ファナック株式会社 ロボット事業本部長 稲葉清典氏

ファナック株式会社 ロボット事業本部長 稲葉清典氏(後編)人工知能がグローバル化と自動化を両立する

ヒトとモノを巡る冒険 #001

2016.08.05

Updated by 特集:ヒトとモノを巡る冒険 on 8月 5, 2016, 12:23 pm JST Sponsored by ユニアデックス株式会社

製造現場では「コラボレーティブ・ロボット」による人とロボットの協調が実現しつつある――ファナック株式会社 専務取締役/ロボット事業本部長の稲葉清典氏に、同社のIoTに対する新たなとりくみ「FIELD system」について引き続きうかがいます。(インタビュー前編はこちら)(構成:WirelessWire News編集部)

ファナック株式会社 ロボット事業本部長 稲葉清典氏

稲葉 清典(いなば・きよのり)
ファナック株式会社 取締役専務執行役員 ロボット事業本部長。2009年ファナック株式会社入社。ロボット研究所でロボットの制御ソフトウェア及び学習ロボットの開発に従事。2013年5月ロボット研究所長、同年10月ロボット事業本部長に就任。2016年6月より現職。

クラウドが実現した「ZDT」がさらに進化する

山平:「FIELD system」発表後の、お客様の反響や反応はどういったものでしょうか。

稲葉:反応は非常にポジティブです。FIELD systemでお応えできるお客様のニーズの例を一つ具体的に挙げますと、「ゼロダウンタイム機能(ZDT)」があります。

機械を使っていて、もうそろそろ壊れそうだと分かっているのであれば、壊れる前に直したい、ですよね。動いていない時に交換して、その間に修復してダウンタイムを避けたい、稼働日でない時に交換して避けたい、というご要望が、元々非常に強くありました。

それに対して我々も1990年代後半くらいから故障予知と故障診断として取り組んでいました。5年位前からクラウドという概念が出てきて、それに対してCiscoと取り組みを始めて、外に情報を出していけるようになったのが約2年前です。これを利用して、「機構部の状態監視」「プロセスの状態監視」「システムの状態監視」「保守時期の通知」というサービスをご提供するのがZDTです。

山平:現在、ZDTにはどのくらいのロボットがつながっているのですか?外にデータを出すことに対して、我々が普段接している製造業の方々は、あまり好まれないように思っているのですが。

稲葉:そうですね、おっしゃる通り、最初はものすごく抵抗がおありだったと思います。一番のネックになっていたのはセキュリティ、情報漏洩のリスクは大丈夫なのかという点でした。

その点を解消するのは、ファナックだけでは到底難しかったと思うのですが、Cisco社と組むことによって、お客さまに安全性をご納得いただくことが出来ました。セキュリティが確立されたということで、自動車メーカー様に導入していただき、現在は7,000台くらいがつながっています。今年の秋には接続台数が10,000台に達する予定で、接続のペースが上がってきています。

製造業において、このような取り組みが量産ラインに適用されているのは、弊社のZDTだけです。世界的に見ても、自動車メーカーはそのような取り組みを各国で始めています。ヨーロッパやアメリカは、元々非常にその考えが進んでいましたが、1年半前くらいから日本や中国にも同じような流れが強まっています。その背景にあるのは、最近の「IoT」「インダストリー4.0」「中国製造2025」などの規格化の議論が活発になり、情報技術を製造業にどのように使っていくのか、次世代のものづくりをどのように考えるのか、ということについて各企業が真剣に取り組んでいるという背景があると思います。

人工知能の導入で、現場のロボット同士が「会話」し、連携していく

ファナック株式会社 ロボット事業本部長 稲葉清典氏

山平:FIELD systemを導入することで、そこで働いている人の環境や働き方、機械や協働ロボットとの連携も、変わっていくことになるのでしょうか。

稲葉:製造現場において、例外処理は当たり前のようにありますが、それを全てケース分けしてプログラミングすることは難易度が高い作業です。ロボットが例外処理を自律的に対応できるようになれば、作業できる幅が大きく広がります。そして、これまでのロボットは単体での動きを想定していましたが、今後は複数台のロボットが同時に動く、すなわち協調動作を行うことを想定しています。

