レンジャーシステムズ 執行役員 木村秀一氏(前編):データを集めてなんぼのIoTだからこそ、ハードのコスト削減が普及に必要
日本のIoTを変える99人【File.015】
2016.09.20
Updated by 特集:日本のIoTを変える99人 on September 20, 2016, 17:37 pm JST
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レイヤー2接続型のMVNOプラットフォームサービス「わくわくモビリティ」を提供するレンジャーシステムズが、IoTコネクティングサービスに乗り出した。その名も「monoコネクト」。同社がIoTに目をつけた理由や、IoTビジネスに求められる条件について、同社執行役員 monoコネクト事業部 部長の木村秀一氏に尋ねた。
IoTについては、いまさら私が説明することもないでしょうが、様々なモノにセンサーがついて、インターネットにつながり、サービスにする――というところが基本的なコンセプトになるでしょう。ただし、幅広い業界で取り扱われる以上、それぞれの業界によって捉え方が異なっているのも事実だと思います。
私がいわゆるIoTにかかわるのは、前職から通じておよそ4年目になります。ちょうど日本にBLE(Bluetooth Low Energy)を使ったビーコンが入ってきたころです。BLEビーコンをきっかけとして、IoTに着眼しました。そのころ、日本で流行していたのが、O2O(オンラインツーオフライン)マーケティングの拡大の動きでした。当時のO2OマーケティングではWi-Fi(無線LAN)を使って、アクセスポイントの識別IDであるSSID別にエリアを作ろうと考えていました。しかし、Wi-Fiだと電波が広く飛んでしまい、必要なところに適切なO2Oマーケティングのためのエリアを作るのが難しかったのです。
そこに登場したのがBLEビーコンでした。BLEはWi-Fiに比べるとエリアが限定でき、特定のエリアでサービスを提供しやすいわけです。BLEビーコンならば消費電力も少なく、Wi-Fiのように電源を用意しなくても、電池で長期間利用できます。まさにO2Oにとって夢のデバイスでした。
でも、今になって振り返ると、BLEビーコンを使ったO2Oサービスは、まだ陽の目を見ているとは言いかねます。実際にはBLEビーコンでO2Oサービスを提供するとしても、デバイス側の都合だけではなくて、ユーザー側のマインドを変える必要があったわけです。例えば、スマートフォンの利用者にBluetooth機能をオンにしておいてもらわなければならないのですが、そうしたハードルが高かったと感じています。その時O2Oは、BLEを使ったIoTのソリューションとしてどうかな?という疑問が高まってきました。
そうした中で、1つの着眼点を得ました。それが「見守り」でした。BLEデバイスの情報を、BLEゲートウエイを通じてネットワークとやり取りし、見守りサービスとして提供するというものです。約4年前、まだ日本にほとんどなかったBLEゲートウエイを作りました。すると、お客様の反応はO2Oマーケティングとは比較にならないほど良いものがありました。
日本のマーケットでは、BLEデバイスはゲートウエイと組み合わせたサービスに需要があと確信し、事業の方向をシフトしました。その後、見守りサービスや人の動線管理サービスなど、BLEビーコンとゲートウエイを組み合わせたサービスの提供にこぎつけました。
前職では、デバイスを提供する側として、ニュートラルにお客様と対面してきました。約300社のお客様とBLEデバイスを使ったサービスについて話をし、そのうちの3分の1ほどのお客様とはフィールド実験を行ったり、実際にお金を頂戴してサービスを提供したりすることになりました。
しかし、ここでも問題が見えてきました。BLEデバイスを使ったIoTサービスで、「有効性が確認できた上で、儲かった」という話をあまり聞かないことです。儲からないのでは、ビジネスになりません。見守りや動線管理といったサービスが、IoTの進展で安価に実現できるようになってきたわけですが、それでも費用対効果が見えにくいのです。
実際にIoTサービスに興味を持っている企業はとても多いと感じています。「IoTサービスで何かできないか?」と相談に来るお客様は多いのですが、言葉に実態が追いついていないのです。そこを乗り越えて、実際に検証段階に入った企業は、次にコストの問題にぶち当たります。主にハードウエアのコストです。
