脳の発達に最も重要な7歳までの時期に「紛争に晒され続ける子ども」が世界で8,670万人

2016.03.28

Updated by Hitoshi Sato on 3月 28, 2016, 08:48 am JST

▼破壊された自宅の手すりに寄りかかる女の子。 (パレスチナ)
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ユニセフ(国連児童基金)は2016年3月24日、全世界で7歳未満の子どもたちが生まれてからずっと紛争状態の中で暮らしており、 脳の発達に関して高いリスクに曝されていると発表した。その数は8,670万人以上もいるとのこと。

生まれてからの7年間は、子どもの脳は毎秒1,000個の脳細胞を活性化させている。「ニューロン(神経細胞)」と呼ばれるこの細胞のひとつひとつが、他の1万個のニューロンと毎秒数千回も結びつく力がある。この脳内で起きている結合が、健康、精神的な幸福、学習能力を決定付け、将来を作り上げていく。紛争下で暮らす子どもたちは多くの場合、極度の心的外傷を受けており、誰でも想像できるように有害なストレスを抱えながら暮らすリスクに曝されている。その状況は脳細胞の結合を阻害し、子どもたちの認知的、社会的、身体的発達に、著しい長期的影響をもたらす。 またユニセフのデータによると、世界中で6歳以下の子どもたちの11人に1人が、 脳の発達にとって最も重要な時期に、紛争下で育っている。

子どもは2億5,300万個の機能性ニューロンを持って生まるが、結合可能なニューロンの数が、成人の脳として十分な約10億個に達するかどうかは、主に幼少期の発達にかかっている。その時期は母乳育児と幼児期の栄養摂取、保護者による早期の刺激、早期の学習機会、安全で健康的な環境で育ち遊ぶ機会が求められる。そのような時期に紛争の恐怖と直面しなくてはならないのであれば、脳にいい影響など与えられるはずもない。

人間の知能は人工知能のようなシステマティックな機械学習ではない。生まれてから成長していく過程において脳も発達していく。そして当たり前のことだが健全な育成には、環境が重要だ。先日マイクロソフトの人工知能が意図せずにホロコーストを礼賛するようなことをつぶやいてしまい、慌ててマイクロソフトが人工知能を停止させたが、人間の脳は一時停止することはできない。いったん起ってしまった変化は、取り返しがつかないのだ。

ユニセフでは、人道的な緊急事態と長引く危機への対応の一環として教材や遊び道具を含んだ緊急キットを提供しながら、子どもにやさしい環境下で子どもたちを守るために活動しているそうだ。緊急キットは2015年だけで、緊急事態に置かれた80万人以上の子どもたちを支援したそうだが、本当に必要なのは緊急キットではなく、平和に安心して暮らせる社会の構築なのだ。それは世界中の誰もがわかっているが実現は極めて難しい。紛争以外にも子供の成長過程において脳に悪い影響を与えるような環境はいくつもあるだろうが、現在の日本は少なくとも紛争で明日には殺されるかもしれないという恐怖には直面していない。それだけでも幸せであることを実感したい。

以下はユニセフの子どもの早期ケアと教育部門部長ピア・ブリット氏のコメントだ。

「危機下の子どもたちは、 短期的な身体的脅威に加えて、 根深い心の傷を負うリスクにも曝されています。紛争は子どもたちから安全、家族、友人、遊び、そして日常を奪います。しかし、これらはすべて、 子どもたちが十分に成長し、効果的に学習し、経済・社会に貢献することを可能にし、そして大人になった時に強く安全なコミュニティを築く上で、最大限の可能性を与える幼少期の要素なのです。だからこそ、ユニセフは子どもたちと保護者に対して、教材、心理社会的支援、紛争の最中にあっても子ども時代を取り戻すことができる安全で子どもにやさしい空間などの、不可欠な物資やサービスを提供するために、より多くの投資をしなければなりません」

▼紛争で自宅から避難し、 建設途中の建物に身を寄せている子どもたち。 (シリア)
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【参照情報】
87 million children under 7 have known nothing but conflict - UNICEF

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佐藤 仁(さとう・ひとし)

2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。