人工知能の取り組みをプリファード・ネットワークス(PFN)社と取り組みを始め、去年の12月に、ロボット展で初めてアプリケーションを出展しました。

これはばら積みされた箱から、効率よくモノを取り出す作業をするロボットです。本アプリケーションでは、一回目の試行における取り出しの成功確率がサイクルタイムの重要な要素になります。勿論、二回目の試行ではかなりの確率で取り出しが成功しますが、試行回数を重ねる毎に、サイクルタイムをロスしてしまいます。

熟練した技術者は、モノを取り出し方に関連するパラメータを上手に設定し、取り出しの成功確率を高めます。この作業を人工知能に行わせたところ、技術者より性能が高くなりました。背景を考えてみると、人がロボットに取り出しの仕方を教示する場合には、上から取るとか、真ん中にあるものを取るとか、くっきり見えるところから取るとか、だいたい3〜5パターンくらいのルールを元に取り出すモノの取り出し方を決めます。一方で、このセットアップを、ディープラーニングさせた人工知能が行うと、1万件数以上の成功事例からモノの取り出し方を決めますので、引き出しの数が違う。そのような結果がでることは、必然性があるように感じます。

将来的には、「ばら積み取り出し」を複数台のロボットが協調しながら、行えるような機能を実現したいと考えています。一つの箱から、お互いが衝突せずに協調しながら、モノを取り出すことは非常に難しい技術です。例えば、毎回、モノを取り出す場所も変わってしまいますので、普通にプログラムしようとしたら、間違い無く衝突してしまいます。

山平:衝突するか、そういうプログラムが全く作れないか、どちらかでしょうね。ITでやるとプログラミングの9割が例外処理なんですよ。「取る」ということだけやらせたいのに「こういうことが起きたらどうするか」という例外処理だけで8〜9割になってしまう。

稲葉:そうですよね。弊社のソフトも、大きなものではないですけれども、それでもだいたい例外処理が7〜8割を占めています。例外処理をどのように対応するのかという点は、難しいところです。その部分を人工知能に任せてみたいと考えています。人工知能を使っていくことにより、ロボット同士がお互いに相手の状況を共有し、自律的に相手をかわしながら、取り出しが可能になります。FIELD systemに複数台のロボットが繋がっていて、人工知能が、「1番機、2番機が衝突しそうだから、このように避けなさい」と指令を出すことができるようになります。

そして、FIELD systemプラットフォームのポイントになっているのは、機械同士の会話スピードが非常に速いことです。クラウドは我々も必須だと思っているのですが、問題は応答速度で、クラウドまでデータを上げて指令を戻すとそれだけで0.5秒位はかかります。機械の協調動作には数ミリ秒の応答速度が要求されます。例えば、先程のばら積み取り出しを複数台で行う場合には、0.5秒後にお互いが避けるという情報を受け取っても、情報を受け取った際には、衝突をしている可能性の方が高いです。工作機械も同様に、非常に早い会話のスピードが要求されます。現場レベルの話になると、この応答速度を実現するためには、エッジ側、下側で処理しないと実用的に難しい、と感じました。結果、フォグに実装した人工知能が現場をコントロールする「エッジヘビーコンピューティング」という概念を入れました。

▼エッジヘビーコンピューティング
エッジヘビーコンピューティング

製造業の現場が直面する、グローバル化の未来図

山平: IoTや人工知能というキーワードも出てきましたが、この5年くらいで「こういうことが実現されるだろう」という、今見えてらっしゃる光景はどんなものでしょうか。

