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啓蟄ーー虫が光に吸い寄せられるワケ [二十四節気のあかり]

啓蟄ーー虫が光に吸い寄せられるワケ [二十四節気のあかり]

2016.03.05

Updated by Akiko Imai on March 5, 2016, 10:00 am UTC

日に日に春らしくなり、そろそろ虫の姿を目にすることも増えてくる季節です。今回は、「飛んで火に入る夏の虫」の謎に迫ります。

2016年の3月5日は二十四節気の「啓蟄」にあたります。土の中で冬籠りしていた虫やカエル、ヘビなどが、春の光を感じて土から這い出てくる季節です。まだ寒い日は多いとはいえ、これからは確実に春を感じることが増えていきます。

ガは日本に約6000種類以上います。この写真はサツマニシキと呼ばれるガの一種。このようにチョウと見間違えるような美しい色や模様をしたガもいます。 撮影:福田輝彦

ガは日本に約6000種類以上います。この写真はサツマニシキと呼ばれるガの一種。このようにチョウと見間違えるような美しい色や模様をしたガもいます。 撮影:福田輝彦

「啓蟄」にちなんで、今回は虫と光についての話題をお届けしましょう。虫といえば、光に群がる習性がありますね。この習性は、「走光性」と言われています。虫は、何のために光に群がるのでしょうか。体内に葉緑体があるミドリムシなら、光合成のために光のほうへ集まるのはわかります。光に群がる虫の飛び方を見ていると、ぐるぐると狂ったように飛んでいたり、仰向けにひっくり返ってじたばたしていたりしています。ときには、火の中に飛び込んで焼け死んでしまうこともあるくらいです。どうみても、虫にとって光に群がることにメリットがあるようには思えません。

しかし、最近出たひとつの説があります。幼虫から成虫になった虫たちの中には、餌となる植物や配偶者をさがすために、一旦は林の中から上昇して梢の上を飛び回る習性があります。その時「走光性」によって月や星の光の方に向かって上昇することができるのではないかという説です。では、電灯に集まる虫たちは何をしているのでしょうか。虫の習性について、長年ガの研究をしてきた福田輝彦さんにお伺いしました。

光に群がるのは夜行性の虫

虫の中には光に群がるものと群がらないものがあり、光に群がる虫の多くは、夜行性です。代表的なものはガやコガネムシ、カブトムシ、クワガタムシ、カメムシ、カミキリムシなど。また、意外に思われるかもしれませんが、水の中で暮らすゲンゴロウも光に群がります。日中は水中ですごし、夜に水から出て飛び回って別の水辺へ移動するのです。羽アリやシロアリも光に群がる虫です。シロアリは夜間の活動中に家の灯りを見つけると、それをめがけて飛んできて、家の柱や床を食べることがあるのです。昼行性のトンボやセミ、カマキリなども家のあかりに誘われて入ってくることがあります。これらの虫の場合は、たまたま近くに強い光があると昼間と勘違いしてやってくるようです。

光で進路を決める性質が仇になる

 昆虫は夜行性といえども、光の全くない場所ではまっすぐに飛べません。では、どうやって進む方向を判断するのでしょうか。それは、夜空の月や星の光です。月や星は、遠くにあるため、虫に当たる光線はほぼ平行光線です。虫は両目に同じ角度の光線を受けながら進むべき方向を決めることができます。

ネコの目のように光っているハネナガブドウスズメガの目。夜のわずかな光でもよく見えるのかもしれない。 撮影:福田輝彦

ネコの目のように光っているハネナガブドウスズメガの目。夜のわずかな光でもよく見えるのかもしれない。 撮影:福田輝彦

しかし、電燈などの人工のあかりの前ではこの性質が仇となります。人工のあかりは月や星に比べると近い場所にあるため、光線の向きが放射状になるからです。放射状の光線では、目と光線との角度が、左右の目で違ってきます。もし、右目よりも左目のほうが光線との角度が小さければ、虫は無意識のうちに、平行光線の場合と同じように左目の角度が右目と同じになるように体の向きを合わせようとします。すると、まっすぐ飛んでいるつもりでも、右折してしまうのです。そして、いくら虫が右折しても、左右の目の角度の差は縮まりません。光源に近づくにつれて、光はすぼまっていくため、虫は光に対して右折を続けると、らせん状の軌跡を描いて光源に近づくことになります。これが、虫が光に吸い寄せられてしまう理由だと考えられています。

