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ロボホン・ハッカソン見聞録 小学生は人型ロボットをこう使う

2019.03.27

Updated by Ryo Shimizu on March 27, 2019, 04:52 am UTC

壇上の講師が「プログラミングしたことあるひと、手を上げて!」と言うと、30人の参加者のほとんどが手を上げる。
時代の潮目が変わった、と筆者は思った。

小学三年生から六年生までに限定して開催されたロボホンハッカソン。
新潟県長岡市を拠点とする株式会社AIUEOとシャープ株式会社の共同企画として催された。

シャープのロボホンのプログラミング環境をシャープの技術者自らが小学生に教え、その活用法をハッカソン形式で探らせる。全国でも稀有なイベントである。
これまで、新潟県長岡市では、ビジュアルプログラミング言語MOONBlockに始まり、手書きプログラミング環境enchantMOON、そしてPythonによるハッカソン、深層学習用PCであるDEEPstationによるハッカソン、昨年と一昨年はついにPythonとTensorFlowによるハッカソンを、小学生、中高生向けに開催してきた。いずれも募集が始まるとすぐに満席になる盛況ぶりである。

それでもこれまで同種の質問、すなわち「プログラミングしたことあるひと、手を上げて!」と聞いたときに、こんなにも多くの参加者の手が上がることなどなかった。こうした活動を初めてからかれこれ五年ほど経つが、明らかな変化である。これほどの密度でプログラミング経験を持つ子供が育つ環境は他にないだろう。

長岡市の教育委員会はロボホンのプログラミングを授業に導入している。持ち回り制だが、市内の全ての小学校で、ロボホンによるプログラミングを全員が体験する。このハッカソンは、そうした経験を通じて、さらにロボホンの活用法を知りたいという子供に向けた、いわば上級プログラムなのだ。

シャープとしても、ロボホンの講習会ではなく、ハッカソンを小学生向けに行うという機会はかなり珍しいという。
講習会では通り一遍のことを学んで入り口に立つだけだ。ハッカソンを経験してこそ、学んだ知識が知恵として昇華される。このイベントの狙いはそこにあった。

とはいえ、午前10時スタートで、午後2時30分に発表、という短時間で、果たして小学生たちにどこまでのことができるのか、筆者も主催側としてハラハラして見守っていた。
ハッカソンは基本的に初対面の人とチームを組んで行われる。分別のある大人ならともかく、多感な時期の小学生たちは果たして初対面の相手と仲良くプログラミングできるのかという不安もあった。

実際に発表を見てみると、それは杞憂であることがわかった。子どもたちは常に真剣に自分のアイデアをどのようにプログラミングするか考えており、それが見事に表現されていたのだ。

たとえばあるチームは、目覚ましロボットを作った。
これがすごいのは、ロボホンには本来、警報音を発する機能はない。そこで彼らは、ロボホンの音声合成機能のバグにも似た挙動を利用して、短い発音を繰り返し、アラームのように再生するテクニックを発見した。この目覚ましロボットを止めるには、ロボホンに音声認識で話しかけなければならない。

他にも、ロボホンのプロジェクター機能を活用した作品や、ロボホンの動きを活用した作品など、奇想天外な発想がその場で披露された。この光景はまさしく感動ものであった。

これでわかったのは、ロボホンのプログラミング教育、AI教育における可能性である。
実際のところ、ロボホンのプログラミング環境はお世辞にもリッチとは言えない。

しかし必要十分であり、特に小学生くらいの子供が操作することを想定すると、むしろ理想的であると言えるだろう。

ロボホンがプログラミング教育において理想的なところは3つある。

一つは、家電製品であること。実は家電製品であるロボットを直接プログラミングできる環境は極めて少ない。通常、ロボットのプログラミングといえば家電製品というよりはIoT機器だったり、それ自体が玩具だったりするのだが、ロボホンは曲がりなりにも「ロボット型携帯電話」として設計された家電製品であり、通常の使い方では滅多なことで壊れないようになっている。

もう一つは、人型をしていること。これは単純に目を引きやすいし、子供からすると「ロボットにどんな動きをさせたいか」を考えるのは、「画面に何を出したいか」を考えるよりも考えやすい。特に低年齢層は、身体性に強く反応するので、発想を引き出す上で人型ロボットであることは最大限のメリットになり得る。

最後の一つは、ロボホンが不完全であることだ。ロボホンの(不自由な)環境でプログラミングすることは、逆説的だが「ロボット(AI)には何ができて、何ができないか」ということを理解させる上でも大いに役立つ。たとえばロボホンは顔認識はできるが、イヌなどは認識できない。音声認識はできるがかなり機能は限定的である。そうしたところから「もっと○○できたらいいのに」という思考を子供の中に自然に芽生えさせる。このことが、結局は子どもたちをより高度なAIの学習へと導いていくきっかけになるだろう。

子供は「思い通りにできた」喜びよりも「思い通りにできない」悔しさのほうが心に残る。ロボホンによるプログラミングは不完全であるからこそこうした欲求を自然に発生させる。その意味ではAIの入門として理想的な環境だと思える。

ロボホンを教育用途に使うときの最大のネックは価格だ。
一体20万円というのは、ちょっと子供を教育したい、という動機で導入するにはどの学校にもハードルが高い。長岡市のように、教育委員会単位で数十台のロボホンを導入して、市内の学校で共有するというのが現実的な使い方になるだろうが、そうした取組ができる自治体が日本にいくつあるのか想像すると実に勿体無い。

ロボホンはマイナーバージョンアップを遂げ、価格も改定された。とはいえまだまだ高価である上に教育プログラムとセットでなければ十分な教育効果が発揮できないとすると、今の長岡市の状況は奇跡的な状況と言えるだろう。

短い時間のあいだに互いを全く知らなかった子供同士がアイデアを競わせ、プログラムとして表現し、壇上で発表する。そのとき彼らに浮かんだなんとも楽しそうな笑顔が、目に焼き付いて今も離れない。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。

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