IoTはデータを多く集めてなんぼというビジネスです。センサーの数が多ければ多いほどたくさんのデータが集められて、より良いサービスを提供できます。しかしセンサーが直接的に広域ネットワークにつながるモデルは、非常に高コストです。そこで、広域ネットワークとセンサーの間を中継するゲートウエイの活用が浮上します。ゲートウエイ1台で複数のセンサーを収容し、コストを引き下げる方法です。コスト削減に効果があるゲートウエイであっても、1台当たり3万円から5万円といった値付けが相場です。こうしたコストは、多くのゲートウエイを設置するときの阻害要因になります。一方で、導入企業が直接の売上につながらないような「おもてなし」に活用しようとするときにも、高コストは導入に二の足を踏ませることになります。
私自身は、3月にレンジャーシステムズに着任しました。弊社社長(代表取締役の相原淳嗣氏)と前職で同じキャリアにいたことが1つのきっかけです。レンジャーシステムズでは、MVNOのプラットフォームサービスを提供していますから、IoTのアクセス部分も含めたワンストップのサービスが提供できると考えました。センサーからモバイルのゲートウエイの部分を提供することで、IoTのエンドツーエンドのソリューションを提供できるのです。
レンジャーシステムズで開発したのは、各種センサーとゲートウエイです。それまでの経験から、IoTの普及には、第一に安いゲートウエイが必要だということがわかっていました。前職でもゲートウエイは3万円程度の価格で提供していました。センサーが1000円といった価格帯なのに、ゲートウエイが1台3万円では高すぎます。日本の製品は頭が良く、たくさんの機能が実装されているのですが、当然その分コストが高いのです。本当に必要な機能は何なのであるかということをもう一度考え、レンジャーシステムズでは余計な機能は削って1万円以下のゲートウエイを目指しました。
monoコネクトでは、センサー側の通信にBLEを、ネットワーク側の通信にWi-Fiを使うBLEゲートウエイをまず初めに開発しました。Wi-SUNやZigBEEといった無線通信規格には対応しませんが、BLEに特化しデータを送る最低限の機能のみに割り切ることで開発コストを抑え、1万円以下を実現しました。低価格ですが、遠隔管理機能やフィルタリング機能は実装しています。
実際に低価格のゲートウエイは好評で、様々な実験が始まっています。ゲートウエイ1台が1万円以下で、センサーを数台設置しても、合計1万数千円ならば、小規模の実験を手軽に始めことができます。コスト問題でアイデアの実現が止まってしまわないように安価なゲートウエイを提供することは、1つの成功を見ました。一方、ネットワーク側にモバイル通信を利用したいという声も多く聞かれます。Wi-Fiよりも自由度が高く、ネットワーク回線を確保できるためです。こうした声に対応できるように、2016年10月末にはLTEカテゴリー1に対応したBLEゲートウエイも製品化する予定です。こちらは1万4000円前後ぐらいの価格設定になってしまう予定ですが、早期に1万円を切れるように努力していきたいと思います。
monoコネクトを開発するときに、それまでのお客様との話からフィードバックしたことがコスト以外にもう1つあります。それが、クラウドなどのプラットフォームの利用の自由度です。多くのIoTサービスでは、デバイスからクラウドプラットフォームまでを一括して提供しています。利用者にとってワンストップで便利な側面もありますし、提供する事業者にとっては売り切りではなく月額でサービス料金が入る魅力があります。
しかし、特定のプラットフォームの利用が決められてしまうと、ユーザーにとっては意図しないプラットフォームがシステムの間に挟まる危険もあります。クラウドを使うためのAPIに対応する必要があったり、クラウドサービスの要件により機能制限がかかったりするようなケースです。これではお客様のことを考えたサービスとは言いがたいです。monoコネクトでは、Microsoft Azureであれ、AWSであれ、自社のサーバーであれ、データの送信先を任意に設定できるようにしました。ゲートウエイに設定するだけで、自由なサービス設計ができるのです。
コストとサービス設計の自由度という2つの課題を、レンジャーシステムズのmonoコネクトではクリアできたと自負しています。大企業ではアイデアや発想を具現化するのはなかなか難しいものですが、ベンチャーはチャレンジすることが使命です。みんなが発想しないことをやれる面白さがあり、IoTの普及への一歩はこうしたベンチャーのチャレンジから進んでいくと感じています。
(後編に続く)
構成:岩元直久
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