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穀雨ーー驚くべき雑草の繫殖戦略[二十四節気のあかり]

穀雨ーー驚くべき雑草の繫殖戦略[二十四節気のあかり]

2016.04.20

Updated by Akiko Imai on April 20, 2016, 23:05 pm UTC

花が次々に咲き誇る、春本番。そろそろ新緑のまぶしい季節も始まろうとしています。緑といえば、雑草の存在も忘れてはいけません。雑草はなぜあんなにたくましいのでしょうか。

2016年の4月20日は二十四節気の「穀雨」にあたります。春雨が田畑が潤して、そろそろ種まきを始める時季となります。作物を育てていると、とにかく邪魔なのが雑草です。種をまいてもいないのに勝手に生えてきて、いくら抜いてもなくならない雑草。そのたくましいイメージから、「逆境に耐え、何があってもへこたれないど根性」という意味でよく使われる「雑草魂」という言葉もあります。しかし、それは雑草に対する誤ったイメージなんです。

Image by Attila HajduCC BY

私は大学時代、雑草学研究室に所属していました。雑草の研究のため、雑草の種をまいて毎日水やりをし、ときには肥料を与えながら育てていました。そこでわかったのは、雑草だって虫に食われるし、水やりをしなければ枯れるということです。個体そのものの強さでいえば、作物とそう大きな違いはありません。

では、なぜ雑草がたくましいと思われるのか。それは、雑草が、逆境を逆手にとって数を増やす戦略にたけているからなのです。

いつの間にか紛れ込み、気ままに発芽する雑草

雑草は、一見過酷な場所で暮らしています。人が踏みつける場所、アスファルトの割れ目、そして人によって定期的に土が耕され、せっかく育っても刈られてしまう畑などです。定期的に土が掘り返されるなんて、そこにもともと生えている植物にとってはたまったものではありません。しかし、雑草はこの環境を上手に利用しています。

実は、畑の土の中には、無数の雑草の種が紛れ込んでいます。雑草の穂は、ちょっとでも刺激があると、すぐに種がばらばらと地面に落ちてしまいます。稲は稲刈りしても、稲穂から米粒が地面に飛び散ることがほとんどないのとは対照的です。種がひとたび土の中に紛れてしまえば、人の手で取り除くことは困難です。しかも、雑草の種は米粒と比べると非常に小さいうえ、大量だからです。

というわけで、畑の土にはいつの間にか雑草の種がたくさん紛れ込んでいるのですが、これらの種は一斉に発芽するわけではありません。発芽するのは土の中の種のほんの一握り。多くの種は休眠しているのです。

なぜ、雑草の種は休眠をするのでしょうか。それは、作物のように一斉に発芽すると、一斉に刈り取られたときに全滅してしまうからです。一部しか発芽しないのであれば、発芽した個体が刈り取られても、まだ土の中で休眠している種がいます。休眠している種子が、思い思いのタイミングで発芽するから、雑草は抜いても抜いても生えてくるのです。

雑草が発芽する条件に「光」あり

さて、小学校の授業では、発芽の条件は「酸素」「水」「温度」だと習いませんでしたか? 植物の発芽の条件には必ずしも光は必要ありません。光のない環境で発芽した、ひょろひょろの苗を目にしたこともあるはずです。しかし、雑草の多くは発芽するのに「光」を必要とします。

Image by TAKUMA KIMURACC BY

畑では、作物の種まきに先立って、土地を耕します。これは、深いところの土が表層近くまで掘り返されるということです。すると、深いところに眠っていた雑草の種が、表層近くに来たときに太陽の光を強く感じます。これが、発芽のきっかけになるのです。

また、畑を耕すと種皮が傷つけられます。これも、休眠を打破する条件のひとつだと考えられています。すなわち、畑が耕されるという、一見過酷な環境に合わせて雑草は発芽できるようになっているのです。

雑草の「分身の術」作戦

さて、「抜いても抜いても生えてくる」雑草のひみつには、種の休眠のほかにも理由があります。それは、土の中に埋まっている根の問題です。たとえば、タンポポのような冬越しする多年草は、土の中の根がごぼうのように太くてしっかりとしています。

このような根を持つ雑草を引き抜くと、必ず土の中にちぎれた根が残ってしまいます。この根の断片からあらたに芽が出て、雑草は数を増やしていくのです。

ディズニーの「魔法使いの弟子」という映画には、水汲みをするほうきを斧で砕いたところ、その破片が新しいほうきになってどんどん数が増えていくという恐ろしいシーンがあります。多年草の雑草は、まさにこの戦略で数を増やします。そして、このような根の断片が紛れた土を耕すと、根はさらに細かくちぎれるため、ますます雑草の数を増やすことになるのです。

たんぽぽ

畑を耕すというのは、その土地に住む植物にとって大きな環境の変化です。農具や耕運機などで植物の体に傷がつくこともあります。しかし、それらを逆手にとって、自らの数を増やすチャンスにしてしまおうというのが雑草なのです。ですから、雑草は「強い」のではなく、むしろ「賢い」植物であるといえます。

もし、皆さんが職場で、「雑草のように歯を食いしばって逆境に耐えろ」と檄を飛ばされたら、「雑草のことを何も知らないんだな」と鼻で笑って真に受けないようにすることが肝要です。真に雑草のような人材とは、作物のように上からの無理な注文にも従順に従うのではなく、のらりくらりとマイペースにやり過ごしながら消耗しない人のことをいうのです。そして、いいように使われて消耗していく「作物」をしり目に、ピンチをチャンスだと捉えて賢く世渡りしていくことこそが、「雑草的生き方」なのです。

参考:『雑草学総論』伊藤操子著

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今井 明子(いまい・あきこ)

サイエンスライター。気象予報士。2001年京都大学農学部卒。酒メーカー商品企画部、印刷会社営業職、編集プロダクションを経て、2012年からフリーに。子ども向けや一般向けに分かりやすく科学を解説する書籍や記事を多数執筆。共著書に「気象の図鑑」(技術評論社)がある。ほか、医療・健康、教育、旅行分野も得意。気象予報士として、お天気教室や防災講座の講師も務める。