撮影:福田輝彦

撮影:福田輝彦

そうなると、ひとつ疑問が浮かび上がります。それは、「両眼に当たる角度を同じにするだけなら光線との角度の大きい右目を、角度の小さい左目に合わせることもできるわけで、今度は左折を繰り返して光から遠ざかるように飛ぶことになるのではないか」ということです。しかし、虫は光線と目の角度をなるべく直角に近い大きさにしようとする性質があるようです。光線と目との角度が直角に近いほうが光を明るく感じることができるからです。

なぜ、光との角度が大きいほうが光を明るく感じられるのでしょうか。それは、懐中電灯を床に斜めの方向から当てた場合と、同じ距離で正面から当てた場合とを比べてみるとよくわかります。懐中電灯で照らされた部分の明るさは正面から当てたほうが明るくなります。つまり、光線との角度が大きくて直角に近いほど、光を明るく感じることができるというわけです。

脳内の神経は交差しているため、虫の右目だけを明るく照らせば、脳の右側の光を感じる領域が活性化し、左側の運動神経が刺激されて、左の羽根が活発に動くはず。だから、右折するのではないかと考えられているのです。しかし、この仮説はまだ実証されていません。虫の性質は、いまだに解明されていないことが多いのです。

虫が群がるのは紫外線

 さて、数あるあかりのなかでも、虫がよく群がるものと、そうでないものがあります。虫の集まりやすさの順番は、水銀灯>ブラックライト(誘蛾灯)>蛍光灯>白熱灯>LEDです。集まりやすさの決め手は光の強さと紫外線の多さ。虫は紫外線を色として感知できるため、紫外線が多いあかりほど多くの虫が群がります。紫外線を多く放出する水銀灯やブラックライトは、福田さんが研究のためガを採集するときにも使うのだとか。

撮影:福田輝彦

撮影:福田輝彦

水銀灯に寄せられたガの数は多いときには1000匹以上になるといいます。なお、LEDは蛍光灯や白熱灯に比べると虫が寄りにくいといわれていますが、福田さんが夜間にLEDのヘッドライトを使うと虫は寄ってくるそうです。LEDにも種類があって、放出される紫外線の量はさまざまなので、いちがいに「LEDだと虫が寄りつかない」とは断定できないのだとか。それでも、紫外線と虫との関係を頭に入れておけば、虫の寄りにくいあかり選びにも役立ちそうですね。

取材協力先:
福田輝彦
1942年満州生まれ。鹿児島昆虫同好会員、日本蛾類学会員、環境省稀少野生動植物種保存推進委員。東京学芸大学中等理科生物学科卒。鹿児島県内で約40年間小学校教師を勤める。現在の研究分野は蛾類の分類と生態。夜な夜な深山に入り、蛾類の灯火採集を年間30~40日行っている。共著書に『昆虫の図鑑 採集と標本の作り方』(南方新社)がある。

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今井 明子(いまい・あきこ)

サイエンスライター。気象予報士。2001年京都大学農学部卒。酒メーカー商品企画部、印刷会社営業職、編集プロダクションを経て、2012年からフリーに。子ども向けや一般向けに分かりやすく科学を解説する書籍や記事を多数執筆。共著書に「気象の図鑑」(技術評論社)がある。ほか、医療・健康、教育、旅行分野も得意。気象予報士として、お天気教室や防災講座の講師も務める。