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新しい世代がデータプライバシーを切り拓く(1)なぜプライバシーの議論は分かりにくいのか

テーマ14:プライバシーとパーソナルデータのこれから

2016.06.07

Updated by 特集:プライバシーとパーソナルデータ編集部 on 6月 7, 2016, 07:00 am JST

個人情報保護法改正に関する取り組みによって、パーソナルデータやプライバシーへの関心は従来以上に高まった。一方で、高度な検討の結果として、法解釈をさらに複雑化しつつある。改正法の精神や具体的な定義は、いまだ十分に理解されているとは言えず、また理解のための整備もまだ途上にある。こうしたギャップを、現場の第一線で活躍する若手エキスパートは、どう受け止めているのか。新しいテクノロジーを踏まえた「次の改正」も視野に入れつつ、現状と将来について議論いただいた。

林達也/真武信和/金子剛哲/クロサカタツヤ

「若い世代」が見当たらない?

──今回で14回目となる本企画ですが、ひとまずここまでの区切りをつけることとなりました。そこで今回は、比較的若い世代の方々に「プライバシーとパーソナルデータのこれから」と題して、忌憚ないディスカッションをお願いしたいと思います。

クロサカ:若い世代と言われてのこのこ出てきたのですが(笑)、それを自称していいのか、かなり躊躇します。私も気づいたら40歳を過ぎ、個人情報に関するお仕事を始めてから10年近く経過しました。そして振り返ってみると、若い人が少ないことに気づきました。

クロサカタツヤ

株式会社 企(くわだて)代表取締役 総務省情報通信政策研究所 コンサルティングフェロー 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任准教授
クロサカタツヤ

これは結構大きな問題で、世代を超えた議論ができないと、僕等が「永遠の若手」になってしまい、本当の若手の意見が無視されてしまう。そんなコミュニティで議論していていいのかと、割と真剣に思うことがありました。

真武:ID技術に関しては、まだ20代後半くらいがちょこちょこ居ますけど。

クロサカ:そういう意味で、IDマネジメントに軸足を置いている皆さんの方が、選手層の厚みや足腰の強さを感じるんです。実務というか、実際に手を動かして作るものがある分、様々なモチベーションで新陳代謝が進むというか。

狭いコミュニティによるハイコンテクスト化の弊害

林:ただ構造的にはIDマネジメント分野も似たり寄ったりだとは、正直思います。少なくともこれまではニッチ産業という面が拭えなかった。あとは、僕たちが退かないのがいけないとも言えるのですが。分野としてはニーズ拡大中で、今後発展していくとは思っています。

クロサカ:狭いコミュニティの議論は、一見すると効率的なのですが、ハイコンテクスト化がどうしても発生して、コミュニティの外側にいる人たちが理解しにくくなるというきらいがあります。

企業の方々とデータ利活用について話す機会があると、特にそれを感じますね。ある程度は仕方ないとはいえ、理解がなかなか揃わないのが、企業間連携等が進みにくい背景になっていると思います。

企業におけるプライバシー実務の現実

──プライバシーに関する議論と、企業の関係という意味では、金子さんも企業実務のご経験がありますよね。

金子:僕はJIPDECに移る前は、CCCの情報管理というところで責任者をしていました。規約や新たなサービスで、ここ数年ずっと「注目」されていたという経験を踏まえると、非常にいい経験をさせていただいたと思います(笑)。

金子剛哲

一般財団法人日本情報経済社会推進協会 電子情報利活用研究部 兼 認定個人情報保護団体 業務推進室長
金子剛哲

非常に大きな会員組織で新しい取り組みを先行して行うと、注目に「責任」という重荷も乗っかってきます。社内より社外の方のほうがそのサービスを良く知っているような状況があったりもしたので、個人情報保護法の制定に携わっておられた先生や弁護士、関係省庁や同じような悩みを持つ事業者の担当の方ともたくさん意見交換をさせていただけました。

そうした中で記憶に残っているのは、とある先生が「今の社会や提供されているサービスは、(制定当時には)想像も出来なかったので、困るのも当然だろう」というお言葉ですね。

したがって、個人情報保護法(現行法)が柔軟に解釈出来るような作りになっているということも、当然としてあるでしょう。

「完璧はない」という宣言に救われる

クロサカ:確かに、解釈の幅が大きくて不安定であるほど、何を判断の拠りどころにするかが難しいですよね。

金子:その時の対処方針ですが、いろいろ考えて、やはり「いただくご意見一つ一つに丁寧に対応して行こう」と判断しました。ただ、いろいろな価値観がある中では、すべての顧客を納得させることはできないし、一部の顧客だけを向いて極端に偏った対応をすることもできません。すでに対処方針だけで、経営判断が必要な領域だと思いましたね。

クロサカ:ここにきて企業活動における行動規範(Code of Conduct)が注目されているのも、「社会的な合意のある規範を待つのではなく、自分たちで定義しないとだめだ」という機運が企業に生まれてきている表れかもしれないですね。

ただ一方で、それって相当高度なことだし、理屈だけじゃなくてガバナンスの実態が伴わないと意味がない。だからやはり社会的な規範には重要な意味がありますよね。

そういった意味では、パーソナルデータ検討会の議論を通じて、「まだ整理されていない、社会的な合意にたどり着けない問題が多く残されている」ということが広く一般に知らしめられたことは意義があったと思います。

