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センシング技術に加えてつなぐ技術を活用、デンソーが自動運転に向けた技術開発を説明

2016.08.18

Updated by Naohisa Iwamoto on August 18, 2016, 06:40 am JST

デンソーは2016年8月10日、報道関係者向けに高度運転支援・自動運転分野の技術開発について説明会を実施した。これまで培ってきたセンシング技術に加え、運転する人間に対して情報を提供するHMI(ヒューマンマシンインタフェース)、社会インフラとつなぐための情報通信を組み合わせて、安心・安全を確保することを目指す。

説明会に登壇したのは、デンソー ADAS推進部長の松ヶ谷和沖氏。ADAS推進部は、研究開発から製品への仲立ちをする部署として、2016年1月に発足した会社直轄の組織だと説明があった。松ヶ谷氏は、デンソーの安心・安心のコンセプトとして「いつもの安心、もしもの安全」を紹介した。

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「これまで、高度運転支援や自動運転の技術としては、緊急時の危険回避といった“もしもの安全”に重きが置かれてきた。しかし、1つの重大事故には潜在的なヒヤリハットが数多くあるというハインリッヒの法則が示すように、潜在的に隠れているヒヤリハットに対してサポートする“いつもの安心”も重要だ。デンソーでは、緊急時の“もしもの安全”だけでなく、クルマに乗っているあらゆるときに事故が起こらないように通常の運転を情報提供、操作代行でサポートする“いつもの安心”をセットにして提供する」(松ヶ谷氏)。

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デンソーでは、この「いつもの安心、もしもの安全」のコンセプトを実現するために総合的に技術開発を行っているという。対象としては、4つの分野を掲げた。人間そのものの観察まで立ち戻った「基礎研究・調査・分析」から、認知、判断、操作がかかわる「クルマ」、クルマに乗ったときにドライバーがすぐわかるHMIなどを研究する「人」、クルマが情報通信を介してつながる「社会・インフラ」--である。

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松ヶ谷氏は、システムを実現する製品とその役割を、クルマからの距離を軸にして紹介した。「クルマの中に向けては人とのインタフェースとなるコクピットシステム、メーターやHUD(ヘッドアプディスプレイ)、ドライバーの状態を検出するDSM(ドライバーステータスモニター)を研究開発している。また自律センサーもクルマの中に取り付けられている。クルマから100m以内を考えると、周辺環境センサーが求められる。レーダーやカメラ、ソナー、レーザーで対象を検出するLIDARなどの走行環境認識製品を開発、提供している」。レーダーやカメラ、ソナー、LIDARにはそれぞれ得手不得手があり、複数のセンサーを組み合わせることが安心、安全のためには求められると説明があった。

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一方で、100mを超えて1km、10kmといった距離になると、こうしたセンサーをいくら優秀にしても、情報を入手することは難しくなる。そうした距離では、「インフラから情報を入手する必要が出てくる。情報通新製品として、ロケータや車車間および路車間の通信を指すV2X、ETC2.0、無線通信モジュールのDCMなどが必要になる」と指摘する。

「V2Xは、Vehicle to Xの意味で、クルマ相互や、クルマと道路上のインフラなどが通信することを意味する。ビル陰などの見通し外、前の車の急停止、交差点での衝突回避、追い越し禁止道路でのはみ出し走行などは、センサー技術だけでは検知が難しい。通信でクルマ相互、クルマと信号機などが通信することで、すぐに警報を出すことができる」(松ヶ谷氏)。例えば、パトカーや救急車が来たら、その側の信号を青にするといった制御が可能になる。また、前のクルマのABS(アンチロックブレーキングシステム)が作動したら、後続のクルマにスリップしやすいことを伝えれば危険回避ができるという。

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デンソーでは、1996年からV2Xを対象とした高速無線LAN無線機のプロトタイプを開発してきたことを紹介し、無線通信機器の分野でも研究開発の歴史が長いことをアピール。また、700MHz帯のV2Xの実習お実験機を開発し、国内での各社の通信実験で利用されてきたことから、標準規格の策定にも貢献してきたという。

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2025年に向けた挑戦として、松ヶ谷氏は「ポイントとなるのは、クルマだけではなくて、クルマがつながったネットワークの世界の構築。クラウドにどんな機能をもたせ、クルマがどう連携していくのかを今後は考えていきたい。クルマをセンシングして、つなぐ技術を活用して、どうやって広げていくかが我々のチャレンジ」と語る。さらに高度運転支援から完全自動運転も視野に入れた今後の取り組みとして「一番重要なことは、逆説的だけれど、どこまでが限界かを正しくユーザーに伝えることだろう。完全自動運転はいつ来るかわからないが、人間よりも自動運転が賢くなったとしても100%の安全は確保できない。HUDなどのインタフェースを活用して『ここから先は危険ですよ』と、限界を正しくトライバーに伝えて安全を確保する技術の確立が必要だ」と、安心、安全の未来像を指摘した。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。