁(さとう・ひとし)

2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。