金子:僕も技術検討WGが「完璧な匿名化技術はないです」と言い切ってくれたことは、大きな前進だと思いました。法律も匿名加工情報も、「とりあえず、完璧なやり方出してよ、従うから」というようなユーザーに対して、そんな素敵なブラックボックスなんて存在しない、ということが分かった。

やはりベースはあくまでベースであって、そこで何をするか、どう使いこなすかは、自分たちで考えないとダメですね。言われたことを言われた通りにする「作業」ではなく、自分たちで考えて作り上げていく「仕事」にしないと。

特定少数の人に支えられた業界団体による規律の現実

真武:業界くらいの単位で束ねる努力というのは、スマホやWebまわりの業界団体はがんばっていますね。ただちょっと課題があると思うのは、そういう業界団体で汗を流している面々というのが、どこもあまり変わらない。特定少数の人たちがいつもエンジンになっている、という印象です。

真武信和

YAuth.jp 合同会社 代表 / OpenIDファウンデーションジャパンエバンジェリスト
真武信和

金子:ああいう方々が活動をやめると、逆にあっという間に終息してしまいますよね。議論にもならない、というような。

林:そこはすごく不安で、携わっている人の数の問題。そもそも関わろうと思う人の数が圧倒的に少ない。影響範囲がこれだけ広いものに、こんな狭い人達でものを決めて大丈夫なのか。

炎上リスクの実態は何か?

クロサカ:そこでちょっと考えてみたいのが、「炎上リスク」と言われているものですが、実際、錚々たる企業の皆さんが、「いま一番怖いのは炎上リスク」って仰るんですよね。

ところがその炎上リスクは、実は正体不明です。「訴訟リスク」というなら分かるんですけど、そういうわけでもない。言うなれば「レピュテーション(評判)リスク」の一つの類型なんですけど、じゃあそれが企業活動の経営指標に直接影響を及ぼしているのかというと、誰もよく分からない。

実際、冷静に考えてみれば、動機や方法が全然異なるものであるはずが、「炎上リスク」とひとくくりにされ、企業の現場を委縮させる要因となっている。もっともこれは、プライバシー領域に限らない、いわば全般的な「炎上論」なのかもしれません。

レピュテーションとプライバシー

林:レピュテーションとプライバシーって、いまはかなり直結しているわけですよね。一方で、プライバシー以外の領域でも、似たような構造はあるはず。

林達也

株式会社レピダム 代表取締役 OpenIDファウンデーションジャパン理事 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科附属メディアデザイン研究所 所員
林達也

そう考えると今は、信頼できる人達が善し悪しを判断してくれるっていう大事なフェーズが抜けてしまっている気がするんですね。判断が出来る人(っていうのも丸投げ的ですけど)が判断してくれる、という機能があって、社会が回っていた気がするんですけど、少なくとも日本、そしてもしかすると世界中で、そういう機能が弱まっているのかもしれない。そうすると、何を判断基準にするか、いろいろな意見や情報を掻き集めて自分で考えるしかない。

金子:あと、ネット上の一部で取り上げられると、すぐ取引先から「ここ(この企業)と取引していて良いのか」という不安や問い合わせが来るので説明するんですけど、僕たちの説明を理解して社内で伝えられる人は限られるので、何度も説明する...そうすると、話題発生からどんどん時間が経過して尚更不安という悪い連鎖になってしまう。実際に出向いて「規約上はこう書いてあります。法律上は何も問題ありません。広報活動も頑張ります。」と説明すると、「分かった、信用して続けるよ」っていうところもあれば、「いやいや、弁護士見解を書面でくれ」みたいなところもある。

やはり全体的に、まず法律が理解されていなかった部分が実はベースにあるような気がしていて、本当にリスクマネジメントが難しい。

弁護士は有識者なのか戦友なのか

クロサカ:ただ、この領域に関しては、弁護士見解ってどれくらい意味があるのか、ということさえも問われてしまう。

林:弁護士見解ですら、僕達は「数多ある情報の一つ」として理解しなければいけない。それこそ企業の立ち位置や弁護士自身の立ち位置で、解釈も変わるはずなんですね。一方で扱っている領域自体は高度に専門的。実際、企業の現場でも「ウチの法務で確認したら大丈夫らしい」と言われても、「いや待て、それ本当に確認出来てるのか?」という話はある。

クロサカ:よく言えば「自ら解釈・判断せよ」だし、悪く言えば「自分で戦え」ということになる。だから弁護士見解も、ただ解釈を問うのではなく、むしろ「いざという時に一緒に戦ってくれるんだよね?」ということを握らなければならない。

(2)本物のプライバシーポリシーを作ろうに続く)

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情報通信技術の発展により、生活のあらゆる場面で我々の行動を記録した「パーソナルデータ」をさまざまな事業者が自動的に取得し、蓄積する時代となっています。利用者のプライバシーの確保と、パーソナルデータの特性を生かした「利用者にメリットがある」「公益に資する」有用なアプリケーション・サービスの提供を両立するためのヒントを探ります。(本特集はWirelessWire News編集部と一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)の共同企画です)

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