[MWC2016]正常進化するスマホ、次期アプリとしてVRに期待――MWCななめ読み「端末編」
2016.03.07
Updated by Naohisa Iwamoto on March 7, 2016, 15:44 pm JST
2016.03.07
Updated by Naohisa Iwamoto on March 7, 2016, 15:44 pm JST
通信業界の最大の国際展示会「Mobile World Congress 2016」(MWC2016)が、2016年2月22日~25日にかけてスペイン・バルセロナで開催された。204カ国から約10万1000人(2015年は200カ国、約9万3000人)という記録的な来場者を集めたMWC2016の展示会から、トピックを今回の「端末編」と、「5G、IoT編」に分けて紹介する。
数年前までのMWCというと、各国の端末ベンダーが競って新製品を発表し、来場者もマスコミなども端末ベンダーのブースに押し寄せる光景が見られた。こうした光景は、スマートフォンの普及と端末の均質化が進んだことから、徐々に沈静化してきた。もちろんMWC2016でも、端末ベンダーの新製品を展示するブースにはかなりの人だかりができているのだが、全体の中で特異に見えるほどの圧倒的な集客ではなくなった。
スマートフォンの新製品は、大きな目玉となる製品がなかったというのが正直なところだろう。例年のMWCでフラッグシップの新製品をお披露目するサムスン電子は、「Galaxy S7」「Galaxy S7 edge」を発表した。CPUやGPUの高性能化、カメラの低輝度での撮影時の品質向上といった進化に加えて、防水やメモリーカードへの対応というiPhoneへの対抗手段を強化してきた。ただし、メタルボディーの質感や、カメラの非常に美しい映像などを体験できるのは招待客だけが入場できるゾーンだけ。一般の来場者は公開ゾーンのガラスケース内に展示された新製品を眺めることしかできず、ブースは落ち着いた雰囲気だった。
▼モジュラー型のボディーを採用した「LG G5」。カメラモジュールの「LG CAM Plus」を紹介
同じくフラッグシップの新製品「LG G5」を発表したLG Electronics。こちらも、メインのメッセージは「メタルのスタイリッシュなボディーでありながらバッテリー交換が可能」というiPhoneの弱点を突くものだった。LG G5は、バッテリー交換を可能にするための仕組みとして、本体の下部が取り外せるモジュラー型のボディー構造を採用した。さらに、モジュールの部分を、シャッターやズーム用の物理的なボタンを用意するカメラ撮影用途の「LG CAM Plus」や、DAC内蔵で高品質オーディオ再生に対応した「LG Hi-Fi Plus with B&O PLAY」といった交換モジュールに付け替えることで、スマートフォンの機能を拡張できるという新しい使い方の提案もあった。これは今までにないユースケースの提案で、新製品を試そうとする来場者でブースは賑わった。
ソニーモバイルコミュニケーションズは、「Xperiaシリーズ」に、3モデルの新製品を発表した。従来のXperia Zシリーズに代わる「Xperia X」シリーズで、ハイエンドの「Xperia X Performance」(国内発売予定)、フラッグシップの「Xperia X」、ミドルレンジの「Xperia XA」というラインアップだ。いずれも5インチディスプレイを採用し手にフィットするデザインを採用した。新シリーズのコンセプトは「インテリジェンス」で使いやすさを高めること。被写体の動きを予測するカメラのオートフォーカス機能や、バッテリー制御を最適化することでバッテリーの劣化を防ぎ長期間利用できるようにする機能を上位機種で採用する。
MWCで発表された新製品で来場者が注目していた製品の1つに、ファーウェイのWindows 10 タブレット「HUAWEI MateBook」がある。タブレットとしてもキーボードを接続してパソコンとしても利用できる2-in-1デバイスにファーウェイが進出してきた。12インチの大画面ディスプレイを搭載しながら、重さは640gと軽量で持ち運びも容易。指紋センサーを使ってワンタッチで起動が可能なほか、キーボード付きのカバーを使えばパソコンのように利用できる。USBやHDMI、LAN、VGAなどのコネクターを用意した「MateDock」を使うことで、パソコンと同等の拡張性を持たせた点もビジネスなどの実用性の面から評価できる。
▼ファーウェイが発表、出展したWindows 10タブレット「HUAWEI MateBook」。右がスタイラスペンの「Mate Pen」とコネクターを集約した「MateDock」
Windows 10といえば、マイクロソフトのブースにはWindows 10タブレットだけでなく、Windows 10 Mobileを搭載したスマートフォンが並んだ。昨年までは旧ノキアの製品が目立つマイクロソフトのブースだったが、今年はバリエーションが豊富に。HPが発表したハイエンドのWindows 10 Mobileスマートフォン「Elite x3」はもちろん、VAIOやマウスコンピューター、FREETEL(プラスワン・マーケティング)といった日本メーカーの端末も並んでいた。iOSとAndroidに続く第三極のスマートフォンOSを目指したTizenやFirefox OSの姿はなく、第三極に名乗りを上げることができたのはWindowsの資産があるマイクロソフトだったのだということを改めて感じさせられた。
