NTTPCコミュニケーションズ 代表取締役社長 前沢孝夫氏

NTTPCコミュニケーションズ 代表取締役社長 前沢孝夫氏(後編):量が質に転化するIoTのパラダイムシフトで、企業の力が試される

日本のIoTを変える99人【File.013】

2016.06.03

Updated by 特集:日本のIoTを変える99人 on 6月 3, 2016, 07:00 am JST

今後の「IoT」では、何ができるかという目的を多く発想できることが重要だと語るNTTPCコミュニケーションズ 代表取締役社長の前沢孝夫氏(前編参照)。ドリルと穴のアナロジーから、私たちは「ドリル」という工具が欲しいのではなく、「穴」を求めているのだと説明する。一方で「ドリル」に相当するIoTデバイスは、汎用ボードやセンサー、フリーで入手可能なソースコードを使うと、手軽に作ることが可能だという。IoTデバイスが誰でも簡単に作れるようになることで、ドリルの「穴」であるソリューションはどのように変化していくのだろうか。

NTTPCコミュニケーションズ 代表取締役社長 前沢孝夫氏

前沢孝夫(まえざわ・たかお)氏
NTTPCコミュニケーションズ 代表取締役社長。1978年NTT入社、財務系キャリアを目指すが両親の介護を契機に国内勤務であれば来るもの拒まずに転換。ラグビートップリーグShiningArcs初代ラグビー部長時代にスポーツに開眼。IoTを使ったトレーニングにより1年間でタイムを4分縮め2015年葛西臨海公園ナイトマラソン55歳以上クラス24位、IoTの力を実感。

NTTPCコミュニケーションズで、様々なモノをネットワークに接続するソリューションの提供に取り組んでいると、「IoT」という言葉はとてもミスリードしがちだと感じています。モノのインターネットというと、インターネットに接続するデバイスに注目してしまいがちです。これは「前編」で説明したように、日曜大工でいうところの「ドリル」を提供していることになります。しかし、私たちが欲しいのは高性能なドリルではなくて、ドリルによって空ける「穴」なのです。

「穴」は、1つのドリルからいくつもの種類のものを空けることができるはずです。どれだけの穴を見つけられるか、それがこれからの日本に求められることだと思います。例えば、ビーコンを使ったソリューションを考えてみましょう。NTTPCコミュニケーションズでは、ビーコンを使って位置情報を管理するソリューションを提供しています。お年寄りが履く靴の中にビーコンを埋め込み、出かけたときには家族に通知するといったシステムです。ビーコンという「ドリル」で、徘徊防止という「穴」を空けたわけです。

ビーコンを使って位置情報を管理するソリューション

しかし、ビーコンというドリルで空けられる穴は、徘徊防止に限るものではありません。私たちは、もう1つのアイデアとして、ゴルフカートの動態管理ソリューションを考えました。ゴルフ場では、パーティーのラウンドが早いか遅いかの管理が必要です。これをシステム化するには、GPSユニットをゴルフカートに組み込み、携帯電話のSIMを挿してモバイルデータ通信するといった方法が考えられます。しかし、これはコストがかさみます。そこで、ビーコンを使う方法を考えました。Bluetooth Low Energy(BLE)によって、キャディーさんのスマートフォンとすれ違うときに通信し、位置情報を捕捉するというものです。

ビーコンという1つのドリルであっても、空けられる穴は違ってくることがわかるでしょう。問題は、いくつの穴を考えられるかですし、それを具体的に実証していくことです。市場から様々な情報を仕入れて、リーンスタートアップでフィールドトライアルを行って、PoC(Proof of Concept、概念実証)からミニマムな購入可能なプロダクトへと移すことができれば、ドリルから様々な穴を空けることができるでしょう。

安く作れることは、量を増やせることにつながる

一方で、「ドリル」自体の作り方も変化しています。ソフトウエアによって機能を定義できる「SDx」によって、汎用ボードを使えばセンサーと通信機能を備えたデバイスなどは、専用機器よりも格段に安く素早く作ることができます。安くできるということは、導入しやすいだけでなく、もう1つの効果も生みます。

それが、低価格であるがゆえに大量な利用が可能になるということです。1つの例を上げます。放射線センサーネットワークの「Safecast」についてです。私の父の実家は福島にあり、東日本大震災の直後は放射線の情報が得られず、とても大変な状況でした。ところが、ガイガーカウンターをネットワーク化したSafecastが出来たことで、情報のあり方が変わりました。Safecastで利用しているガイガーカウンター自体は、精度がものすごく高いものではありません。しかし、多くのデータが収集されることで、特定場所の測定値が一定の幅に収束することや時系列で放射線量が減っていることなどがわかります。

