ブロックチェーンはまずインフラ整備を、人工知能研究における日本の強みは「人間との関係」-伊藤穰一氏が語る現状と未来
2016.07.07
Updated by Asako Itagaki on July 7, 2016, 11:42 am JST
2016.07.07
Updated by Asako Itagaki on July 7, 2016, 11:42 am JST
先日開催された「DG Lab」設立発表会では、特に重点分野として取り上げるブロックチェーンとAIの現状と進むべき方向について、デジタルガレージ共同創業者でMITメディアラボ所長の伊藤穰一氏が語った。さまざまな示唆に富む話だったので、概要をかいつまんで紹介する。
ブロックチェーンについては、「1995年頃のインターネットと同じように、社会のインフラとしての大きな期待をかけられている状態」と評価。ビットコインはインターネットにおける電子メールのように、ブロックチェーンを普及させるキラーアプリケーションであり、インターネットがその後メディア、コマース、広告などに大きなインパクトを与えたように、ブロックチェーンは今後法律、金融、トラスト、保険などに大きなインパクトを与えるとした。
ただし、「技術レベルはインターネットでいえば1980年代前半、つまりTCP/IP的な規格もまだ確立していない」と指摘。「ルーターやインターネットサービスプロバイダーにあたるものがまだ出現しておらず、仕事に使うには早い状態」と表現した。つまりアプリケーション以前のインフラが整っていない状態だ。
「それにもかかわらずブロックチェーン関連の企業既に投資された1000億円のうち、かなりの部分は夢のアプリに投資されている状態」(伊藤氏)それよりも今は基礎研究、規格の検証、インターネットでいえばシスコ、スリーコム、IIJのような、インフラになる企業を育てるのが大事な時期であるとした。
インターネットとブロックチェーンの大きな違いは、「金融を対象とするブロックチェーンは、トラブルが発生した時に戻せないこと」と指摘。「インターネットのアジャイル開発は金融にはなじまない。より慎重になる必要がある」とした。
ブロックチェーン基礎技術開発には、金融、暗号、分散処理、ネットワーク、経済など、より幅広い分野の知識が必要になる。これらを理解しているビットコインとブロックチェーンの研究者はおそらく世界に数百人しかおらず、圧倒的に人材が不足している状態だ。DG Labでは、東京大学や慶應大学などの研究者と共に企業内の人材も育成したいとする。
AIについては、まず、「人工知能」として社会が想定するものと、実際に研究開発されているプロダクトの「ずれ」が生む問題について言及した。
「人工知能という言葉は古い言葉で意味があって意味がないような使われ方をしてきてしまうのでこのままでは使いにくい」(伊藤氏)「人工知能」と言われるものには自動運転などの特定の課題に対応する「機械学習」と、人間のように何にでも対応できるAGI(汎用人工知能)の2つある。アメリカでは我々が生きている間にAGIができると思っている人が多い。
機械学習には多くの課題がある。たとえば先日死亡事故が報じられたテスラの自動操縦システムは、動いている前のクルマにぶつからないためのアルゴリズムはできていたが、横から出てくる車は想定されていなかった。限られた難しい課題を解くのに機械学習はよくできているが、「人工知能で何でもできる」と人間が錯覚してしまうと間違いが起こる。
このことは開発者が「(人工知能で)開発された商品を社会に対してどう説明するか」メソッドを確立できていないこと、また社会の側も「人工知能のできることとできないことに対する感覚がない」という2つの問題の現れであることを伊藤氏は指摘する。しかし機械学習は既にネットワークに組みこまれている。Googleもカカクコムも機械学習を使っており、我々の日常生活にシームレスに機械学習は入り込んでいる。人工知能に対する投資も技術の進化も加速されている。
先日話題になったAlphaGoについては、「パターン数が多く計算不可能な課題に対し、ディープラーニングによるイメージ理解の後、自己学習によってどんどん強くなったことで、最終的に人間の直感に近い判断ができるようになった」ことを高く評価した。
「人間なら1万分の1ぐらいの確率でしか打たないような妙手を人工知能が打った。コンピューターが人間に勝ったら面白くなくなるのではないかと思っていたが、むしろ逆で、MITの囲碁クラブは大盛況だし、トッププロの棋士達も自分たちの感動と関心と楽しみが増えたといっている。歴史を変えるような試合をコンピューターができるというのはすごいこと」(伊藤氏)
「アメリカでは人工知能によってコンピューターが強くなり人間がいらなくなると言われているが、コンピューターは人間の世界に入って来る」という。日本のアニメではエヴァンゲリオンなど機械と人間が一緒になっていく作品が多くあるが、それがおそらく人工知能と人間の関係のあり方だと伊藤氏は述べた。
人工知能のアルゴリズムについてはGoogle、Facebook、Apple、IBMなどの米国企業がトップを走っている。日本の強みは、人工知能が人間とどうつながるか、どんなデバイスにするか、どういう性格にして、どう社会として理解するのか、つまり人工知能が社会の中でどう進化していくか、プロダクトとエッジのところに競争力があるとした。
「2流の人工知能、2流の機械学習なんて全く意味が無い。日本の縦割り感覚ではダメ」(伊藤氏)人工知能開発はオープンソースで進化している。可能性はたくさんあるが、日本は日本が得意なことに集中して取り組むのが良いとした。
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登録はこちらWirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。