かつてのMWCでは、ソニーモバイル(当時はソニーエリクソン モバイルコミュニケーションズ)だけでなく、NEC、富士通、パナソニック、京セラなど国内メーカーがブースを構え、防水や高性能、折りたたみ式など各種のスマートフォンを披露していた。しかし、MWCにおける端末の占める比重が減少していくのとともに、国内メーカーも一般向けのスマートフォンから撤退や縮小が相次ぎ、MWCでの展示が少なくなっている。
そうした中で、いくつかの国内メーカーはMWCに端末を持ち込み、グローバルビジネスにつなげることを目論んでいる。ソニーモバイルに次いで、スマートフォンを前面に打ち出したブースを出していたのが、FREETELブランドを展開するプラスワン・マーケティング。「極 KIWAMI」や「雅 MIYABI」といった既存のWindows 10 Mobileスマートフォンに加え、フルメタルボディが特徴のAndroidスマートフォンの新製品「麗 REI」を出展した。MWCを通じて日本メーカーの品質をアピールすることで、すでに製品提供を開始しているカンボジアやメキシコだけでなく、北米やアジア、中東などへの展開を目指すという。
▼日本のイメージを強調した「FREETEL」のブース
パナソニックはMWCで現場仕様のスマートフォン「TOUGHPADシリーズ」の新製品「TOUGHPAD FZ-N1」を発表、展示した。従来製品の約450gから275gへと大幅な小型軽量化を進め、持ち運びや操作がしやすくなった。こだわりのポイントとしては、バーコードリーダーの角度をボディーに対して斜めにしたこと。業務で数多くのバーコードを読み取る際の動作が自然にできるようになるという。OSもAndroidとWindows 10 Mobileの双方を搭載したモデルを提供し、グローバルで展開する(国内ではAndroid版を提供)。
今回のMWCでは、展示ブースではなく商談ブースを出展した京セラ。しかし、端末の技術開発の発表も忘れてはいない。MWCで京セラは、ソーラー充電が可能なスマートフォンのプロトタイプを紹介した。ソーラー充電が可能なスマートフォンというと、背面に太陽電池パネルを並べる製品が多い。京セラでは可視光の透過率を高めた太陽電池パネルをディスプレイの前面に配置した。この構造では、スマートフォンを利用しながらでも充電が可能になる。3分の充電で1分間の通話が可能になるだけでなく、室内の照明でも充電が可能という。さらに技術開発を進め、2017年には商品化を目指す。将来的には京セラ製のスマートフォンの標準装備にしていきたいとの説明があった。
▼懐中電灯の明かりをディスプレイに照らすだけでも充電ができることを示した京セラのソーラー充電スマートフォン
ここ数年のMWCでは、スマートフォンと組み合わせるコンシューマー向けのアプリケーションとして、ウエアラブル端末を活用したものが多くアピールされていた。今年もスマートウォッチなどの展示は事欠かなかったが、一時期の勢いは感じなかった。代わりに多くのブースでアピールしていたのがVR(仮想現実)だった。
▼サムスン電子のブースのVR体験コーナー。ジェットコースターの「擬似体験」で、バンザイをしたり声を上げたりしていた
サムスン電子は、2015年に発売したスマートフォンを内蔵して使うVRゴーグル「Gear VR」と、360度カメラの新製品「Gear 360」をアピール。VRと連動して動くシートを使った「4D」のジェットコースターの体験ゾーンは、最終日まで新しい体験を求める来場者が長蛇の列を作っていた。新製品のGalaxy S7/S7 edgeの展示よりも、高く注目されていたほどだ。LG Electronicsのブースでも、LG G5と連携して利用する軽量のVRゴーグル「LG 360 VR」、360度カメラ「LG 360 CAM」の新製品を展示し、VRへの積極的な取り組みを紹介していた。
ノキアは、球面上に8つのビデオセンサーを装着して縦横360度の静止画や動画を一度に撮影できるカメラ「OZO」を展示。OZOで撮影した映像をVRゴーグルで確認するデモを行っていた。さらに招待客ゾーンでは、高速で低遅延の通信が可能になる5Gのユースケースとして、5Gネットワークを介してOZOのデータを伝送してVRゴーグルで視聴することで、リアルタイムにその場所にいるような新しい体験を提案していた。例として、音楽プロデューサーが各地のスタジオに行かずに、VRでリアルタイムの音や映像を見聞きしながら仕事ができるといった世界観を示した。
▼縦横ぐるりの全周を一度に撮影できるノキアの360度カメラ「OZO」。VRゴーグルと組み合わせたデモを行った
最後に日本メーカーの話題を1つ。VRと並ぶ新しい体験が可能なAR(拡張現実)などの用途で利用できるスマートグラスで、エプソンが開発を発表した新型のMOVERIO「BT-300」を出展していた。従来型の「BT-200」より軽く、有機ELの採用により表示が明るく鮮明になったことが特徴。実際の周囲の光景を見通しながら、くっきりとした画面が目の前に広がる様子は新しい感覚とも言えそう。ビジネスのツールとして十分にARが活用できることを世界に示していた。
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登録はこちら日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。