このようにSDxによって安価なデバイスが大量に作れるようになると、高性能で高価なデバイスを単独で導入することとは違うアプローチが生まれます。精度は低くても大量にデバイスを設置することで、ビッグデータ分析が可能になり、量が「質」に転化するというアプローチが可能になります。

いわゆる「IoT」は、量が質に転化するアプローチが適したものではないかと考えています。SDxで誰もが、「自分にとって不自由なこと」を解決するためのデバイスを手軽に作れるようになり、ICTの裾野が個人レベルにも広がります。これまでの長い年月、個人で不自由を解決するのは「日曜大工」のようなものづくりのレベルにとどまってきましたが、SDx時代にはICTデバイスを自在に「日曜大工」で作れるわけです。こうした市民開発から生まれるドリルの「穴」は、私たちのような企業が考えるドリルの穴を越える可能性もあるのではないかと感じています。企業はうかうかしていられないのです。

ハードウエアとソリューションの疎結合で世界は変わる

SDxの時代には、1つのドリルから多様な穴が空けられることが求められます。これまでであれば、専用の1つのハードウエアは、1つの用途と密接にリンクしていました。その目的を達成するための専用ハードウエアは高価でも良かったかもしれません。私は、こうした状況をハードウエアとソリューションが「密結合」していたと考えます。しかし、今後は1つのハードウエアはSDxによって複数の用途や目的に利用できるようになります。アイデアがあれば、ハードウエアとソリューションの間は、API(Application Programming Interface)で「疎結合」できれば構わないのです。すでに、クラウド同士であってもAPIがあればすぐに連携することができますよね。これが様々なデバイスまで広がるということです。

NTTPCコミュニケーションズ 代表取締役社長 前沢孝夫氏

アイデアがあって、デバイスの間でAPIが用意してあれば、PoCレベルの装置はすぐに作れてしまいます。すでに、アナリティクスも含めてAPIで連携して、様々な使い方ができるサービスや製品が登場しています。国境を超えることも容易です。公開されたソースコードを管理するサービスのGitHubもそのインフラの1つでしょう。様々な機能のソースコードが登録されていて、恐ろしいと感じるほどです。

私も実際に作ってみているのですが、例えば温度や湿度のセンサーを汎用ボードに搭載して、今のこの会議室の温度や湿度をツイッターにつぶやくといったことが、簡単にできるわけです。APIで疎結合された世界ならば、誰もが手軽に欲しい機能を手に入れることができます。皆さんも作ってみると面白いと感じるでしょうし、世の中の変化を実感すると思います。

そうした中で、いわゆるIoTを実現するための基盤技術としてはネットワークが不可欠です。有線にしても無線にしても、ネットワークがないとIoTは実現できませんし、これは通信事業者が元々得意としている分野です。NTTPCコミュニケーションズでは、技術者魂とでも言うのでしょうか、職人のような情熱をもった人材が多くいます。これが私たちの強みではないかと考えています。上から命令されて実行するような義務感ではなく、これは面白そうではないか!と考えるような気持ちですね。お客様が「欲しい」と思うことを、面白がって楽しみながら解決していくような人材が多いことは、今後のドリルの「穴」を増やしていくときに大きく役立つと思います。

さらに、アイデアをPoCとして実現していくレベルが市民開発で可能になったとしても、その後の商用化には市民開発だけでは手が届かないこともあります。例えば、現在の汎用ボードでは、高い周波数の対応ができません。必要に応じて、専用のハードウエアを作るといった選択肢も考えなければならないのです。

とは言え、ベースとしてのものづくりのハードルは下がっています。ツールも多くあります。私たちの企業としても、戦略的パートナーはこれまでは「企業」であることが前提でしたが、今後のSDx時代には市民開発のプロジェクトなどもパートナーとして手を組んでいく必要があるかもしれません。そうした時代に、課題を解決するための「穴」を見つける力、誘発する偶然をモノにしていく力は、とても大切だと思います。NTTPCコミュニケーションズの人材が持つ情熱はその1つの力ですし、今後の日本がSDx時代に生き残っていくためにはそうした力を見つけ、アイデアを実現することが難しくないということの教育が重要だと思います。

構成:岩元直久

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