稲葉:我々の製造業の観点からいくと、グローバル化が進んでいることを感じます。生産地が異なる中でも、同じクオリティは要求されます。どのように、コストを抑えてクオリティを維持していくのかということは大きな課題です。生産地ごとに調達できる機器、作業者の技術レベル、文化も違います。クオリティを維持するためには、ある程度の現地に合せたカスタマイズが必要になります。しかしながら、カスタマイズを進めすぎると、コストパフォーマンスが悪化してしまうという、トレードオフの問題があります。
この問題を消費財は非常に上手に解決していると思います。PCを考えてみると、用途に応じアプリケーションをダウンロードして、同じ筐体で使用者毎に、カスタマイズできます。ハードウェアでも、マウス、キーボード、プリンター、それぞれを用途に合わせてつなぎ、カスタマイズすることができます。FIELD systemにより、そのようなカスタマイズ化を、製造業においても実現させたいと考えています。技術力を持っているものづくりの会社が、この技術を用いて、どこでも戦っていけるような環境を整えていくことが、我々の重要な使命だと考えています。

異分野、業界外の企業とビジネスパートナーとして協業する

山平:CiscoやPFNのお名前が出てきましたけれども、他にも複数の企業様と取り組まれているかと思います。そのような活動を始められて、どう感じてらっしゃいますか。

稲葉:そうですね、まず、皆さん、それぞれの技術がすごい。もちろん到底我々が持つことができない技術を持ってらっしゃるからこそ、一緒に組ませて頂いているので、当たり前のことかもしれませんが(笑)、あらためて実感します。

我々が今から人工知能やAIで最先端のレベルまでいけるかといえば、難しいと思います。同様に、ネットワークの技術を極めようということも難しいと思います。その意味で、仲間がいるということは、非常に心強く感じます。

最初のころは、お互いの使用している言葉の違い、すなわち、言葉が分からないことに戸惑いました。また、スピードの感覚も投資の感覚についても、「違い」というものは感じました。業種が変わるとこれほどまでに考え方が異なっているのか、ということを実感したことは良い経験になりました。

このギャップを少しずつ、埋めて行き、違和感を感じることはほとんどなくなりました。先ほど申し上げた通り、技術に関しては非常に心強い。これだったら、いけるぞ、と確信しています。

山平:最後に、我々のようにICTサービスにたずさわっている企業に期待されているところがあれば、お伺いしたいと思います。

稲葉:今後、ICTの技術は更に重要になり、製造業に於いても、他の業界と同様に必須になるでしょう。しかし、どの業界でもそうだと思いますが、ICTがメインになる形ではないと思うんですね。やはりあくまでも製造業があって、そこにICTをうまく融合させる必要があると思います。ICTの技術を持つ方々の中で、製造業に興味を持ち、理解してくださるパートナーの方々が、今後も増えていってくださることを非常に期待しています。そして、その方の力がきっと今後の世の中のものづくりを変えてゆく原動力になると思います。

山平:有り難うございました。

IoTの実現に向けたユニアデックスの取り組みはこちらをご覧下さい。

稲葉清典/山平哲也

【聞き手】山平 哲也
ユニアデックス株式会社 エクセレントサービス創生本部 プロダクト&サービス部 IoTビジネス開発室長
企業向けシステムエンジニアとしてキャリアをスタートし、インターネット普及に伴いIPネットワーキング技術などを担当。2001年に米国シリコンバレーにおける拠点立ち上げ。2007年からICTソリューションのマーケティング企画部門を経て、現在、IoTを中心としたエコシステム構築とビジネス創造を推進している。
山平哲也氏によるインタビュー“あとがき”は、ユニアデックスのオウンドメディア「NexTalk」をご覧ください。

写真:宮地たか子

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ユニアデックスは、IoTで新たな価値を創造すべくさまざまな取り組みを進めています。本特集では、エクセレントサービス創⽣生本部 プロダクト&サービス部 IoT ビジネス開発室⻑である山平哲也が、「モノ」「ヒト」「サービス」の 3 つの分野で先進的な取り組みをされている企業様へのインタビューを通し、IoTがもたらす未来と、そこへ至る道筋を描きだすことに挑戦します。(提供:ユニアデックス株式会社

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