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完全栄養食をおいしく食べるために必要なこと -「ソイレント・グリーン」が予測する食の未来は近づいている

想像する映画、創造する技術 #7

2016.03.14

Updated by Masato Yamazaki on 3月 14, 2016, 07:30 am JST

昆虫食などは気になる話題だし、昨今の火星ブームをみても、なんとなく不安を感じている人が多いのは間違いないだろう。

2013年にオランダに本拠を置く非営利団体「Mars One」が発表した、片道切符の火星移住プロジェクトも、20000人もの応募があり、技術的に難しいと言われながらも、昨年に100名を選抜、2025年までの実施の予定を変えていない。

では、人口爆発、食料問題、地球温暖化が本当に起こった場合、どんな未来がおとずれるのだろうか。1973年に公開されたSF映画の名作『ソイレント・グリーン』は、そんな未来を予測しているのかもしれない。

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(C) 1973 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

本作では、環境変化に対応しきれていない2022年の人類が描かれている。爆発的な人口増加により、衣食住、そして職は特別のものとなり、ごく一部 の特権階級と、大部分の貧民という超格差社会が生まれた。肉や野菜は超稀少で、入手困難、路上に溢れたほとんどの人々は、ソイレント社が作る合成食品の配 給により、何とか生き延びていた。

そんな映画の世界が、SFでも遠い未来でもないかもしれないと思わせるいくつかの出来事がある。地球が1年間で生産・処理できるものやサービスを使い切ってしまう日を表す「アース・オーバーシュート・デー(別名:地球生態系への債務日)」は年々早まっているという。

2015年だと、8月13日に、その年1年で使うべき資源を使い果たしてしまったと述べている。このペースでいくと2030年には、地球が2個ない と人類の消費をまかなえないと予測されている。私たちは現在でも、地球から年に30%以上の借金をしながら生活をしていることになるのだ。再生産可能な社 会は崩れつつあるのかもしれない。

所得差の拡大も、2014年に、トマ・ピケティが『21世紀の資本』を発表以来、話題にあがることが多くなった。世界の富裕層のトップ62人の資産は、貧しい人々36億人の資産と同じアメリカの収入の伸びの、およそ半分は1%の富裕層に配分されている。これらの事象は、ロバート・ライシュの『格差と民主主義』に詳しい。

世界の富はスーパーリッチに急激に集まっており、経済成長の大半はそこに集中している。中間層は低成長もしくは横ばいから減少、貧困層は拡大しているという。まさに、『ソイレント・グリーン』で描かれた社会現象は、目の前に迫ってきているようにみえる。

そして、映画の原作から名前を取った、完全栄養食「ソイレント」が 2014年4月にリリースされた。2013年から開発が開始されたソイレントは、クラウドファウンディングにより、2週間で必要な資金調達を終えたそう だ。開発したのは食品会社ではなく、IT系のスタートアップで、経済合理性を考えると食事は不経済で、生きるのに必要なのは、「食事」ではなく「栄養素」 であるというのが発想の原点だとのこと。

栄養をとる。それなら日本が誇るバランス栄養食「カロリーメイト」と比べたらどうだろう。生存に不可欠な栄養素がバランスよく入っているという点で は、コンセプトは近しい気がする。もっとも、カロリーメイトは完全栄養食ではなく、栄養調整食品なので、目指すところは同じとはいえないけれど、どうだろ うか。

そう思い公開されている成分表(ソイレントの栄養成分表カロリーメイトの原材料、栄養成分表) をながめてみたが、成分バランスがまったく異なっていた。1日に必要なエネルギー量にあわせて計算してみたが、似て非なる感じである。ソイレントは必要な 要素を研ぎ澄ました感じで、カロリーメイトは厳選しながらも、食べる楽しみを忘れない感じがある。ソイレントの開発者がカロリーメイトを食べたら、まだま だ効率化の余地があるとか言いそうな気がする。

厚生労働省が出している日本人の1日に必要な栄養素のものさし「栄養素等表示基準値」とも比べてみたが、それとも似ていない。日本人とアメリカ人では体格が違うので、基準も違うだろうし、取り過ぎても問題ない栄養素もあるだろうから、適量を摂取すれば効果は等しいのかもしれない。

ネット上に転がっている30日程度の体験記を読むと、健康上の問題はないようだが、それだけで生きていけるのかについては、見解が別れる。人類の未体験ゾーンであるだけに、評価はむずかしいところだ。ソイレントは、完全栄養食か栄養調整食品か。あまり食指は動かないが、動向は見守りたい。

爆発的に流行っていないのは、こういった不明瞭な部分もあるだろうが、一番は「おいしそうではない」という理由なのではないだろうか。食べること は、生命の維持と同時に楽しみでもあるため、見た目の問題は重要である。おいしくなさそう、というのは、現時点では致命的だろう。

しかし、そんな問題も、すぐに解決してしまうかもしれない。NASAが3Dフードプリンターの開発に資金を投入するという。タンパク質や砂糖などの原料を使い、食べものをプリントアウトするという試みである。本物と栄養価も味も形までもそっくりな食品が手軽に手に入るようになれば、考え方は変わるのだろうか。すでに人工甘味料等を受け入れているのだから、ハードルは高くないのかもしれない。

身近に起こっている事象だけをみても、人類が危機管理を積極的に考えなければいけない局面であることは間違いないだろう。過剰消費と貧困の関係は、 もはや先進国と後進国という図式で語られる問題ではない。資本主義国を中心に、国内問題として表面化している課題であろう。 また、東京オリンピックに向けては、フードテロの危険性も取り沙汰されており、食の問題は、今後、ますます大きくなっていくに違いない。

この先、自然食品の入手や食の安全管理が難しい世の中になることは、あまり疑いようがない。逃げ道や打開策を開発することは、もちろん重要なことで はある。しかし、直近では、どんな開発よりも、過剰消費や食品廃棄をなくすことのほうが、インパクトが大きいのではないだろうか。

食べものとは、成分のことなのか、食物のことなのか。そんな論争が起こらない世の中であって欲しいものだ。そのために、まず自分の生活を見直したい と思っている。その行為は、自己満足なのかもしれないが、自分のためでもあり、心の安心のためでもある。と思うのだが、大げさであろうか。まだ何かをあき らめるより、積極的に動くことで、できることがあるはずだと信じたい。

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山崎 雅人(やまざき・まさと)

通信会社社員。まじめに通信の未来を考えるかたわらで、IT初心者、小規模事業者のみなさまに気軽にITを活用して頂くための活動を推進しています。はじめてWEB経理通信Cloud Blogなども展開中。
※本文は個人としての発言であり、所属する会社等とは一切の関係を持ちません。