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ICT女子プロジェクト大炎上から分析する経営的問題

Learn management issues from "ICT Girls project"

2016.06.19

Updated by Mayumi Tanimoto on June 19, 2016, 09:19 am JST

ICTビジネス研究会(事務局:テレコムサービス協会)の「ICT女子プロジェクト」が大炎上いたしました。

日本ではIT分野で活躍する女性が少ないので、それを支援するために、13〜24歳の女性で「ICT48」なるグループを結成し、その辺のITに関わっている女性に身長や体重の記入、アップ・全身写真を添付して応募していただきたいという企画で、「やっちゃった感」にあふれるこの案件でありますが、炎上後半には、応募用紙がどっかの劇団がネットにアップしていた用紙のコピペだったという展開もあり、割烹着女史が、アメリカ政府のサイトをコピペして博士論文に使いましたという案件を思い出し、コピペ大国の我が国にふさわしい案件であるなあと生ぬるく眺めておりました。

さて、今回の件がIT業界の女性支援に全然関係ないとか、女性差別であるというのは他の記事で散々叩かれていると思いますので、今回は経営的視点から考えてみましょう。

テレコムサービス協会は業界団体ではありますが、日本では似たような企画が民間企業や公共団体で立ち上がり、炎上する、という例が後を絶ちません。

例えばHISの「東大美女とフライト」騒動ルミネのCM大炎上色っぽ過ぎる海女キャラ「碧志摩メグ」等です。

炎上する理由には、日本企業に顕著な経営的課題が隠れています。

はじめの課題は、多様性の不足が引き起こすリスク体質です。

そもそも企画担当者、提案する外部の広告代理店や総研、さらに、企画を承認する人々には男性が多いということがわかります。企画を通して若い女性とキャハハウフフしたいのよ、会社のお金で打ち上げもやれたらもっとグーだわ、というのが透けて見えるわけですが、これはつまり、現場にいるのが男ばかり、女はいても発言権も意思決定権もない、とういうことです。

つまり、日本の組織では、女性の影響力がまだまだ弱い、通信や行政、ファッションといった業界ですら男主導ということです。

意思決定者や企画者の中には、ゲイや外国人もないことがよく分かります。ゲイが意思決定者ならこんな企画は嫌がるでしょうし、外国人、特に訴訟社会から来た人がいたら、これはリスクが高すぎるから辞めるべきだ、というでしょう。

日本組織には、書類上の「多様性」ではなく、実際に意思決定を行える人の「多様性」が欠けており、それは、組織がリスクに直面することを招いてしまっている、ということです。

多様性は、発想の斬新さなどに結びつくこともありますが、リスク回避にも重要です。

例えば会社にイスラム教圏出身の人がいれば、北アフリカにビジネス展開する際の広報や人事のリスクを指摘してもらえますが、日本人だけだとなかなか気が付きません。

意思決定者に多様な視点があり、様々なリスクも考慮した決断が下せるのなら問題はありませんが、今回の件のように、メディアも巻き込んだ大炎上をしてしまうということは、それが欠けているということなのですから、リスク要因を洗い出すために、多様な人が意思決定に関わったほうが良いわけです。

二つ目の課題は、ガバナンスです。

例えばこれがイギリスだった場合、ジェンダーが関わるような広報企画は大変センシティブなトピックなので、業界団体であっても、承認フローには、企画担当部署だけではなく、法務、広報、リスク管理、経営企画といった多様な部署が関わって、企画に問題はないかどうかを揉んだ上で承認します。

ネットで炎上した場合は証拠が残りますし、キャッシュを消すことができない可能性もありますから慎重です。

さらに、業界団体だと、団体の会員企業が「我が社は性差別するような団体に協賛したくない」と脱退してしまう可能性もあります。

民間企業や行政の場合は、各種の人権団体や消費者から訴訟を起こされる可能性もありますし、中で働く従業員が会社相手に訴えを起こすこともあります。

つまり、あきらかにジェンダー差別を助長するような企画を通してしまうというのは、承認フローに抜けがある、ということで、担当者の倫理の問題だけではなく、組織のガバナンスの問題でもあり、実は深刻なことです。組織のデザインに瑕疵があるということだからです。

承認フローに抜けはないか、目的を達成するような現実的なものになっているか、様々な組織で経験を積んできた外部の専門家に定期的に監査を依頼することは大事です。フローの作成が監査対応のためだけ、になっている組織も少なくありませんが、本来らならリスク回避や合理的な意思決定に役に立つものです。

3つめの課題は、「広報」の影響力を甘く見すぎている、という点です。日本の組織は「広報は広告に比べたら適当にやっても平気だ」と考えていることがありますが、むしろ、広報だからこそ、広告よりも難しい、という認識がかけている印象があります。

ソーシャルメディア時代の今は、面白い広報であれば広告の数倍の効果がありますし、その一方で、差別的なものや、ジェンダー意識に欠けているものは、会社を潰すほどの破壊力を持ちます。普段の事業をどんなにまじめにやっていようとも、たった一つのツイートが大炎上したがために、とりかえしの付かないことになる場合もあります。

ICT女子プロジェクトは、真剣に検証するような価値すらないバカげた企画ですが、リスク管理とはなにか、広報とは何かと考える機会を与えてくれたという点では、素晴らしい企画だったのではないでしょうか。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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