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「自動運転前提」社会と日本の選択

2017.01.05

Updated by WirelessWire News編集部 on 1月 5, 2017, 07:20 am JST

内閣府がまとめた2060年までの労働力人口予測によると、出生率が大幅(2.07)に改善し、女性や高齢者の労働参加が進んだとしても、2013年から2060年までの約50年間に約1170万人の労働力人口が減少すると予測されている。2013年から2030年までの約20年間でも約292万人の労働力人口の減少が予測されている。

既に労働力の確保が課題となっており、将来さらに深刻になると予想されるのが、トラックドライバーである。2010年の段階で約2.9万人が不足していると指摘されていたが、2030年には約8.6万人が不足すると指摘されている。これはネット通販の普及に伴う運送需要の増加などが背景にある。しかし将来的には、都市部でのきめ細かい運送サービス(例えば、「注文から1時間以内の配送」など)が難しくなるかもしれない。山間部などの過疎地では、そもそも配送サービスが不可能な地域も顕在化するだろう。

日本の人口減少の特徴は、人口が減少しながらどこか生活利便性の高い都市部に人口が自然と集積するということではなく、現在の人口分布を前提に人口密度だけが過疎化し、結果としてスパース(疎)な地域構造が出来上がってしまう点にある。同時に、老朽化が進み維持管理コストが嵩む道路・鉄道・橋梁・トンネル・上下水道などの社会インフラは、どの地域のどの社会基盤を維持するかの「選択と集中」が迫られることになる。そこで優先順位の低いと判断された地域の社会基盤は、これまで通りには維持管理されなくなり、結果として医療・買い物・教育へのアクセスが困難になるという「負のスパイラル」が出来上がってしまう。恐らく、過疎地においては、病院は存続するだろうが、商業施設や学校は消滅或いは統廃合されるだろうから、それを前提とした地域づくりを進めていかなくてはならない。

図:スパース(疎)な地域構造(図版はこちらでご覧ください

こうした背景から、都市計画の分野では人口減少局面で都市部のコンパクト化と縮退(スマートシュリンク)が注目されてきた。しかしそこに、第四次産業革命のようなイノベーションの要素を加えたとき、我々が取るべき都市・地域戦略は、全く新しいものになるだろう。(1)農村部や過疎地では、ロボティクスやドローン、AIやビッグデータを活用した第一次産業の促進と生活基盤の維持が必要となる。食料安全保障の観点からも、ロボティクス等を活用した食料自給率の改善は取り組むべき課題である。(2)都市郊外部では、鉄道沿線などへの市街地のコンパクト化を進めながら、新しい働き方(高齢就業者の副業解禁、若年労働者のサバティカル取得など)、(都心と比較して相対的に地価が低いことを活用した)ロボティクスやドローンなどのベンチャー育成などが必要となる。(3)都心部は、常住人口だけでなく、富裕層を中心とする観光客や留学生、ビジネスマンなど交流人口も増加すると予想される。「21世紀は都市の時代」などと言われていることから、都市中心部では都市全体の国際的なプレゼンスを高めるために、新技術のショーケースとなるライフスタイルを提供しなくてはならない。

市街地のコンパクト化やロボティクスの導入は、都市政策や経済産業政策の分野でそれぞれ個別に議論されてきたことであり、そこに目新しさはない。しかし自動運転技術を前提とした都市・地域戦略について、これまで十分に論じられてきたとは言い難い。

要は、自動運転技術を始めとする新しい技術イノベーションを眼前にして、我々は選択肢を突きつけられているのである。それは、「日本は大国になりたいのか」ということである。

選択しうる戦略的オプションはおよそ3つだろう。(1)政治的にも経済的にも世界的な影響力を行使しうる「大国」になる。(2)国としての政治的・経済的影響力は持たないが一人ひとりが成熟し経済的にも豊かな国になる。(3)世界的に影響力を持つ国になることを諦めるが一定の経済水準と技術力の高さは維持する。いずれの戦略においても、日本が持つ世界的な技術水準を維持・向上させるという点は共通すると考えて良い。

戦略(1):GDPトップ5を維持
減少する労働力人口を補うために、生活や労働を補助するロボットやAIだけでなく、海外からの移民も受け入れることが必要となるだろう。移民の受け入れには社会のダイバーシティ(多様性)をもたらし経済を活性化させるという利点がある一方で、海外移住者を地域に定着させるためのコストは莫大となる。低い水準で経済成長を続ける日本の場合、このコストが経済成長を上回ることになる懸念がある。

他方、大国であれば、第四次産業革命において技術革新や社会イノベーションにおいて世界を先導できるという大きな利点がある。しかし自動運転の要素技術なども、技術力がある多国籍の企業が集まって開発されている現状では、技術力に関して国が先導するというロジックは、やや時代遅れといえよう。

戦略(2):一人あたりGDP上位をねらう(GDPは上位でなくて良い)
より現実的な戦略であるといえる。この戦略を選択する場合には、労働生産性を飛躍的に向上させなくてはならないが、GDP総額の増加を意図しないのであれば、人口の維持や増加に支払うべきコストを支払う必要がないという利点がある。そしてこの場合、技術イノベーションの先導役を米独中など他国に任せつつ、技術の利用者に徹することもできるが、「安全・安心」など世界的議論が必要な領域においてイニシアティブを持つために、技術外交で求心力を発揮できるかが、この戦略の鍵である。

また一人当たり所得の平均値を向上させつつ、所得のばらつき(所得格差)をできるだけ縮小させなくては、社会の安定性を担保できない。生産性を向上させるための、必要最低限のロボティクスやAIの導入も必要となる。少し乱暴に言えば、合計特殊出生率を1.5から2.1程度に回復させ労働人口を増加させたのと同程度の生産力を、ロボティクスや自動運転技術に担ってもらう必要がある。

戦略(3):GDPも一人あたりGDPも上位でなくて良い
これを選択した場合に日本がどうなるのかについての想像力を、残念ながら筆者は持っていない。この場合は、もはやG7でもいられなくなるだろうし、自動運転技術など導入できなくても、国際社会で生き残っていけるだろうから、そもそもこのシリーズで議論を展開する上では意味のない選択肢かもしれない。

冒頭に内閣府による労働人口の将来推計の数値を持ち出したが、内閣府は2100年ころまでの将来人口推計も取りまとめている。これによれば、日本の総人口は2100年には5000万人を割り込む水準になると推計されている。人口半減どころか、人口半減以下、である。因みに医療費の増加などで問題となっている人口高齢化は、筆者を含む「団塊ジュニア」が死亡するであろう2060年をすぎると「高齢化」の状態を過ぎ、定常的に「高齢社会」状態となる。(従って医療費増加抑制の議論は2050-60年頃までのことを考えていれば良い)

2050年や2060年と聞くだけでも、随分先の話のように聞こえるかもしれないのに、2100年の話を持ち出すとまさしく「鬼が笑う」かもしれない。しかし考えても見れば、我々の子供世代、少なくとも今の小学生低学年以下の年齢層の多くは、確実に2100年を生きるだろう。その意味において、2050年や2100年の社会のあり方について考えることは、決して他人事ではない。2030年ころまでには「レベル4」の完全自動走行の自動運転車両が普及しているだろうが、国土構造や人口動態を考慮すれば、その先を見据えた戦略策定が求められる。

文:古谷 知之(慶應義塾大学 総合政策学部教授)
※本稿は『自動運転の論点』に掲載された『「自動運転前提」社会と日本の選択』の一部を抜粋し、編集したものです。図版も含めた全文はこちらでお読みください。

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